天才の厄介さ
念のため暴風の魔術で地下に空気を送り込み、地下空間の酸素を確保すると、ゆっくりと地下空間に足を踏み入れていった。
索敵によって内部を確認していくと、その内部構造は単純、あらかじめエトラが記載した通りのものだった。
そして地下の一室には確保されている精霊術師、数もあらかじめ知らされていた通りだ。
ここまでは順調、だが康太が知ろうとしていることは捕まっている者の素性や安否ではない。
「トゥトゥ、精霊術師たちを頼む。敵がまぎれてる可能性もあるから気を抜くなよ?」
「被害者なんだから優しくしてやってもいいんじゃないのか?てかお前はどうするんだよ」
「潰した連中はそこまで強くなかった。なんかもう少しある気がするんだ」
「調べものか・・・水でビシャビシャにしちゃったけど」
「そのあたりは気にすんな。ここのある程度の調べが終わったら外の連中の援護に行く。サニーさん、今の内に協会と連絡を取って調査用の人間をここに呼んでくれますか?ここを徹底的に探ります」
「わかったわ。ちょっと待ってて」
サニーと倉敷にそれぞれ指示を与えた康太は、あの時アリスに見せられた光景を思い出す。
とぎれとぎれの記憶の中に、目の前に広がる光景と重なる場所がいくつかあった。ここがあの男が見た場所と同じであるのは間違いない。
問題は、この先、この扉の先だと康太は理解していた。
扉には鍵がかかっていた。物理的な鍵など康太にとっては意味をなさない。扉そのものの部品を分解し、扉を強引に開くと、康太はその先にあるものを見て目を細める。
そこにあったのは方陣術だった。今まで見たことのない術式で、この状態で解析するのは康太にとって時間が必要となる。
しかもこの方陣術は、康太が今まで見たどの方陣術よりも、どこか異様な雰囲気を放っていた。
見た目がめちゃくちゃで、法則性も何もあったものではない。今は魔力が流れていないために非活性状態だが、その状態においてもどこか威圧感を放っている。
康太の勘が告げている。これは危険だと。この方陣術は危ないと。
破壊するのなら今の内かとも思ったが、貴重な情報を廃棄するのももったいない。何枚か写真を撮った後で康太は部屋の中を見渡す。
部屋の中にはいくつもの衣服が残っていた。誰かが脱ぎ散らかしたものだろうかと思いながらそれらの衣服を掴む。その衣服の中に、どこかで見たことのある物が混じっていた。
どこで見たのか、その記憶をたどると康太は思い出す。
あの男の記憶だ。あの男の記憶の中で見た、部屋の中に入れられていた人間の衣服。
それがこの場に捨てるように放置されている事実、そして問題なのはあの時記憶で見た男がこの地下にいないということだ。どこへ行ったのか、何をされたのか。康太が考えても答えは出なかった。
情報を聞き出すのには時間がかかるかもしれないなと考えていると、通話状態だった晴と明からの声が届く。
『先輩!あと一分後に敵が来ます!』
『私たちと接触次第交戦に入る形です!数は三!』
どうやらのんびり調べ物をしている時間はなさそうだと、康太はため息をついて立ち上がる。
もう少しこの場所を調べたかったが、協会の人間をこの場に呼ぶ以上、露払いはしておかなければ面倒なことになる。
「了解、こっちは片付いた。すぐにそっちに援護に向かう。少しの間もたせろ」
『了解です。早めにお願いします』
『わかりました。できる限り頑張ります』
二人の返答に薄く笑みを浮かべながら康太は一度部屋を出る。
「おいビー、この人ら全員気絶してる。どうやって連れてく?」
「話はあとだ。敵が増えるぞ。三人だ。俺らで外の援護に行く。サニーさん、協会の連中はあとどれくらいできますか?」
「えっと、あと三十分は待ってほしいって言ってるわ。すぐには来られないみたい」
三十分。この建物の立地を考えると妥当なところだろうか。それでも三十分でこの場所に来られるだけましと思うべきだろう。
三十分間この場所をこの状態で保持しておけばよいのだ。それをできるだけの戦力はあると思いたい。
問題は外にいる四人だ。追加で現れる三人がどの程度の実力なのかは知らないが、この状況になってから現れたということは何らかの異常を察知しているとみて間違いない。
何より建物に直接向かわずに外にいる四人を狙ったというのがきな臭い。
「ハレ、接敵までの間に可能な限り相手の情報を集めて常に俺に伝え続けろ。メイはほかの場所から敵が来ないかを索敵し続けろ。協会の人間以外がこの建物に近づくようならその都度報告」
『了解です。相手の魔術は射撃系、ですが暗くてよく見えません。光属性で隠しているのかも』
『わかりました。五分後まで、建物に接近する影はありません。引き続き予知します』
予知の魔術を使って情報収集をしていく中、康太は少し迷っていた。倉敷とサニーを連れて、追加でやってきた魔術師たちを即座につぶすか、あるいはこの場に残して防衛を頼むか。
考えている暇はない。少なくともこの場には被害者の精霊術師もいるのだ。もし目が覚めてパニックにでもなられたら面倒である。
本当ならば連れて行きたかったが、状況が状況だ。康太は内心舌打ちしながら地上への階段へと向かう。
「トゥトゥとサニーさんはこの場の防衛、敵が仮に来ても押し返せ。この場所だけは死守しろ」
「了解。なんかやばいものがあったんだな?」
「あぁ、支部の人間が来るまでここを守ってくれ。解析させる」
「任せろ。外の連中を蹴散らしてさっさと戻って来いよ」
「・・・そう簡単にうまくいくといいけどな」
康太たちがこの建物の近くにやってきてまだ二十分と経過していない。そのタイミングでこうやって後続が襲い掛かってきたということはつまり、この襲撃を予想していたか、あるいは康太たちを追跡してきた可能性が高い。
康太の視線に関する感知能力はかなり高い。索敵の範囲内に入っていなかったとしても、視線に敵意か殺意が含まれていれば索敵の範囲外だろうと知覚できる。
単純に康太たちに視線を向けていなかっただけという可能性もあるが、増援が来るタイミングが良すぎるのが気がかりだった。
「万が一の時は援護頼む。この場所に敵が来ないとも限らないから警戒は怠るなよ?」
「わかったって。なんだよ心配してくれてるのか?」
「今回は俺らだけじゃないからな。心配もする」
一緒にいるサニーに一瞬視線を向けてから康太は地上への階段を駆け上っていく。
地上部分に出た康太はあらかじめ破壊していた壁から外へと飛び出る。
噴出の魔術とウィルの合わせ技で上空まで跳び上がると、外にいた四人の方角に目を向ける。
すでに戦闘が始まっているのか、障壁と攻撃魔術が次々展開されてく。
四人から少し離れた場所に三人の魔術師。
射撃系の攻撃がメインになっているようではあるが、問題なのはその手数だ。ほぼノータイムで魔術を連発している。
おそらく高い素質を持っている魔術師なのだろう。
素質の低い魔術師特有の息切れを起こさないということはつまりそういうことだ。連続して魔術を使えるだけの魔力供給量がある証である。
素質の高い魔術師が正面から攻撃し続け、残りの二人のうち片方が障壁を展開し防御を、片方が左右から襲い掛かるような形で射撃系魔術を繰り返している。
対して土御門の双子も決して負けていない。といっても防戦一方ではあるが。
攻撃が来る方向とタイミングを的確に予知し、障壁の魔術で防御する。攻撃をしない代わりに的確な防御で相手の集中力を削ぐつもりらしい。
今のところ防戦一方ではあるものの、かなり余裕があるように見えた。
防戦一方だからこそ余裕があるのだろう。これで攻撃をしていたらおそらくどこかにほころびが出るのだろうなと康太は判断していた。
このまま四人に任せていても勝つことは可能かもしれないが、そこまで待ってやるほど康太も暇ではない。何よりほかの援軍がやってくる可能性だって十分にあるのだ。相手の都合に合わせてやるつもりは毛頭なかった。
康太は装備の一つを取り出すと防御態勢に入ったままの魔術師たちに向ける。
狙われていると気付いたのか、魔術師たちは康太のいる方向にも障壁を展開して防御を固めていた。
どうやらこの場所も索敵範囲に入っていたらしい。康太は苦笑しながら装備の一つを開く。
そこに入っているのはいつも使っている炸裂鉄球の弾丸と同じだ。ただ一つ違うのは、通常のそれよりも少々小型だということくらいだろうか。
噴出の魔術によって順次射出された鉄球は、魔術師たちのもとへと収束の魔術によって誘導されていく。
単調な射撃魔術であると判断したのか、魔術師はさらに遠くに薄い障壁を展開する。
二重の障壁、康太の射撃魔術を警戒してのことだろうが、今回に限っては意味がなかった。
連なるようにして続く鉄球は、蓄積の魔術によってさらに加速し、薄い障壁を易々と貫通する。
だがその先にある分厚い障壁を貫通できるほどの威力は今の鉄球にはない。もう少し大きければ話は変わっただろうが、今使っている鉄球は通常のそれよりも小型だ。
だがそれでよかった。
康太が二つの魔術をほぼ同時に発動するとそれは起きた。
先頭の鉄球が障壁にぶつかった瞬間、鉄球が瞬くように発光し、次の瞬間に周囲に強力な衝撃を伴って障壁を吹き飛ばした。
そしてその吹き飛ばされた鉄球の勢いに負けず、続く鉄球たちが障壁の内側、つまり魔術師のすぐそばまで襲い掛かっていた。
康太は再び同じ要領で魔術を発動する。
魔術師たちはとっさに身近に障壁の魔術や土の壁を作って防御しようとするが、すでに遅かった。
襲い掛かった鉄球すべてが一瞬光ったかと思えば、周囲に強力な衝撃波を放ち、その場所の地形すらも変えていく。
激しい轟音をその場でとどめるためか、ツクヨが魔術師たちを取り囲むように特殊な障壁を展開していく。
思ったよりも音は響かず、これならば一般人にも気づかれることはないだろう。
「殲滅完了か・・・?いや、まだ残ってんな・・・なかなかどうして、結構やるじゃんか」
康太の持つ攻撃手段の中でも上位に位置する攻撃を受けきった。そこにいるのはあの中で攻撃を放ち続けていた魔術師である。
何とか自分の身だけは守ったのだろう、わずかに負傷しているようだったが、まだ戦闘は継続できそうだった。
康太が使った魔術は二種類。一つは蓄熱の魔術。もう一つは小百合が切り札の一つにしている魔術。康太が未だ練習中の魔術『熱変換』である。
熱変換の魔術は物体にある熱量を衝撃に変換する魔術である。その熱量が高ければ高いほど、放たれる衝撃は大きく、強くなっていく。
蓄熱の魔術は物体に熱をため込む『蓄積』の熱量版。この蓄熱と熱変換の魔術の合わせ技によって、康太は一種の爆弾を作れるようになったのである。
だがこの魔術はいくつも欠点がある。
一つは前準備が必要不可欠であるという点。そして物体そのものに宿った熱でなければ意味がないという点だ。
蓄積と同じくあらかじめ高い熱量の物体を用意しておかなければならないため、事前準備は必須。しかもこの魔術は物体にしか作用しない。つまり現象である炎などには効果を及ぼさないのである。
火はあくまで現象だ。化学反応と言い換えてもいい。高温の物体によって作り出される現象だ。その物体そのものになら効果を発揮するが、この熱変換の魔術は一度触れている物にしか効果を及ぼさない。
そして変換という魔術の性質上、基本的に一回使ってしまえばまた前準備が必要となってしまう。今までの炸裂鉄球と同じく使い捨ての武器になってしまうのだ。
そして欠点がもう一つ。この魔術の出力は熱量に依存する。だがその熱量の調整を一つでも間違えると周囲に多大な被害をもたらす。
構造や原理、特徴などが蓄積の魔術と同じだったために、康太は比較的この魔術を早い段階で扱えるようにはなっていた。
だがその威力の調整が全くできなかったのである。
鉄球を加熱して熱を帯びた鉄球を作り出すのだが、その熱量が少なすぎれば風船が割れた程度の衝撃しか生み出さず、強すぎれば周囲の地形を変えるほどの威力を生み出す。
山に行って訓練していたのはそういった事情があったからである。店の中で威力を間違えようものなら地下部分だけではなく地上までも大きな被害を出す可能性があった。
当然、強すぎれば相手を殺してしまう。康太も何度か死にかけた。だがこの魔術を使うと決めたのは幸彦の一件があったからだ。
相手を殺してでも仲間は守らなければならない。そういう覚悟が康太にはあった。
今回放った衝撃鉄球の威力は上手く調整できていたようだ。相手を殺さず、だが障壁は易々と砕いていた。
とはいえまだ威力にはむらがある。このむらをどれだけなくせるかが今後の課題なわけだが、相手が一人になったからといって康太は油断はしない。
「ハレ、メイ、防御はツクヨさんに任せてお前たちも攻撃しろ。射撃攻撃で相手の処理能力を削る」
『了解です』
『うまくやって見せます』
予知の魔術を使っている二人ならばどのような攻撃をすれば相手に効果的なのかがわかる。単純な攻撃ならばどちらが強いのか、どちらの方が相性的に優れているのか、そういった情報があらかじめわかるのはかなりの利点だった。
近接戦で鍛えられた二人の処理能力ならば、猶予のある射撃系の攻撃ならば余裕を持って相手の弱点を見つけることができるはずである。
それに加え康太も相手を攻撃しようとする。当然相手の処理能力はかなり削られるはずである。
早々にケリをつけ、協会の人間がやってくるのを待ちたい康太からすれば、この魔術師にかけていられる時間はそこまで長くはない。
だが相手も康太の攻撃を受けて、その攻撃力が並々ならぬものであるということを理解したのか、その標的を土御門の双子達から康太へと変更していた。
「おっと・・・俺狙いか」
敵意が向けられたことで康太は相手の標的が自分に変化しているということに気付いていた。
そして魔術師から多数の射撃系魔術が康太めがけて襲い掛かる。当然康太はそれを回避していく。
ただの射撃魔術に当たってやるほど康太は遅くはない。
強い敵を早めに倒さないと厄介なことになる。相手はそれを理解しているようだった。
良い判断だと康太は感じていた。状況にもよるが、一人でも強力な魔術師がいれば状況をひっくり返すことは容易になる。
すでに建物の中が制圧されているということを知っているのかいないのか、どちらにせよ康太をこのまま野放しにしておくのは危険だと判断したのだろう。
早い段階で康太を倒しておく必要があると考えるのは良い、だが一つ忘れていることがある。
「俺狙いはいいけど、天才どもを放っておくと面倒なことになるぞ?」
康太の言葉を証明するかのように、魔術師めがけて多種多様な射撃系魔術が襲い掛かる。
規則的に動く弾丸状のものから、遠隔操作するタイプのものまで、属性も種類も全く異なる魔術が一斉に魔術師めがけて襲い掛かっていた。
康太に意識を向けていた魔術師だが、攻撃が来るとわかるや否や、障壁でそれらの魔術を防ごうとする。
だがその障壁の発生する位置があらかじめわかっていたかのように、放たれた魔術は軌道を変え、魔術師に襲い掛かった。
相手がどのような動きをするのかがわかっていれば当てるのはそう難しい話ではない。特に相手の意識が他者に向いているときはその傾向が顕著に表れる。
急所などに命中することはなくとも、一撃必殺の威力がなくとも、相手の体に着実にダメージを与えていく。予知の魔術ならではの戦い方の一つに康太は苦笑していた。
「あぁ、本当に天才っていうのは厄介だよな」
相手に同情しながらも、康太はその手にもった槍を構えて攻撃態勢に入る。
同情はするが、手加減をするつもりはなかった。
康太に意識を向ければ土御門が、土御門に意識を向ければ康太が、それぞれがそれぞれの動きを助長するような動きをしていることもあって、相手は完全に処理の許容限界を超えているのか、康太と土御門、どちらの対処もできなくなっていた。
土御門の双子が放つ射撃系魔術は、受けたところで多少の傷ができる程度の弱いものだが、非常に邪魔である。
攻撃を回避するとき、攻撃をしようという時、あらゆる動作を阻害するように確実に着弾するように襲い掛かっていた。
そして一つ一つの動作が射撃によって少しずつ遅れる中、そんな隙を康太が狙い撃つように確実にダメージを与えていく。
連携としては最適といってもいいほどである。
文が康太の考えを読み、行動する経験型の連携であるのに対し、土御門は予知によって確実に康太と相手の次の動きを読み適切かつ効果的な攻撃を繰り返す。
経験と技術による連携の違いはあれど、土御門の二人は一見完璧に康太をフォローしていた。
そして土御門の攻撃が襲いかかる中、康太の槍が魔術師を捉える。
「だから言ったんだ。天才を放置してると面倒だって」
拡大動作を伴って振るわれた康太の槍は、魔術師の片腕を斬り落とす。
土御門の攻撃に気を取られた一瞬に振るわれた康太の攻撃に、魔術師は反応しきることができなかったのだ。
「さて、死なれると厄介だからな。ウェルダンといこう」
腕を斬り落とされ狼狽したその合間に、康太は両腕を前に突き出して魔術師を狙う。
次の瞬間、康太の両腕から炎が大量に噴出され、魔術師の体を包み込んだ。
噴出によって康太の体が後方へと運ばれそうになるが、とっさにウィルが地面に杭を打ち込むことでその場に強引にとどまる。
炎に包まれた魔術師は全身火傷を負っていた。だがそのおかげで腕を斬り落とされたことによって生じかけていた大量の出血も止まっていた。
腕の痛みと炎の熱によって、意識が朦朧としている魔術師めがけて、土御門の双子の射撃攻撃が襲い掛かる。
もはや避けることもできない魔術師はそのすべての攻撃を受け止めてしまっていた。
「よしよし、状況終了。なかなか良く戦えたな」
「すごかったです、あれだけの攻撃をほぼ完璧に防御してたんですよ?ツクヨさん半端ないっす」
「方向とどんな攻撃かって伝えただけで完璧に防いだんですよ。すごいです、感動です」
「・・・どこからどんな攻撃が来るのかがわかるほうがすごいと思うけど・・・」
ツクヨの防御の技術の高さに晴と明は興奮しているが、実際に防御していたツクヨからすれば予知の魔術の方がよほどすごい技術であると思っているようだった。
門外不出というだけだって誰でも使えるわけではない技術、手に入れたいと思ってしまうのが常だが、この双子が康太の身内に近いということもあってそのようなことはほぼ不可能であると考えていた。
「いやぁ、この二人すごいな。俺ほとんど何もしてなかったよ」
「しっかり索敵してくれてたじゃないですか。助かりましたよ、先輩の位置も正確に教えてくれましたし」
「そりゃあれだけ近くに来てくれればな・・・ってかこっちに来て大丈夫だったのか?」
「えぇ、建物の中はすでに制圧済みです。あとは建物の方に行って防衛します。ハレ、メイ、とりあえず協会の人間が来るまであの建物を守る。敵が来ないか常に警戒し続けろ」
「了解です」
「任せてください」
予知の魔術は敵がどのようなタイミングで、どれほどの数が来るのかも把握できる。二人の術式では主観的な未来しか見ることができないがそれでも十分すぎる。
あと少しの間あの建物を守り続ければいいだけなのだから。
「サニーは無事?あなたがここにきてる時点でお察しだけど」
「えぇ、建物の攻略自体はすぐに終わりましたからね。楽な仕事でしたよ」
楽な仕事。その言葉を聞いてツクヨは安堵しているようだった。そこまで激しい戦闘が行われたわけではないのだと思っているようだったが実際は違う。
建物の中を見れば康太の発言がどれだけ的外れなのかがわかるだろう。単純に康太がそこまで苦労をしなかったというだけで激しい戦闘は行われていたのだ。
ほぼ瞬殺に近い形で魔術師たちは撃滅された。その中にはすでに五体満足ではないものもいるほどだ。
そしてその光景をすでに予知によって見ることができたのか、晴と明はいやそうに顔をしかめた。
仮面のおかげでその表情はわからなかったが、明らかに動揺しているのは見て取れる。
「先輩、本当に楽な仕事だったんですか?」
「あぁ、苦戦するようなことがなかったからな。いつぞやの依頼よりずっとましだった」
「・・・そう・・・ですか」
康太が今まで受けてきた依頼の中では今回の戦闘は比較的楽な方だった。奇襲がうまく成功したというのもあるが、相手の魔術師が近接戦に特化したもの、あるいは康太を圧倒できるだけの素質の持ち主がいなかったというのが大きい。
「今回の連中、以前から先輩が追ってる組織の連中と同じでしょうか?」
「・・・さぁな、戦ったのがほぼ一瞬だったからうまく判断できないな・・・もうちょっと遊ばせるべきだったか・・・?いや、そんなことしたら逆にこっちが危なくなってたしなぁ」
情報収集は相手を潰してからでもいいと考えている康太にとって、戦闘中に様子を見るというのはあまりしない行為だ。
特に相手の数が多い時は少しでも早く相手の数を減らすのが定石である。康太の行動は今回は殲滅という意味では最適解を選ぶことができたといっても過言ではなかった。
誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




