自分になろうとする
「わかったぞコータ、随分と面白い状態になっているな・・・こんな状態を見るのは私も初めてだ」
アリスが初めてという状態なだけあって、アリスは楽しそうに康太の体を調べようとしているが、康太の体から発せられている弱い電撃に阻まれてしまっていた。
「見た目的には格好いいんですが・・・あんまり威力は高くないですね・・・静電気の強いバージョンみたいな感じでしょうか」
「うむ。出力自体は高くない。サユリの言もなかなか的を射ているというべきか・・・だが正確ではないな、これは暴走とはいいがたい」
「・・・とりあえずどういう状態なのか教えてくれないか・・・っていうかこの状態辛いんだけど」
体の奥から湧きだしてくる怒りの感情に、康太は自分の体を押さえるのに必死になっていた。
こういう時はたいてい体を思いきり動かせばすっきりするのだ。だが今はアリスが調べ物をしているためにそうすることもできない。
アリスが感情を固定しているのであれば、康太自身ではこの感情を変えることは難しそうだった。
「うむ、そうだの・・・では説明しよう。コータと、コータの中にいる精霊の状態についてだ」
アリスは康太の感情の操作を一度やめ、正常な状態に戻すと、空中に絵を描いていく。
魔術による立体映像のようなものだ。説明のためにも高度な魔術を使うあたりさすがアリスというべきか。
「本来、精霊と人間のやり取りは他者と他者による会話と同じ。体に住まわせる代わりに代価として魔力の補給や貯蔵などを頼むのが一般的だ。マリやフミ、私もこれと同じような状態だと思ってほしい」
「うん、それは何度も聞かされたからいいんだけど・・・俺の場合相手が引きこもりの対人恐怖症みたいな感じで全く返事がなかったよな?」
「うむ、それこそがヒントだったのだ。何も返事がない、それこそ精霊の答えだった。お前の中にいる精霊はお前自身になろうとしているのだ」
アリスの作り出された絵はデフォルメされた康太の絵と、その中にいる雷の精霊を描いているのだが、その説明を聞いても康太は全く理解ができなかった。
真理も神加もその説明を理解できなかったのか首をかしげている。
「ごめん、もうちょっとわかりやすく説明してくれないか?」
「うむ、まぁ一発で理解されるとは思っていない。通常の精霊と違うのは、お前の中にいる精霊はお前と全く同じ感情と、同じ考えを持っているものになろうとしているということだ」
「・・・ん?なんで?」
「なんでと聞かれてもそれは知らん。考えられるのは・・・そうだな・・・もともとその精霊は赤子と母親の強い影響を受けたものだったか?」
「うん、そんな感じだった気がする」
康太がこの精霊を入れるきっかけになった案件。確かにこの精霊は二つの強い意志の影響を受けた精霊だった。
子を守ろうとする母と、助けを求める赤子。
その影響を受け、泣き声だけが聞こえるのにその存在を感知しにくい状態にあった。神加がいなければ見つけることもできなかったかもわからない。
「赤子というのは良くも悪くも他者の影響を強く受ける。スポンジの如く物事を吸収していってしまう。つまり元のただの精霊に戻るところが、コータの影響を受け、康太そのものへと変貌しつつあるのではないか、というのが私の仮説だ」
「・・・えっと?俺の一部になろうとしてるってこと?」
「いや違う。あくまで精霊は精霊でお前自身ではない。ただお前の中にいるうえで、お前に限りなく近い存在になるというだけだ。あくまで感情や考え方の話でお前の中に精霊がいるという事実に変わりはない。その代り、当初感じていた違和感は今は全く感じないのではないか?」
「・・・そういわれると・・・」
康太は自分の体を調べるが、確かに精霊を最初に入れた時のような独特な違和感は今は全く感じない。
かなり集中して探さないと精霊が中にいるということも忘れてしまいそうなほどである。
「お前との親和性が高くなったことで、より効率よくその存在を主張できるようになったということだろう。お前の中の新しい感情を学習することでお前に近づき、このように電撃を発することができるようになったのだと思われる」
新しい感情。精霊を入れてから康太が出してこなかった感情。通常の喜怒哀楽の中で、康太があまり出してこなかった感情は、怒りと悲しみだ。
今回の件で、康太は強く怒りを覚え、強く悲しんだ。後悔し、絶望し、その絶望に対して怒り、恨んだ。
そういった新しい感情を精霊が学習し、より康太に近い考え方や感じ方ができるようになった。
そのため、より強く自己主張ができるようになった。康太としての自己主張。康太の感情と同調して勝手に動く、そんな存在になったのだという。
「お前が怒ったときは、その精霊も怒り、敵を攻撃しようとする。その感情がトリガーになってお前の中の精霊は動き出すということだな。話しかけても返事が返ってくるはずがないのだ。自分自身に質問をして、別の誰かが答えてくれるはずもない。自問自答に他者の声が聞こえるようになればそれは異常者だ」
アリスの言葉に康太は自分の中にいる精霊を感じながら、自分の中にいるもう一人の自分とでもいうべき雷の精霊を意識していた。といっても、何が違うのか全く分からなかったが。




