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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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汚いもの扱い

「・・・あの子は精霊の姿が見えているのか?精霊術師か?」


「いえ、あの子は魔術師ですが、そういう才能に恵まれたんでしょう。精霊の姿も声も聞こえるようで、良い機会なので連れてきたんです。おーい、シノ。精霊とのお話しはそこまでだ。ちょっとおいで」


急に術師名で呼ばれたことで神加は反応が遅れたが、精霊に少しだけ向き合ってからすぐに康太の方に駆け寄ってくる。


「どうしたのおにいちゃん」


「このおじさんが精霊とお話ししたいって言ってるから交代だ。しばらくは待っててあげような?」


「わかった。どうぞ」


神加は精霊のいる方向に手を差し出して話してもよいということをアピールしてくる。だが倉敷の師匠はそれが信じられないのか、疑いのまなざしを向け続けていた。


こんな小さな子が精霊を見ることができ、なおかつ精霊と話ができるというのが信じられなかったのだろう。


子供ならではと言われても納得できないものがあるのか、倉敷の師匠は精霊の方を見てから神加と視線を合わせるように身をかがめる。


「ちなみに、君にはあの精霊がどんな形に見えているのかな?」


「おっきなナメクジみたいなの」


大きなナメクジという表現に、倉敷の師匠は精霊を見比べる。最初は首をかしげていたが、神加が小さい子供であるということもあって納得したようだった。


「あれはナメクジではなく、アメフラシというんだ。覚えておきなさい」


「あめふらし・・・わかった」


どうやら精霊はナメクジではなくアメフラシの姿をしているらしい。子供の目から見ればナメクジとアメフラシは似たようなものに見えるのかもわからない。


色と触手の形が少し違うだけなのだから間違えるのも無理のない話だ。


だが逆に、神加が見ているものと倉敷の師匠が見ているものが同じであるという結果が出てしまった。


その事実に気付いた倉敷は康太に小声で話しかける。


「この子本当に見えてたんだな・・・ちょっと驚いたわ」


「うちの妹を疑ってたのか?まぁそれに関しては俺も同意。お前の師匠もちゃんと見えてたんだな」


神加のように特殊な才能に恵まれたタイプなら、特殊な目を持っていても不思議はない。だが倉敷の師匠は精霊術師だ。


もし神加のような特殊な才能を持っているのだとしたらもっと有名になっていてもおかしくないはずである。


そういった力をアピールするのがあまり好きではないのか、それともただ単に隠しているだけなのか、そのあたりは本人にしかわからないことである。


「ところでさ、もし師匠が支部に行くのを嫌がったらどうするんだ?」


「どうしようかね・・・お前の身内だからあんまり力づくっていうのもしたくないし・・・それなら支部長を連れてきたほうが早いかもしれないな」


「おぉう・・・師匠を連れていくんじゃなくて支部長を引っ張っていくっていうことか・・・お前もなかなか無茶するな」


「って言っても門を使えば数分で来てくれるだろ。行きたくないっていう人を無理に連れていくよりはフットワークの軽い人を連れてくるほうが楽だ」


「・・・一応あの人日本支部のトップなんだよな?」


「トップだからこそ、あえて足を運ばなきゃいけない時もあるってことだ。そのあたりをあの人はわかってる。今回は事が事だからな」


日本支部内での精霊術師の誘拐事件、支部長はそれなりに重く受け止めていた。すぐに対応策と行動を起こしてくれたことからそれは明らかである。


「第一さ、うちの師匠たちを相手にしてきた人がこの程度のことでいやそうな顔をすると思うか?」


「あー・・・なるほど。そういわれると確かに」


相手がだだをこねているのであれば自分が何とかするというのはある種支部長の行動方針でもある。


伊達に小百合たちの相手を長年してきたわけではない。何よりそんなことで時間をとるのであれば五分、十分程度仕事を中断するくらい何でもないと康太は思っていた。


「だからとりあえず、支部に行くのが嫌だって言っても協会の門のところまではついてきてもらおうと思う。そしたら俺が支部長を引っ張ってくるから」


「わかった。その間は俺が師匠を押さえておくよ。なんかうちの師匠がいろいろと迷惑かけて悪いな・・・」


「お願いしてるのはこっちだ。あくまで相手の都合に合わせないとだろ。それに魔術師にあんまりいい印象を持っていないっていうなら、そのあたり気をつけないと今後の関係まで崩れかねないしな」


魔術師と精霊術師の関係性は、現状あまり良いとは言えない。


魔術師は精霊術師を見下し、精霊術師は魔術師を嫌う。そういった関係が続く限り協力などできるはずもない。


康太たちと倉敷のように、対等な関係が結べればよいのだがそういうわけにもいかないのだ。


「支部長もそういうの気にしてると思うから、とりあえずはお前の師匠の望み通りにしようと思う。最低限情報だけは教えてほしいけどな」


「わかった。もし渋ったらぶん殴ってでも情報は吐かせるわ」


「お前もなかなか染まってきたな。いい調子だ」


「・・・それは言うな。相手が師匠だからだ」


なかなか荒っぽい思考に染まってきた倉敷に康太は笑うが、それが良い傾向ではないのは倉敷も理解していた。


「悪い、待たせた」


精霊との会話を終えやってきた倉敷の師匠は、一瞬だけ神加を見た後で康太たちに向き直る。


「で?どうするんだよ師匠。言っておくけど支部に行かなかったとしても俺らが知りたいことは話してもらうからな?」


「随分と荒っぽくなったな・・・いい傾向なのかどうか・・・まぁいいか。俺も支部に行く。久しぶりにあそこがどう変わったのか見てみたい」


「それは良かった。こちらとしてもそうしてくれると助かります」


いちいち支部長に外に出てもらう手間が省けたと思えば、この選択は康太たちにとってありがたいものであった。


どういう心境の変化があったのかまではわからないが、康太たちに都合よく動いてくれるというのであれば文句を言うつもりはなかった。


「だけど一つ聞きたい。精霊術師を誘拐するなんて連中がいるんだろう?それが支部の人間じゃないと断言できるのか?」


「いえ、断言はできません。可能性として、日本支部、他支部、あるいは本部の人間が関わっていることだってあり得ます」


「・・・そんな状態で、支部の中で襲われないという確証は?敵がいるかもしれない中に突っ込んで行くほど俺はバカじゃないぞ?」


その心配はもっともである。魔術師が精霊術師を襲っているという時点で最も規模の大きい協会の中に犯人がいる可能性は非常に高くなる。


だがその心配を弟子である倉敷が否定した。


「それに関しては問題ねえよ。少なくとも支部にいる間、こいつと行動を共にしてれば襲われることは九割がたあり得ない」


「なんでだ?こいつがそいつらの仲間ってことか?」


「いやそれこそねえな。精霊術師を攫ったところでこいつにメリットがない。そういうことじゃなくて、こいつ、支部の中でもかなりの危険人物で通ってるんだよ。支部の中でこいつに喧嘩を売る魔術師はよほどの馬鹿か、実力を勘違いした奴だけだ」


「喜んでいいのか微妙な評価をありがとう。さすが俺に喧嘩を売って五体満足でいるだけはあるな」


「好きで喧嘩売ったわけじゃねえっての・・・ってわけだから、少なくともこいつと一緒にいれば支部にいる間は安全だよ」


「・・・そういえば名前を聞いていなかったな。俺の術師名はリィル・リクシル。このトゥトゥエル・バーツの師匠だ」


初めて名乗った倉敷の師匠、あらかじめ名前を聞いてはいたが、康太はあえてそのことは言わずに小さくうなずく。


これは自分も返答しなければ失礼だなと思い、あえて仮面をつけて名乗る。


「初めましてリィル・リクシル。俺はデブリス・クラリスの二番弟子、ブライトビー。どうぞよろしく」


その名前のどこに反応したのかはわからないが、倉敷の師匠は大きく目を見開いた。そしてわずかに距離を取ろうとしている。


この程度の距離は康太にとって何の意味もなさないとはいえ、さすがにこの反応は傷つくなと苦笑しながら仮面を外した。


「デブリス・クラリス・・・弟子をとっていたのか・・・しかも二人目・・・いや、あの子を含めば三人になるのか」


「なんだ、こいつの師匠のことを知ってるのか」


「・・・名前だけはな・・・実際に会ったことはない。だが何度か知り合いの魔術師に頼まれて後始末を手伝ったことがある。ひどいもんだったよ」


どうやら小百合が起こした事件の跡地を見たことがある人間だったらしい。しかも後始末を任されていたとは思わなかった。


そういう意味では小百合の被害者の一人と言えなくもない。問答無用で辺りに破壊をまき散らす小百合は、それだけ回りに迷惑をかける。この人もその被害者の一人なのだなと理解し、康太はため息をついてしまっていた。


「その節は師匠がご迷惑を・・・少なくとも俺たち三人の弟子は師匠ほど滅茶苦茶ではありませんよ」


「そうか?お前もお前の兄弟子も結構大概だと思うぞ?っていうか一番弟子の人が弟子になったのはだいぶ前らしいけど、その情報も知らなかったのか?」


「そういう情報は俺たちのところには来ない。あくまで個人が危険かどうかとか、これは誰が引き起こしたとかそういう話だけだ。でかい破壊痕の場所は大抵デブリス・クラリスの名前が出てきた・・・まさか弟子がいたとは・・・」


おそらく精霊術師ということもあってほとんど協会には足を運んでいなかったのだろう。


そういった情報が完全に欠如しているのは少しだけ問題だ。


康太の評判などをほとんど知らないというのはまだいいとしても、今回のような問題行動が起きた時の反応が遅れてしまう。


何か連絡手段を設けないとこういった被害が拡大していくのを防げない可能性がある。どうにか支部長、あるいは本部長クラスを説き伏せて精霊術師の待遇改善を目指さないと面倒なことになるなと康太は考えていた。


「まぁとにかくこいつと一緒にいると安全・・・でもないか、いろいろと巻き込まれるし・・・なんていえばいいんだろうな・・・虎の威を借りる狐状態にはなるから」


「それは大丈夫なのか・・・?余計な恨みを買う可能性は」


「あるな。ていうか他人からの評価がやばくなる。俺に至ってはこいつと一緒にいるってだけで危険人物扱いだ」


「一緒にいるだけでか・・・少し距離を置いて歩いてほしいものだな」


「汚いもの扱いされて辛いわー。一応仲間なのにこの扱いとか酷いわー」


もはやこれ以上反論しても意味がないため、康太もだいぶおざなりな返事になってしまっている。


というか康太が危険人物扱いされているのは今に始まったことでもないのだ。もはやいまさらである。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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