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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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多少ましな気遣い

「それと・・・もう一つ聞きたいことがあるのよ」


もう一つ、おそらくこちらが本命の問いなのだろう。


前置きが長くなってしまったなと康太は目を細めながらサニーに視線を向ける。彼女が何を聞こうとしているのか、何が聞きたいのか、そしてどのような答えを求めているのか、康太はわからなかった。


「今回の依頼、精霊術師を助けるためと言ってたわね。正確には、精霊術師たちを誘拐しようとしてる連中を倒すためって」


「そうですね。それが何か?」


「・・・精霊術師のためにそれをするの?それともさっき一緒にいた、トゥトゥっていう精霊術師のためにそれをするの?」


彼女たちが何を聞きたいのか、いや、サニーが何を聞きたいのか、康太は何となく理解していた。


つまり今回の行動に対する康太の目的を知りたいのだろう。康太がどのような人間であるのか、おそらく支部の中に蔓延する噂でいろいろと聞いているのだ。


残虐な槍使い。破壊の後継者。支部の中で広がる噂は決していいものではない。そのうわさだけを聞けば目の前にいる康太の落ち着いた様子は噂と合致しないのだ。


だからこそ戸惑っている。そして今回の行動に康太が同行する、いや、康太がこの行動を起こそうとしたその事実に疑問を抱いたのだ。


康太が今回の件に関して動こうとした切っ掛け。確かにそれは精霊術師のためと言えるかもしれない。倉敷が被害に遭って、ちょっと助けてやろうくらいのつもりだった。


だが今は少し違う。あの誘拐犯の男の中を覗いた瞬間から少し違っている。


「・・・今回の敵が、組織だって動いているっていうのはもう話しましたよね?」


「聞いたわ。だからこそ戦力が必要だからって」


「それと関係があるんですけど、俺、今ある組織を追ってるんですよ。最近協会に喧嘩を売ってる組織があってですね。今回の連中がそれと関わりがあるんじゃないかって考えてるんです」


裏でかかわっている組織全てが件の組織と関わりがあるとは言わない。だが何かしらのつながりがあるのではないかと康太は考えていた。


今までのそれとは全く別の切り口だ。関係がある可能性は低い。だが今までのやり口だって関連性があるといえないようなものが多かった。


今回のこれも、何かあるのではと康太の勘が言っていた。


「じゃあ、あなたが今請け負っている仕事の関係で動いてるってこと・・・でいいのね?」


「仕事なんて堅苦しいものじゃないです。俺がそうしたいからそうしてるだけです」


「そうしたいって・・・その追ってる組織だったら、あなたどうするの?」


「壊します。その場にあるもの全部。加担した奴ら全部」


一瞬低くなった康太の声音に、三人は気圧される。一瞬だが放たれた康太の鋭く重い殺気に、三人は動くことも声を出すこともできなくなってしまっていた。


そんな三人の様子に気付いて康太は空気を戻して笑う。


「まぁそのあたりは実際動いてみないとわかりませんから。お三方はいつでも出撃できるように準備してくださればそれでいいですよ。俺は俺で準備しておきますから」


急に変わった康太の雰囲気に、三人はまだ反応しきれていない。


この場に康太のことをよく知るものがいれば、康太の殺気の種類が変化していることに気付けただろう。

以前までは小百合のそれに似た鋭い、刃のような殺気だった。


だが今は違う。ただ鋭いだけではない。重さも加わった、歪なものに変わってしまっている。


刃のような鋭く、潔いものではない。まるで獣の牙のような荒々しさを加えたかのようなものへと。


小百合のような、向けられたら単純に殺されるかもと感じるような威圧だけではない。痛めつけられ、弱らされてから殺される。そう感じさせるような歪んだ殺気だった。


「話はそれだけですか?」


「・・・え?・・・あ、うん・・・だい、じょうぶ」


未だに康太の殺気にあてられてしまっているのか、満足に受け答えができなくなってしまっている。

康太はそんな三人に内心謝罪しながら席を立つ。


「それじゃ俺はこれで失礼します。一緒に行動するときはよろしくお願いしますね」


「・・・あ、ま、待ってくれ」


「・・・まだ何か?」


必死に声を振り絞るサニーは、康太の外套の裾を掴んで康太を引き留めた。そして康太の目を見て、再び声を絞り出す。


「なんで、その組織を追うんだ?仕事じゃないなら・・・なんで」


なんでその組織を追うのか。最初は仕事だった。支部長から頼まれた仕事だった。だが今は違う。


康太にとってその組織を追う理由。その根源となっているのは幸彦だ。幸彦を殺した奴を殺す。単純な理屈だが、その根源をここで話すつもりはなかった。


康太は目を細めて前を向く。これ以上話すつもりはないという意志表示だったが、それでもこの一言だけは言っておくことにした。


「気に入らないからです。俺が動くのはそれが理由です」


気に入らない魔術師を倒す。それが、魔術師として康太が動く唯一の理由だ。


魔術師としての行動原理、康太が初めて決めた、自分の行動原理。


奇しくもそれに一致しているのだから嘘は言っていない。


気に入らないものをすべて壊す。康太の印象が噂に近いものになっているということに、康太自身は気づいていない。














「というわけだ。一応そんな感じで行動しようと思ってる。それだけ伝えておこうと思ってな」


後日、康太は文に今回のことの顛末を説明していた。電話で話しながらも文は電話の向こう側で何か作業をしているのだろう。ガラスをこするような音が聞こえてくる。


そして背後からは春奈や倉敷が何やら話している声が聞こえている。おそらく修業場で作業をしているのだろう。


『そう、頑張ってるようでなによりよ・・・私がいなくても大丈夫なの?』


「正直に言うと結構きつい。来てほしいけど、そっちはそっちでやることあるんだろ?」


『・・・うん、あとちょっとよ。あとちょっとで完成する・・・もう少し時間を頂戴』


「了解。何してるのか知らないけど、張り切りすぎんなよ?もうすぐ夏休みも終わるんだから」


もう八月も終わる。九月からは二学期が始まるために今のような生活スタイルはできなくなってしまう。

今のように引きこもってずっと作業というわけにはいかなくなってくるのだ。


『わかってるわ。康太、あんたも頑張りすぎないでよ?』


「わかってる。ほどほどにしておくよ」


『ん・・・わかってるならいいわ』


文の少し安心したような声に康太は小さくため息をつく。心配させていたのだろうということはわかる。


今回は文が一緒に来られないということもあって、少し不安も残る。だからこそこれ以上不安にさせてはいけないなと康太は内心笑っていた。


『アマネさんのお弟子さんたち、どんな実力かはまだわかってないんでしょ?』


「ある程度は把握したよ。ただ実戦での動きはやっぱ実際に見てみないと何とも言えないな。でも役に立たないってことはないと思うぞ」


『へぇ・・・大学生でしょ?真理さんと同じくらい?』


「姉さんには劣るけど、それでもちゃんといろいろ考えてる人たちだと思ったな。魔術師としてちゃんと活動できてるって感じだった」


『ふぅん、支部長が推薦するだけのことはあるってことかしら・・・それともあんたと一緒に行動するならその程度は当たり前ってことかしら』


「今回はいつでも動ける人間っていう縛りがあったからな、ある程度は仕方がないだろ。今回は双子も連れていくし、それで防御と逃走に関しては問題はないと思うぞ?」


『そう。あんまりあの二人に無茶させちゃだめよ?一応土御門の家の人間なんだから』


「わかってるよ。危ないと感じたら逃げろって言ってる。あいつらもなかなか危機管理ができてきてるから大丈夫だろ」


『ふぅん、いま二人はどうしてるの?』


文の言葉に康太は修業場で小百合と戦闘を続けている土御門の双子の方に目を向ける。


今回は一人一人ではなく、二人同時に小百合と戦っている。一人の時よりはマシ、と言いたいところだが互いに連携がうまくできずに小百合に遊ばれているという印象を受ける。


「今は師匠とじゃれあってるよ。師匠もまともに攻撃するつもりなさそうだな」


『どういうこと?小百合さんが攻撃しないって』


「今近接戦の連携をやろうとしてるんだよ。あれじゃ自滅の方が早いな」


『なるほどね・・・中間距離の連携も難しいのに近接の連携なんて今の二人にできるわけないじゃないの』


「だからこそやってるんだろ。今度戦闘になる可能性があって、二人が同時に前に出ればどうなるか、それがわかってないと実戦で今みたいなことをやらかすからな」


互いが互いの攻撃の邪魔をし、互いが動きを阻害する。はっきり言ってお粗末というほかない動きだ。


とはいえ康太も近接戦で誰かと連携なんてしたことがないために人のことはとやかく言えない。


康太の速度についていける魔術師がほかにいないというのもあるが、康太以外に近接戦を得意とする魔術師が身内以外にほとんどいないというのが現実だ。


土御門の双子がなかなか実力を上げてきているが、それでも康太たちには劣る。彼らの本領は中間距離で発揮されるものだ。


近接戦を行っているのはその中間距離の射撃戦を制するための前準備である。


『あの二人も着々と育ってるみたいで安心したわ。あんたから見て、あの二人の実力のほどは?』


「予知を使ったら普通の魔術師ならもう相手にならないんじゃないか?予知を使わなければ・・・んー・・・どうだろ。実際俺と手合わせしてると、射撃系魔術をあいつらに当てるのはかなり難しい。たぶん文みたいに飽和攻撃を仕掛けないと無理だな。でもそれでもあいつらの持ち前の素質で切り抜けられるから」


『防御能力は高く、回避能力も高い。難があるのは攻撃面かしら?』


「そうだな。まだ予知を使って相手を動かすっていうのがうまくできないみたいだ。たまに俺が的になって逃げ回るんだけど、俺の回避能力をあいつらの予知能力が上回れないのか、使い方が下手なのか俺に当てられるのは本当に偶にだな」


『あんた相手に偶にでも当てられるくらいなら十分だと思うけど・・・まぁいいわ。ほどほどにしておきなさいよ?いつ出撃するかもわからないんでしょ?』


「あぁ、そのあたりわかってるから師匠もあんまり攻撃してないんだと思うぞ?なんだかんだ教えるのは慣れてるってことだな」


三人の弟子を抱える小百合は、物事を教えることに関してはすでに慣れてしまっている。


多少暴力的とはいえ状況が読めないほど馬鹿でもない。気遣いというレベルには至っていないが、多少気を回すことくらいはできるようだった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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