洞窟大冒険
「よし決めた。次は滝に行くぞ」
「滝か、いかにも水属性って感じがするけど・・・滝だと結構有名なんじゃないのか?観光地的な意味で」
華厳の滝然り、ナイアガラ然り、大きく壮大な滝は大抵観光名所になっているのが常だ。
水がただ落ちる場所と言われればそれだけなのだが、マイナスイオン的な意味なのか、それともただ単に自然豊かな場所が珍しいだけか、そういった場所は大抵観光名所として取り上げられている。
精霊が多くいるような場所、あるいは精霊と語らえる場所というと人気の少ない場所の方がそれらしいように思えるが、滝ということはある程度人がいるかのように思えてしまって仕方がなかった。
「そうでもないぞ。滝って言っても地下水脈の中にあるやつだからな。入るのは結構勇気がいるような場所だ」
「それってあれか、鍾乳洞の中とかそういうところを入っていく感じか?」
「そうそう、立ち入り禁止の看板すら立てられないような場所にある。山登りよりは楽だろうけど、それでも結構難所を通るぞ」
「よし、三人とも、すまんが私は腹痛だ。危険と隣り合わせの冒険はお前たちだけで」
「逃がすと思うか?旅は道連れ世は情けっていうだろ?」
「地獄への旅路まで共にするつもりはない。離せコータ」
「残念だったな。死なばもろともだ。万が一の時の命綱役になってもらうぜアリシア・メリノス」
「こんな時ばかり私の力をあてにしよって・・・!もっとちゃんとしたところで頼ってほしい・・・!」
本来ならもっと封印指定の力をフル活用できるような場所で頼ってほしいのだろうが、基本的に康太はアリスの力を頼るのを嫌がっている。
こういう何でもない時ではないとアリスの力を頼りにできないのだ。逆に言えばどうでもいい時はアリスの力を使い放題に近い。
リモコンを取ってほしいだとか、部屋の隅の掃除を任せたりだとか、隣の家に回覧板をもっていってほしいだとか、そんなどうでもいい頼みばかりなのだ。
アリスにとってこれほど頼られ甲斐のない依頼もない。危機感のない状況でのみ康太は頼ってくるからこそ断りにくいのだ。
「はいはい、別に何度か行ってるから危険じゃないぞ?いやまぁ一般人にとっては危険かもしれないけど」
「俺たちだってパンピーだぞ。高校生なめんな」
「お前はパンピーなめんな。お前みたいなのが一般人だったら世の中もっと物騒だわ」
失礼な奴だなと康太は憤慨しているが、倉敷は全力で康太の言葉を否定したかった。
少なくとも康太は一般人とは言えない。仮に魔術を使わなくとももはや康太は一般人の枠を大きく超えてしまっているのだ。
その自覚があるのかないのか、康太は「俺って一般人で通るよな?」とアリスに問いかけている。
アリスが苦笑いしながら回答を濁しているのが非常に印象的だった。
「はいはい、さっさと行かないと日が暮れるから行くぞ。途中までは協会の門を使わせてもらいたいから、八篠、頼むぞ」
「あいよ。っていうかちょっとした小旅行を繰り返してる気分だな・・・一日に何カ所回れるかね?」
「移動が結構かかるからな・・・一カ所か二カ所が限界だって。この子らを連れてったらなおさらだ。体力がもたない」
「大丈夫だ。そんなときのためにウィルを連れてきている。仮に倒れてもこいつが操り人形してくれるからな」
ウィルもなかなか細かな作業に慣れてきたのか、最近では操り人形の状態でダンスに近い動きさえもできつつある。
なんでそんな動きを体得する暇があったのかと聞かれればアリスが見ていた動画に影響されたらしい。
アリスが動画を見ながら体を動かしているのを直に体感し、それを真似たのだとか。普段動かないくせになんでダンスなんて見てるんだと康太は気がかりだったが、今は置いておくことにする。
「その軟体、本当に便利だよな・・・うらやましい・・・」
「やらないぞ。こいつはうちの子だ。そのうち正式に神加のお供になるんだからな」
「・・・この子につけるのは確定なのか?」
「確定だ。お前にはやらん」
「・・・お前って変なところで過保護だよな・・・」
可愛い妹であり弟弟子でもある神加のことを康太は溺愛している。といっても成長を助けるという意味でなのだが。
どちらにせよ、ウィルを将来的に神加専属にするというのは嘘ではない。今後面倒な案件に神加が巻き込まれることを予想して、少しずつウィルと神加の距離を近づけ続けてきた。
最近ずっと神加の近くにウィルを居させることもある。神加もその関係に慣れてきたのか、ほぼウィルをクッション代わりにして移動まで任せているくらいだ。
そろそろウィルを纏わせての戦闘方法も覚えさせようかなと画策しているほどである。
「まったく・・・どいつもこいつも男というやつは・・・若い女の味方をしよってからに・・・老いぼれは肩身が狭いの」
「お前が言っても説得力ないんだけど。もうちょっと老けてからそういうこと言えよな。まだまだ若々しいですよ?」
「ふん、私の肌はまだピチピチよ。未だ十代の張りを維持しておる」
「体は十代だからな」
そんなやり取りをしながら、康太たちは一度協会を経由して倉敷の案内のもと、目的の場所へと向かっていた。
「わぁ・・・すごい・・・」
「あの世につながってそうな穴だな・・・その分場所もひどいところにあるけど」
康太たちは倉敷の案内で件の場所にやってきていた。
倉敷の言うところの洞窟とやらを探した結果、この場所にたどり着いたのはいいものの、そこにある洞窟の入り口に康太と神加は驚くほかなかった。
大きく開いた穴。そしてその底が見えないのである。
直径は二十メートルほどはあるだろうか。先がどうなっているのか全く見えないほどの深い穴。いったいどのような構造になっているのか想像もできなかった。
その入り口の地面が斜めならばよかったのだが、ほぼ直角に近い形で開いている穴だ。これでは一般人がこの場所に入るのは少々難しいだろう。
専門の道具でも用意すれば違ったのだろうが、この場所自体もかなり面倒な行き方をしなければ来ることはできなかった。
山を一つ越えて、その後で崖に沿って移動してきたのだ。途中ウィルの助けがなかったら荷物を落としていたかもわからない。それほど危険な場所だった。
「・・・で、アリス、大丈夫か?」
「これが・・・大丈夫に・・・見えるのなら・・・眼科に行け・・・!」
そして例によって例の如く、アリスは体力を使い果たしてウィルの上に倒れこむようにして荒く息をついている。
山を一つ越えただけではなく崖際を移動するとなるとその体力の消耗はかなり大きかったようだ。
もはやこの光景を見るだけの余裕もないようである。
「とりあえずカロリーとっとけ。それにしてもすごいな・・・穴の底が見えない」
「ここ、普通に下りたんじゃ目的地には着けないんだ・・・途中で横穴にそれて、その後で少し浮上しないといけなくてな・・・毎回ずぶ濡れにならなきゃいけなくて面倒くさかったんだよ」
「なるほど、天然のネズミ返しってことか。一般人にはちょっと難しいな」
そういった康太は神加を背負い、アリスを抱きかかえる。
「んじゃいくか。案内引き続き頼んだぞ?」
「飛び降りる気満々だな・・・まぁ確かにそれしかないんだけどさ・・・」
倉敷は水を操りながら道を作り、そこに飛び込んでいく。戦闘などに使うボードを持ってきていれば滑走できたのだろうが、山登りに必要な道具しか持ってきていないために空中に作った水の道を泳ぐことで進んでいた。
「神加、しっかりつかまってろよ?ウィル、二人の体の固定は任せた」
ウィルが康太にまとわりつき、アリスと神加の体をしっかりと康太に固定するのを確認すると、康太は倉敷の後に続いて巨大な穴に向けて飛び降りる。
一見すれば自殺のように見えるが、康太は再現の魔術によって疑似的に足場を作り出し噴出の魔術も併用してバランスを整えながらゆっくりと下降していった。
「こっちだ!こっから横に入る!ついてきてくれ!」
「了解!こんだけ暗いのによくわかるな・・・」
「霧を出して内部の構造を把握してるからな。できるなら火とか明かりを出してくれると助かるんだけど?」
「あいにくライター以上の火は攻撃用の魔術しかないんだよ。攻撃もどきになってもいいっていうならやってやるけど?」
「いやいい。お前に頼んだ俺が間違いだった・・・頭ぶつけるなよ?」
「大丈夫、ウィルがちゃんとヘルメット作ってくれてるから」
この空間の詳細を把握している倉敷と違い、康太はこんな場所にくるのは初めてだ。巨大な地下空間。少し索敵してみれば周辺は岩肌だらけ。鍾乳洞に近いのだろうが康太は岩の構造などには詳しくないためそれ以上のことはわからなかった。
「すごいね・・・お姉ちゃんも来ればよかったのに」
「そうだな・・・カメラに撮っておくか・・・って言っても暗いから見えないか」
地下に入ってしまっているためにまともな光源などもはやない。時折康太の体から放たれる噴出の炎がわずかに辺りを照らしている程度だ。
こんなところはまず間違いなく人の来る場所ではない。文字通り魔術師や精霊術師しか来ることのできないような空間だ。
「次は上に上がるぞ!ついて来いよ!」
「あいよ。結構進んだな・・・もう本当に何も見えない・・・神加、何か見えるか?」
「ううん・・・でもいる。たくさん」
「精霊か?」
「うん、こっちだよって呼んでる。あっちの方」
神加は康太の背中でその方向を指さしているのだろうが、もはや背中にいる神加の姿さえも見えないほどの暗闇の中にいるため、神加がどの方向を指さしているのかさっぱりわからなかった。
あとどれくらいあるのかはわからないが、それでも神加は精霊の声と存在を感じ取っている。
やはり精霊に対しての感知能力が高いのだろうと康太は考えながら倉敷の後についていくと、倉敷は空中に作った水の塊から抜け出して、濡れてしまった衣服の水を搾り取ろうとしていた。
空中に作り出された大量の泡が、倉敷の服にくっつくと同時にその中に水分をため込んでいく。
かつて奏に教わった魔術をさっそく実践しているようである。
「ここがゴールか?」
「ここからもう少し先に行く。少し降りることになるけど、水気が多いから転ぶなよ?」
「わかった。まだ真っ暗だな」
康太は携帯のライトを照らしながら周囲を確認する。岩肌にコケがこびりついている。空気が湿っているところを見ると水気が多くなってきているようである。
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




