面倒事ホイホイ
「いやぁ・・・悪かった・・・助けてくれたってのに驚いて悲鳴上げちゃって」
「まぁ仕方ないんじゃないかってのはあるけどな。あんな状態見たら」
目を覚ました瞬間に、何やら拷問チックな道具を並べている人間たちを見たらそういう反応にもなるだろう。
襲われた直後ということもあって、恐怖心が勝っていたのかもしれない。康太も倉敷もそのあたりを理解しているからか特に責めるつもりはないようだった。
「助けたのは俺じゃなくてそいつだ。俺は場所を貸したのと、情報を絞り出しただけ。そっちに礼を言っておけよ」
「そうだったな・・・ありがとう、もし助けてくれなかったらどうなってたことか・・・」
「気にしなくていいよ。っていうかこいつのこと紹介してなかったな。こいつはブライトビー。俺が今一緒に行動してる魔術師だ」
倉敷が康太の術師名を告げた瞬間に、先ほどまでの安心した表情は一変し、ここが地獄の淵なのではないかと思えるような絶望した表情に変わる。
精霊術師でも康太の悪評を聞く機会があったのか、わずかに震えて涙目になってしまっている。
「え・・・?マジで・・・?俺どうなるの?どうなっちゃうの?」
「別にどうするつもりもないよ。トゥトゥの連れなら危害を加えるつもりはないし、今回のは不可抗力だ。逆にどうされたいのかが気になる」
「・・・無事に家に帰りたいです」
「ならそうする。ただ一度支部に顔を出してもらうぞ。お前らが襲われた理由を調べるためにも、情報源は多いほうがいい」
そこまで話して康太は自分から距離を取っている精霊術師の方を見る。
「ていうかお前の名前は?こいつの連れとしか聞いてないんだけど」
「あ・・・あぁ、俺の名前はシアン・アクラ・・・トゥトゥエルの精霊術師仲間だ」
「ん、そりゃどうも。今回は災難だったな。こいつが俺らについてきてる武闘派だったのは不幸中の幸いってところか」
「あ・・・あはは・・・っていうかトゥトゥエル、お前が一緒に行動してる魔術師ってブライトビーのことだったのかよ・・・!」
「言ってなかったっけ?俺一年以上前にこいつに喧嘩売ってさ、その関係で今こうして一緒に行動してるんだよ」
「どういう過程を踏んだらそうなるのか不思議でしょうがないんだけど。お前が妙に協会に顔を出してたのはそういうことだったのか・・・」
「いやあっちは別件なんだけど・・・まぁ説明が面倒だからそれでいいよ」
実際倉敷は康太だけと行動を共にしているわけではない。春奈と一緒にいることの方が多く、今や半ば弟子のような形になってしまっている。
春奈も倉敷のことを信頼していろいろと教えているようである。そういう意味ではもはや春奈の身内と言えなくもない。
協会に頻繁に足を運ぶというのは康太の用件ではなく、春奈の用件の方が多いだろう。康太の場合は面倒ごとが起きた時だけ支部に足を運ぶが、春奈の場合はもっと別の案件が多く存在する。
実験や他の魔術師との提携など、やることが多い彼女からすれば倉敷はちょうどいい労働力なのだ。
「話はそこまでだ。こいつを支部に運ぶ。トゥトゥ、こいつに服着せるの手伝ってくれ、この状態じゃ外にも出られない」
ほぼ全裸状態の魔術師に、康太は服を着せていく。ウィルが体を動かすといってもほぼ裸の状態で外に出すわけにはいかない。倉敷も康太に従ってせっせと魔術師に服を着せていった。
「っていうかトゥトゥエル・・・こいつをほぼ一人で倒したんだよな?お前いつの間に魔術師より強くなったんだよ・・・」
「こいつと一緒に行動してるとそうならざるを得なくなるんだよ。無駄に実戦と訓練を積むからな。そうなりたいなら頼んでやろうか?どうするビー、こいつも一緒にいろいろ連れまわすか?」
「んー・・・そいつの属性は?」
康太の問いに倉敷はシアンに視線を向ける。一応他人の属性を勝手に話すわけにはいかないと思ってのことだが、シアンとしては別に話しても問題ないのか、無言でうなずいた。
「属性は炎だ。俺の水とは相性の悪さもあってよく訓練してもらってるんだよ」
「なるほど、そういうわけだったか」
炎、康太としてもあまり得意な属性とはいいがたい。
防御そのものが難しいためどうしても回避一辺倒になってしまう。単純な射撃系ならばともかく。広範囲に展開する炎はよけようがないために強引に突破する結果にもなる。
練習相手にするのは良いかもしれないと考えたが、それだけ攻撃的な属性を有していながらこの相手に対して即座に気絶させられてしまったというあたり、戦闘能力はそこまで高くはないのだろう。
炎属性はどうしても防御能力が低い。そういった部分を狙い打たれた可能性も高いが、倉敷と比べるとどうしても見劣りする部分があるようだった。
「で?どうする?連れまわすならそれなりに強くさせないとダメだと思うぞ?」
「・・・いや、変に連れまわすのは悪いな。今回支部に行くのはお前らが襲われたからその被害者って立場で行ってほしいだけだし、俺らと一緒にいるといろいろと危ないからな。そこまでするつもりはないよ」
「・・・俺の時と比べて随分と優しいじゃんか」
「あれはお前が喧嘩を売ってきたからだ。喧嘩を売ってきたお前が悪い」
喧嘩を売ったのは事実であるために何も反論できない倉敷ではあったが、倉敷が言っていた喧嘩を売ったというのが事実だったということを知ったシアンは驚愕の表情を作っていた。
「というわけです支部長、トゥトゥが襲われて攫われそうになりました。調査したいので記憶を読める魔術師を何人か用意してもらえますか?」
支部に向かい、当然のごとく支部長に話をしに行った康太に対して、支部長は頭を抱えてしまっていた。
他にもやるべきことはたくさんあるのだろうが、支部長からすれば康太とこうして話をする時間も大事なのだろう、他の予定を繰り越して時間を作ってくれているようだった。
「・・・クラリスほどでもないけどさ、君は君で結構面倒ごとを持ってくるよね・・・精霊術師がさらわれるって・・・相手は魔術師だったんでしょ?」
「普通の魔術師くらいならこいつは単騎で攻略できますよ。伊達に俺らと一緒に行動してません」
「・・・そっか、そうだったね。うん、事情は分かったよ。それで、記憶を読むって・・・そこで伸びてる彼に使えばいいのかな?」
「えぇ、どうやら洗脳かけられてるみたいで、情報絞り出そうとしたらなんか言語がバグっちゃったんですよ」
「なるほど、それで情報を取るために記憶をってことか・・・了解したよ。今手配する。少し待っていてくれるかい?専属魔術師の中にそういう魔術を使える人がいるから、すぐに捕まると思う」
「ありがとうございます。すいません、お忙しい中」
「構わないよ、ちょうど君と話す時間が欲しかったというのもあるしね」
支部長が康太と話す時間を欲するというのはどういうことだろうかと康太は首をかしげていた。
支部長はどう切り出したものかと少し迷っているようだった。少なくとも淡々と切り出せるような内容ではなさそうだった。
「以前、君に本部の副本部長宛に情報をもっていってもらっただろう?情報漏洩の関係で」
「あぁ、そんなこともしましたね。それが何か?」
「副本部長に伝達した拠点のすべてが攻略完了した。構成員がいなくなっているということもなく、中からは無事情報も得られた」
「・・・ということは、情報漏洩のもとは副本部長ではない・・・と?」
「その可能性が高いというだけさ。重要度が高くないからその拠点は見捨てたというだけの可能性もある。そのあたりは得られた情報を精査してどちらなのかを判断することになるかな」
自分の疑いを晴らすためにいくつかの拠点をわざと放置した可能性だってある。そう考えると副本部長が情報の流出源である可能性が少し減っただけで確実とは言えないようだった。
「他の支部のやった調査状態はどうなってます?ほかの本部の人間にも同じようなことしてるんですよね?」
「今のところ本部長にも似たようなことをやったという報告は上がってる。副本部長と大体同じ結果だったよ」
「トップの二人は問題ないと?」
「あくまでその可能性が高いというだけさ。あとは残りの幹部連だけど・・・まだすべての拠点の攻略が終わったわけではなくてね、その結果待ちってところ」
「そうですか・・・幹部連が違っていた場合はどうするんですか?」
「一応情報系統を扱っている魔術師はある一定の法則があるからそのあたりからあたってみるつもりではいるよ。他の支部の中でも意見は割れているけどね」
「割れている・・・というと?」
「本部に情報を上げずに、支部だけで問題を解決しようってことさ。本部を抜いた支部の戦力を結集すれば、問題なく攻略は可能であるっていう意見も出てる」
本部が情報流出の大本であるならば、確かに本部に情報を上げずに攻略したほうが実入りは大きいかもわからない。
だがそれはつまり支部と本部がたもとを分かつということでもある。
「でもそれって協会が不利になるだけですよね?」
「あぁ・・・連携がとれているところにうちの強みがある。それをなくせば協会はただの烏合の衆だ」
連携がとれていなければ魔術協会だって単なる魔術師の集合体でしかない。本部をトップとした各支部の統制がとれているからこそ、効率よく物事を進めることができているが、その統制から外れれば勝手に行動するものが多くなるだろう。
情報の流出には、こういった内部への疑いの目を向けさせ連携をさせなくさせる目的があるように思えて仕方がなかった。
「僕としては反対なんだよ。情報の流出は痛いけど、逆に言えばその人物を捕まえてしまえば相手の情報を吐かせることだってできる。このまま裏切者を探すのは必要不可欠だと思うんだ」
「同感です。どうしても不透明な相手の情報ですが、裏切者ならそれなりの情報を持っているはず・・・得られるものは大きいでしょうから」
康太の目が鋭くなっていっているのに支部長は気づいていた。わずかに怒りさえ込められたその視線に、支部長は困ったような表情をする。
先ほどまで、倉敷を連れてきたときまではいつもの様子と変わらなかった。だが敵対している組織の話をしだしたとたんに、康太の感情は怒りに向いている。
幸彦の死が康太に強く影響を与えているのは支部長も知っていた。だがここまで露骨なものだとは思っていなかった。
どうしたものかなと支部長は少し悩んでいた。まだ学生の康太をこの件に関わらせ続けてもよいものか。
たぶん誤字報告を五件分受けると予想して二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




