情報を抜き出すには
「あいつらは・・・やばいんだ・・・やばい奴らなんだ・・・!」
抽象的ながらも相手の特徴を話し始めた男の言葉に、康太は耳を傾けていた。とはいえ手にしたドライバーはそのままだ。今も魔術師の眼球のすぐ近くに添えられている。
眼球に向けられたドライバーを直視しながら、魔術師は震えながら、ゆっくりと情報を口にし続けている。
「あいつらの目的を考えれば、別におかしい話じゃないかもしれないが・・・中には反感を覚えるやつらもいる。そいつらはみんな・・・消された・・・変な部屋に連れていかれて・・・二度と出てこなかった」
随分と過激な思考と行動を伴った魔術師の集合体であるらしいことを知った康太は、この魔術師が、その中では下っ端に近い立場であったということを理解する。
あいつらというのがその魔術師たちのチームの幹部なのだろう。
その部屋にいったい何があり、何をしたのかはわからない。だがその恐怖がこの魔術師に強く刻み付けられているのはわかった。
「逆らったやつは消される、だけど意見は聞く、仲間なんだから。でも逆らったら許さない、俺たちはそういう立場なんだ、大事なのは目的を阻害すること、それ以外は寛容なんだ、だから逆らっちゃいけない、仲間でい続けなきゃいけない、仲間でいれば消されない」
康太は魔術師の話す内容が、少しおかしくなっていることに気が付いていた。話す内容の一つ一つは間違っていないように思えるのだが、脈絡がなくなりつつある。
眉をひそめながら康太はドライバーを向けている眼球を見つめる。だがその目はすでにドライバーも、康太も映してはいなかった。
「あいつらに逆らったらどうなるか・・・わからない・・・それに、あいつらの言うことが正しい、正しいんだ、だから言うことを聞いてい逆らってない、違う逆らって言うことを聞くん命令をこなしてい仲間なんだから」
「・・・そういうことか・・・いやな手段使ってんな」
「これ・・・なんだよ・・・明らかに様子がおかしいぞ?」
言葉に強引に別の言葉が入り込む。まるで強引に編集した動画のように、間違ったタイミングで異なる言語が不意に飛び出す。
それがどういうことなのか、倉敷は理解できなかったが康太は大まかながらに理解することができていた。
「どういうつもりなのか知らないけど、こいつのバックはどうやら仲間とやらに洗脳とかの精神に直接作用する魔術を使ってるっぽいな・・・というか魔術師相手にもそれがかけられるってことは結構な実力者か」
「もう喋ってることが無茶苦茶になってきてるぞ・・・壊れたレコーダーみたいだ・・・もう話は聞けそうにないか・・・?」
「やりようによるな。アリスに頼めば記憶を読んでくれるだろうけど・・・こういうやつの記憶って大体ずたずたになってるだろうし・・・なんでこいつがわざわざ昼間にお前らを狙ったのかもわかったよ・・・たぶん正常な思考ができてなかったんだろ」
正常な思考ができていれば、魔術師ならば昼間に大きく行動することなどはありえない。
仮に倉敷やもう一人いた精霊術師が原因で引き起こされたとしても、日中では人目につく可能性を考慮しておとなしくしておくものだ。
どうしてもそれをしなければならない状況ならばまだわかるが、それほどの状況であったとは考えにくい。
康太の言うように、正常な判断能力が欠如している状態で行動し続けていたと考えるのが自然だろう。
そして康太が強いストレスをかけたことによって、正常でない部分が大きく誤作動を起こしている。それがこの言語がおかしくなっている理由なのだろう。
「っていっても・・・襲われたことには変わりないし、何よりそれなりに強かったぞ?」
「とはいえ装備のないお前相手で勝てるってことは、やっぱりそれなりでしかないってことだろ。しかも足手まとい抱えた状態でも勝てるんだから」
「・・・否定はしないけどよ、もうちょっとオブラートに包んでくれないか?一応知り合いなんだからさ」
「そりゃ失礼。でも実際邪魔だったろ?」
「・・・少しな」
倉敷の戦闘能力は比較的高い。特に同年代の精霊術師と比べれば別格である。さらに言えば同年代の魔術師と比べても、おそらくほとんどの魔術師相手に勝てるだけの実力を有している。
素質面で圧倒的に劣らない限り、倉敷の技術と胆力はすでに一定以上の水準を満たしているのだ。
「さて・・・こいつをどうするか・・・情報を本格的に抜き出すならやっぱりアリスえもんに頼るのが一番なんだけど・・・」
「鐘子は?あいつはそういうのできないのか?」
「あー・・・確かできなくはなかった気がする。神加の一件の時にちょっと教わってたような・・・?聞いてみるか・・・といってもこいつの記憶を読んでくれるかは怪しいぞ?内の可愛い弟弟子と違ってただの魔術師だからな?」
「・・・お前結構身内びいきがひどいな」
「あぁん?うちの弟弟子がかわいくないとでも?」
「はいはい可愛い可愛い。んなこといいからさっさと連絡してくれよ」
康太をぞんざいにあしらいながら、倉敷は魔術師の体内にある水分を操り続けている。
徐々に慣れてきたのか、こうして話をしながらでも平然としていられる。さすがに今まで多くの戦闘を潜り抜けただけはあって順応能力は高い。
康太はそんな倉敷をしり目に、文に電話をかけていた。
『はぁ?なんでそんなことになってるのよ』
「俺が知るか。狙われてしまった倉敷に文句を言ってくれ。ということで記憶を読んでほしいんだけど」
『あのね、私はあの時アリスに記憶を読ませてもらっただけで記憶を読めるわけじゃないのよ?アリスに読んでもらって、それを私が見るっていうならいいけどさ』
「あー・・・そうだったっけ・・・?もう覚えてないわ・・・もうだいぶ前の話だからなぁ」
文が神加の記憶を見たのはもうすでに半年近く前の話になる。
あの時はアリスが神加の記憶を読み、その映像を文にとにかく見せてその風景を文が絵にするという手順を踏んでいた。
その時の記憶が曖昧になってしまっているために、文が記憶を読んでいたと勘違いしていたのである。
かなり前の話であるために無理もないかもわからない。
「んじゃ結局アリスを頼るしかないのか?こいつの頭の中かなりひどいことになってそうだけど」
『洗脳系の魔術をかけられてるなら、その魔術を解除すれば普通の状態に戻らないの?私洗脳とかの魔術に詳しくないからよく知らないけどさ』
「どうなんだろ。洗脳でボロボロになった脳みそは戻らないんじゃないか?実際やってみないことには分らないけど・・・洗脳ってどうやれば解けるんだ?殴ればいいのか?」
『一昔前のテレビじゃないんだからそんなに簡単に解除できるわけないでしょうが。そういうのはあんたの師匠の方が詳しいんじゃない?術式の破壊とかは得意でしょ?』
「あいにく今師匠は珍しく出かけててな・・・姉さん・・・は神加の相手をしてるから駄目だな・・・やっぱアリスがいいか・・・あるいは支部に行ってちょっと読んでもらうか・・・それも手だな」
何も記憶を読むことのできる魔術師はアリスだけではない。協会にいる魔術師の中には記憶を読むことができる魔術師だっているはずだ。
そういった魔術師に依頼を出すか、協会側にこのことを報告して問題として取り上げてもらえれば支部長自ら勧告を出して記憶を読ませることができる可能性もある。
『少なくとも精霊術師に対して攻撃を仕掛けて、しかも背後がいるっていうなら協会に話を通す必要もあるでしょうね。攫うのが目的だったんだっけ?』
「聞いた限りじゃな。具体的にどういう理由で攫おうとしたのかとかは知らないけど、何かしらの理由と背後があるのは間違いない。連れて行ったほうがいいかな・・・?ウィルに手伝ってもらえば一人くらいなら連れていくのは問題ないし」
『もう一人の精霊術師ってのは?もう起きてるの?』
「あ、忘れてた。おい倉敷、そっちの起きたか?」
「うなされてるよ。まだ起きるには時間かかりそうだな」
「可愛そうに、よほどひどい目に遭ったんだな」
「・・・眠ってるときに悲鳴を聞かされてりゃ夢見も悪くなるっての」
気絶している状態で近くで拷問をしていて、悲鳴が轟いている状態で夢見が良くなるというのは考えにくい。
この精霊術師がうなされてしまうのも仕方のない話かもしれない。ひどい目に遭ったからうなされているというよりも、今この状態こそがひどい状態なのだ。
『可能ならその人も連れて行ったほうがいいと思うわよ?倉敷だけで十分だとは思うけど、証言は多いに越したことはないわ』
「そりゃそうだ。面倒くさいけど何回かに分けるか・・・さすがにウィルも二人同時に操るのは難しいし・・・いっそのこと強引に起こすか」
康太が気絶したままの精霊術師の方に目を向けると、倉敷がその視線をさえぎるように前に立つ。
かばっているようにも思えるその行動に康太は小さくため息をつく。
さすがの康太も倉敷の知り合いに暴力を振るうほど敵味方の区別がなくなっているわけではない。
「ドクターストップがかかったから駄目だな・・・文はこっち手伝えないか?文の念動力ならうまいことできるんじゃないかと思ったけど」
『私今結構忙しいのよ?あんたと別行動する程度にはね』
「ふぅん・・・そうか、残念・・・」
康太にしては珍しく落ち込んだような声に、文はため息をつく。
『康太、安心しなさい。私はいつでも・・・その・・・あ、あんたのことを考えてるから』
「・・・文さん今顔赤いっしょ?」
『うっさい!いいからさっさと行動しなさい!』
文は荒っぽく通話を切る。
康太のことを慰めようとしてくれていたのだろう、その言葉はしっかりと康太を元気づけていた。
「なんだ?結局手伝ってもらえそうにないのか?」
「ん、まぁこっちで何とかするしかないさ。とりあえず協会に運ぼう。わかったこともあったしわからないこともあるから、とりあえずは支部長に報告だ。とっととこの人も起こしたいけど・・・」
「お前にやられると大変そうだから俺がやるよ。お前はそっちのやつを運ぶ準備してくれ。いつまでもバグった状態じゃ運べないだろ」
「それもそうだな。とりあえず気絶させるか」
そういって康太は魔術師の顎を的確に蹴り、脳震盪を起こさせる。見事な手際だなと倉敷はあきれながら気絶したまま精霊術師に声をかけていた。
その十分後、精霊術師は目を覚まし、自分がどのような状況になっているのか理解できず混乱し悲鳴を上げてしまっていた。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




