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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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老後の思惑

ある程度休んだ康太たちは一度店に戻り、再び準備を整えてから次の場所に移動していた。


「なぜ私まで又行かねばならんのだ・・・山登りなど一度行けば十分だろうに・・・」


「はいはい、そういうのいいからお出かけしましょうね」


心底いやそうにしているアリスを引きずりながら移動する康太に、倉敷は苦笑してしまっている。


確かにアリスがいる必要性はない。とはいえあれだけ疲れていた人間を再び連れていくあたり康太はなかなか鬼畜だなと今更ながら思っていた。


「だけど八篠、どうしてそんなに連れまわすんだ?別に俺たちだけでも探す分には問題ないだろ?」


「まぁな。お前の師匠を探すだけならそこまで連れまわす必要はないけど、せっかくの機会だしさ」


「何がせっかくの機会だ・・・私は別にその気になれば世界各国津々浦々どこにでも行けるのだぞ・・・!」


「さすがに長年不法入国を繰り返しているだけあって重い言葉だな。ビザの確認とかされるなよ?」


「大体その不法入国云々だって割と最近にできた制度だろうが。昔は来るもの拒まずくらいの国付き合いだったというのに、いつの間にこんなに堅苦しくなったのか」


「まぁ、そのあたりは仕方ないんじゃね?」


アリスの言う昔というのがいったいいつのことを言っているのかはわからない。少なくとも現在の国の名前になるよりも前の話である可能性が高いためになんとも言えなかった。


アリスからすれば世界で国境という境目を作っている時点でナンセンスなのだろう。別にそんな線引きをしなくてもアリスには何の影響もないのだから。


「まぁぶっちゃけさ、それくらい日本語上手だったら普通に日本人ですって言っても通じるよな。むしろ英語喋れませんくらい言っておけば警察が来ても日本で生まれた子なんだくらいに思うだろ」


「この見た目で日本人っていうとすごい違和感あるけど・・・まぁそういうのもあるか・・・アリス日本語上手だもんな」


「ふふん、褒めたところで何も出ないぞ?」


アリスは確かに見た目完璧な白人だが、何も白人だからといって日本語が喋れないということはなく、白人でも日本人であることが不思議ということもないのだ。


両親が若くして日本に移住し、日本で生まれ日本で育てば、日本語しか喋れなくてもなにも不思議はない。


「それで・・・次は一体どこに行くのだ?どんな山だ?それとも森か?」


「だいぶ荒んでるな・・・次は・・・どこに行くかな・・・師匠がさっきの場所に一カ月前ってことは・・・もう二、三か所くらい先を行かれてるかも・・・」


あらかじめ決めておいたルートを考えながら、倉敷は唸り始める。


どこに行くのが一番可能性が高いのかを考えているのだろう。そんな中康太は神加の方に視線を向けていた。


「神加、疲れてないか?今日はもう休んでてもいいんだぞ?」


「私もお兄ちゃんと一緒に行く。一緒に居たい」


「・・・そうか、それじゃアリスと一緒にハイキングだな」


「うん、アリス、また一緒にいこ?」


「・・・ミカを味方に引き入れるのは卑怯ではないのか・・・?無垢な幼子の純粋な心をもてあそびよってからに・・・」


「何を言っているのかわからないな。俺は一緒にハイキングに行きたいと思っているだけだというのに」


「・・・くそ・・・コータ、覚えているがいい。いつかお前が老いたら絶対に方々に引きずりまわしてやる・・・!」


「そりゃどうも、世界旅行に行けるとは有り難いね。その時は文も一緒に連れていくよ」


「私も!」


康太の若さがいつまで続くかわからないが、少なくとも康太が老いるころでもアリスは若さを保ったままだろう。


何百年もこの姿でいるのだ。あと五十年程度でそこまで大きく変化するとも思えなかった。


今はアリスと同程度の体格でしかない神加も、今後どんどん成長していって、いつかはアリスを抜かして大人の女性になっていく。


康太もこのまま大人になって、子供を作って、老いていき、皴が増え、いつかアリスに振り回される時が来るのだろう。


そんな人生も悪くはないなと思いながら康太はアリスを引きずり続けていた。


「でもさアリス、俺が死ぬときはさ、ちゃんと葬式に出てくれよ?」


「葬式か・・・そうだな・・・仕方がないな」


身近な人間の死。康太は最近それを体験したばかりだ。人の死に関しては少々思うところがあるのだろう。


死んだ人間が何も思わなくても、何も感じることができなくても、幸彦の葬式のように大勢の人に弔われたのであれば、それは良い人生だったのではないか。そんな風に思うのだ。


死が良いことだとは思わない。だがあのように見送られたのであればと、思わずにはいられなかった。


「俺の子供ができたらさ、アリスの弟子にしてやってくれよ。お前になら預けられるし」


「誰との子なのかは・・・まぁいいとして・・・良いのか?私の弟子はたいていろくな最期を遂げていないぞ?」


「それはその人次第だろ。まぁそもそも俺の子が素質があるかどうかもわからないけどな」


「間違いなく有望な子が生まれるだろうよ」


康太と文との子ならば、きっと優秀な魔術師に育つ。そんな確信がアリスにはあった。


理由はない。あえて言うのならば『勘』というやつだろう。


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