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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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必要とあらば

「あの、ブライトビー」


「はい?なんです?」


顔合わせを終え、支部長室を出た段階でリーダーであるサニーが康太に話しかけてくる。


どのように話せばいいのか、どう切り出せばいいのか本人もまだ把握できていないのか、話しにくそうにしてしまっている。


康太としても早いうちに切り上げたかったのだが、今度一緒に行動することになるということもあって邪険にするのは憚られる。


とりあえず話を聞く姿勢にはなっているのだが、一向に切り出してこなかった。


「トゥトゥ、双子連れて先に帰っててくれ。俺この人たちと話してるから」


「了解。二人は今日はどうするんだ?またいじめられるのか?」


「いじめられてるっていうか修業つけてもらってるんですよ」


「ものすごく人聞きが悪いですね今のセリフ」


そんな話をしながら小百合の店に戻ろうとする三人を見送って、康太はとりあえずサニーたちの方に振り返る。


「で、何のお話ですか?」


「いやその・・・ちょっとだけ気になって・・・えと・・・今度の相手について、詳しく教えてほしくて」


話の素振りからしておそらくそれが本命ではないのだろうが、話を切り出すという意味ではいいのかもしれない。


切っ掛けにもなるだろうと康太は適当な部屋を借りて三人と話すことにした。


「俺が知っていることはそれほど多くないですよ。そういうことならトゥトゥに聞けばいいんでしょうけど・・・接触した相手は戦闘能力的にはトゥトゥ単騎で倒せる程度の実力だったそうです」


精霊術師が単騎で討伐できるという言葉に、サニーたちは多少安心しているようだったが、倉敷の戦闘能力はそもそも一般的な精霊術師の枠を大きく超えている。


単純な戦闘能力だけでは相手を測ることはできないだろうが、そのあたりをサニーたちに察しろというのは難しい話だろう。


「組織だって動いていて、なおかつ相手には洗脳の魔術を高いレベルで扱えるものがいるようです。トゥトゥが倒した奴は洗脳されててろくに情報を引き出せませんでした」


「洗脳・・・どの程度の?」


「前後不覚になって自分が何してるのかわからなくなるレベルですね。記憶を覗いたんですけどほとんどずたずたになってました」


他人の記憶を読むこともできるのかと、サニーたちは勘違いしていたが、実際に記憶を読んだのは協会の魔術師とアリスだ。康太はそれを見ただけ。言葉の違いで勘違いを呼ぶことは多々あるが、これは典型的な例だといえる。


「たぶんですけど、今回の敵の中で中核を担っているのは数人、それ以外は洗脳して手に入れた戦力の可能性が高いです」


「じゃあ、基本的にその中核以外はそこまで傷つけるつもりはない、ということ?」


「え?なんでです?」


拍子抜けしたような康太の言葉に、サニーたちはわずかに身を強張らせていた。


何故そんなことを言うのかわからない。本気でそう思っているような声音だったからである。


「だって、いうなれば操られているだけの被害者でしょう?そんな人たちを・・・その・・・倒すの?」


「倒しますよ。当たり前じゃないですか」


「当たり前って・・・だって・・・相手だってやりたくてやっているわけじゃ」


「そんなことはどうでもいいでしょう。問題なのは俺たちの障害になるかどうか。俺たちの敵であるかどうか。相手のことなんていちいち考えてたら身がもちませんよ」


サニーは相手が洗脳されているからある程度憂慮して然るべきだと思っていたのだろう。だが康太からすればそんなことははっきり言ってどうでもよかった。


そんなことを言ってしまえば、魔術師にだって一般人としての家庭がある、家族がある、友人がある。そんな裏事情、もとい表の事情があるのだから手加減してやれといっているのと同じことだ。


「だけど・・・」


「やるのは俺とトゥトゥです。サニーさんは身を守って相手を牽制してくれていればいいです。それ以上は望みません。というかそれを求めるのは酷です」


「・・・一緒に戦うなら同じことじゃ」


「違いますよ。俺らはそれが必要なことだとわかっているし、何よりそうしないと俺ら自身が不安だってだけです。それをあなたに強制するつもりはないですし」


「・・・でも・・・」


康太だってサニーの言っていることを理解できないわけではない。相手は被害者。無理矢理戦わされている。その洗脳を解くことができれば敵どころか味方になってくれる可能性だってある。


そもそも戦う理由がなければ拘束しておくことができればそれでいいのだ。むやみに傷つける必要だってない。


だがそれはあくまで理想で、理屈だ。実際に現場でそのようなことができるわけではない。


特に康太はそういった行動が苦手だ。とりあえず倒して気絶させておいたほうが圧倒的に楽なのだ。


だがそれをサニーたちは理解していない。理解できないだろう。敵が襲い掛かってくるような状況で加減をすればどうなるか、康太は嫌というほど知っている。


「あなたがそういった、相手を無傷で無力化させる方法を知っているのであればそうしたいですが、俺はできないですよ?できないことをやろうとしないでください。危ないだけです」


康太のとどめの言葉に、サニーは返す言葉がなくなったのか、うつむいてしまう。少々嫌な言い方になってしまったかもしれないが、それも仕方のない話なのかもわからない。


「じゃあ、仲間に拘束とかが得意な魔術師がいれば、それも視野に入れるということね?」


まだあきらめていないのか、少し考えてからサニーはそう提案してくる。とはいえ康太としてはそんな人員はそういないと考えていた。何より問題が多すぎる。


「相手の戦力がどの程度なのかも不明、もし大量にいた場合一人一人拘束するんですか?魔力がもつのかも、維持できるのかもわからないのに?何人いれば可能かもわからないですよ」


「なら、一人ずつ物理的に拘束してしまえばいいわ。土に埋めるなり縄で拘束するなりすれば多少は」


「それだけ荷物が増えますし、別の箇所から敵の援軍が来れば助け出されることだってあります。だったら両手両足折っておいたほうが早くて楽です」


物理的な拘束ではなく物理的な破壊であれば相手がかりに仲間に助け出されても戦力となることはありえない。仮に両手両足を破壊されても問題なく行動できるような相手がいたら、それはそれで強敵ではあるが圧倒的に機動力と戦闘能力は落ちるだろう。


室内戦において機動力と反射神経は重要だ。たとえ動けても優位に立てることに変わりはない。


痛みに耐えながらなお集中を持続し魔術を発動できる魔術師は稀有だ。特殊な訓練でも積んでいない限り骨を折られた状態でまともに動けるような人間はいない。


「あきらめろとは言いませんが、見て見ぬふりくらいはしてください。あと、俺らの援護はしても邪魔はしないでください。動き回っているってこともあって誤射してしまうのは仕方がないですけど」


「・・・わかったわ・・・けど納得したわけじゃないから。それは覚えておいて」


自分の言っていることが現実的ではないということを理解して、納得はしていないということをはっきりという。


少なくとも物分かりが悪い方ではないということは把握できた。さすがに伊達でリーダーを務めているわけではないようである。


自分がやるべきことと危機管理がしっかりとできている。優先順位をしっかりとつけられているというべきだろうか。理想を求めるその過程で苦労している印象があるが、それでもしっかりとした考え方を持った魔術師だ。


てっきり康太は、支部長が推薦したのはアマネの弟子だけかと思ったが、そういうことでもないようだった。


理想だけを突きつけてあとどのようにするかは全部丸投げというのを想定していたが、どうやらそんな考えをするほど甘くもないようである。


自分たちが戦うことを視野に入れ、実際に可能かどうかを具体的に思考し、可能か不可能かを判断できる。


実戦を何度も潜り抜け、何度か痛い目を見たことのある実戦派の魔術師であるということを康太はこの時点で認めていた。


「あの、ブライトビー・・・私たち・・・外に出ているチームは具体的には何をすれば」


「さっきも言った通り、索敵と防御。外から侵入するときに、具体的にどれくらいの数がいるのかを索敵、その後は土御門の双子を守りながら索敵の情報を常に俺らに伝え続けていただければ。ついでに土御門の双子が伝える情報も一緒に教えてほしいです」


「防御を担当するのは保険みたいなものと考えていいの?」


「保険・・・っていういい方はあんまり好きじゃないけど、俺がもし相手の立場で、手が回る状況なら後方支援から潰すと思うんです。相手の数が不明だから、警戒しているっていう感じですね。ゲームとかでも回復役とかを先につぶすでしょう?」


「・・・なるほど確かに」


「でもさ、後方支援を潰すっていったって、本丸を君たちが攻めるわけだろ?それなのに本拠地を放置して俺らを攻撃するかな?」


「そうならないように俺らも派手に暴れるつもりではありますけど、実際のところ外から敵が帰ってくることもあり得るんで。帰り際に襲われるっていうこともあると思うんです」


索敵をしていればそのあたりはわかるだろうし、土御門の予知があれば多少の危険は何とかなると考えていい。


だがそれでも万が一ということがある。アマネの弟子が一緒にいるならば防御面は何とかなるだろう。

後の攻撃面は土御門の双子が担えば多少の敵は倒しきることができるはずである。


問題は、小百合と同等か、それ以上の実力を持った魔術師がその場所にやってきた場合だ。


相手の規模がわからないうえにどの程度の実力の魔術師が集まっているかもわからない。そんな状態で土御門の双子を預けるのは不安だ。


だがあの双子も小百合との訓練を重ねることで自分の強さと相手の強さを測るくらいのことはできるようになっているはず。


ならばある程度、逃げるタイミングくらいは測ることができるだろう。


後は康太たちがどれだけ派手に暴れることができるかというところである。建物の規模にもよるが、可能ならば最終的には建物ごと破壊することも視野に入れなければならない。


もちろん必要な情報をすべて拾い集めた後での話になるし、あくまで囮としての役回りになるが。


「危険なのは攻め込むほうも残るほうもおんなじってことか・・・ていうか、攻め込むほうは大丈夫なのか?だって敵の本拠地の可能性が高いんだろ?」


「でしょうね。敵も多いでしょうし、どのレベルの敵がいるのかもわかっていません。構造は、実際に現地で確認します」


「そんな状態で戦えるのか?サニーも行くんだろ?さすがにそっちの方が危ないんじゃ・・・」


「危ないのはどっちも同じ。まぁ不意打ちの可能性がある分攻め込むほうが危険ではありますが、そのあたりは何とかしますよ」


「何とかって・・・どうやって?」


「必要とあらば、全部壊します」


康太の壊すという言葉は、単に敵を倒すというただそれだけの意味ではない。破壊の権化の弟子。その弟子の言葉に込められた『壊す』という言葉は何よりも重く彼らにのしかかった。


どこまで壊すのか、何を壊すのか、そのあたりをイメージできなくとも、康太がそれらすべてをやるつもりなのだということは理解できていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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