居候の変化
「コータ、ちょっとこい」
通夜を終えて店に戻った時、康太はアリスに呼び出されていた。
まだ明日以降行われる葬儀の準備などをしようと考えていたのだが、アリスの有無を言わせない様子に康太は逆らえなかった。
「サユリから聞いた・・・お前の体、何やら妙なことになっているらしいな」
「え?俺の体はいつも奇妙だと思うけど?」
「輪をかけてという意味だ。サユリに歯向かった時に帯電していたと聞いた。どういう状態なのか調べる」
帯電したという言葉に康太は首をかしげる。思い当たる節がなかったのだ。
康太はあの時自分の体の状態を正確に把握できるような精神状態ではなかった。自分の体が帯電していたなどと言われても、何それ状態なのである
「帯電してたって言われても・・・俺雷属性の魔術使えないんだけど」
「だから言っているのだ。おそらくお前の中の精霊が何かしたのだろう・・・ついでに気になることもあるから少し体を調べさせてもらうぞ」
「それは別にいいけど・・・え?すぐに!?」
当たり前だという言葉と同時に、康太はアリスによって念動力で浮かされ、完全に身動きが取れない状態にされてしまっていた。
アリスがその気になったら抵抗などできないためにされるがままになるほかなかったが、せめて食事くらいはとらせてほしいなと康太は少しだけ困った表情をしていた。
地下の倉庫の中に用意されたアリスの借りているスペースに、いつの間にか簡易式のベッドが置かれている。
いつの間にこんなものを用意したのかと気になっていたが、康太はその疑問を口にするよりも早くそのベッドに横にされていた。
「ウィル、すまんが手伝ってもらえるか?」
いつの間にかついてきていたウィルに助手を頼むアリス。普段から魔力を注入したりしているためにアリスとウィルはそれなりに仲が良いようだった。
ウィルがついてきたことで何事かと神加もやってきている。そして神加のことを案じてか真理もついてきていた。芋づる式とはこのことを言うのだろうかと康太は眉をひそめてしまう。
「アリスさん、どうかしたんですか?なぜ康太君を?」
「ちょうどいい、マリの意見も聞かせてもらおうか。少々こやつの体が奇妙なことになっているようなのでこれから調べるところなのだ」
「調べる・・・というと、具体的には?」
「こいつの中の精霊が今どのような状態になっているのか調べる。サユリの話では神加のそれと同じような状態なのではないかといっていた」
アリスが一瞬神加の方に視線を向けるが、神加は自分のことを言われているということはわかっても、自分の何のことを言われているのかわからないのか首をかしげている。
「コータならば好きにいじくりまわしても文句は言わないからな。ここは存分に調べさせてもらうぞ」
「いや、俺が文句を言うんだけど・・・ていうかどういうことだ?神加と同じ状態って」
「うむ・・・サユリの証言ではお前が歯向かってきたとき、暴走に近い形でも術の発動が確認できたそうだ。術ともいえないようなお粗末なものだったとあ奴は言っていたが、それでも精霊が自発的に術を発動したことに違いはない」
「なるほど、話を聞く限り確かに神加さんのそれと似通っていますね・・・それで調べると・・・もしかしたら康太君が精霊との意思疎通ができない原因が解明されるかもしれませんね」
「そういうことだ。ついでに確認したいこともあったしの・・・というわけで康太、まずは服を脱げ」
「いきなり大胆ですねアリスさんや。さすがにいきなりって・・・え?全裸になれっての?」
「全裸になれとは言わん。上半身だけ脱げ。脱がんというなら私が脱がすぞ」
「脱ぐからやめてくれ。なんだよその痴女発言」
康太はしぶしぶと着ていた服を脱ぎ始める。夏ということもあって薄着だったため脱ぐのにそう時間はかからなかった。
康太の上半身はもともと小さな傷が多く目立っていたが、先ほどの小百合との戦闘によって痣が目立つ状態になっていた。
鍛え上げられた傷だらけの肉体に、神加と真理が悲しそうな表情をするがアリスはそんなものには目がいかなかった。
康太の胸元に手を当てて何やら集中し始める。いったい何をしているのか康太には分らなかったが、康太の中にいるデビットが妙にざわつき始めていることに気付いていた。
何か嫌なことでもされているのだろうかと思いながらそわそわしていると、アリスは大きくため息をついて一瞬悲しそうな表情をする。
「次だ、次はコータ自身に変化を加える。少し情緒が不安定になるかもしれんが、そのあたりは許せよ?」
そういって康太の額に手を当てると、ゆっくりと深呼吸してから魔術を発動する。
次の瞬間、康太の記憶が揺り起こされる。
それらはフラッシュバックのように次々と場面が変わっていき、その時々の感情や感覚が伝わってくる。
大量の情報に、康太の体がわずかに痙攣するが、次の瞬間、康太の体からわずかに電撃が発生していた。
「・・・これか・・・ん・・・?なんだこれは・・・?いやまて、そうか、そういうことか」
「あ・・・!?なんだ?どういうこと・・・?」
康太の体にはいまだに電撃がまとわりついている。康太は自分の体がどういう状態なのかわからず、なおかつ自分の中に今ある感情を制御できていなかった。
腹の奥から湧き上がってくるような感覚、体を動かして何かを壊したいような、そんな衝動にかられそうな感覚、怒りが康太の心を支配していた。




