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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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不可逆性の何か

「えっと・・・石ですよね?」


「そう、石なんだよ。これは石なんだ」


いきなり呼び出されたと思ったら石を見せられる。これはいったいどのような意味があるのだろうかと康太は首をかしげてしまう。


そんな中、一緒に来ていたアリスはその石を見てわずかながらに目を細めていた。


「あの・・・この石がどうかしたんですか?」


「まぁ来てくれ。そして触ってみてくれれば僕が何が言いたいのかがわかる」


「はぁ・・・」


触ってみればわかる。そんなことを言われても正直どう反応したらいいのかわからなかった。


とりあえず支部長の言う通り置かれた石に触ろうとすると、康太の手はその石を通り抜けた。


「うぇ!?」


一瞬何が起きたのか康太は理解できなかった。確かに目の前に置いてあるはずの石に触れることができないのだ。


立体映像の類だろうかと思って索敵を発動してみるが、確かにこの場所に間違いなく物体として石が存在している。


だというのになぜか触れることができない。目の前にある。それは間違いない。アリスのように視覚を魔術でごまかしているというわけでもない。


索敵を魔術で隠蔽しているということもなさそうだった。誰かが康太をだまそうとしているのではなく、単純に『この石がおかしい』のだ。


「これ・・・いったい何ですか?触れないなんて・・・ていうかどうやってここに?どこから持ってきたんですか?」


「ブライトビー、君は念動力系の魔術は発動できるかい?」


「えぇ・・・」


「それで持ってみてくれるかな?」


康太は一応念動力に属している遠隔動作の魔術を使ってその石を掴んで見せる。


先ほど自分の生身の手は通り抜けた石だが、遠隔動作によって作り出された念動力の手はその石を掴み持ち上げて見せた。


「・・・魔術なら干渉できるのか」


「そういうことなんだよ・・・物理的に存在しているはずなのに物理的に干渉ができず、魔術的には干渉できる。でもこうやって机の上に置くとかそういうことはできる。なんとも矛盾に満ちた存在でね・・・明らかに何らかの魔術で生み出されたっていうのはわかるんだけど」


物理的に干渉できないのにこうしておくことはできる。生き物が触れられないのかもしれないと思って康太は自分が持っていたナイフを取り出して石に触れさせようとするが、石に触れることはかなわずナイフは通り抜けてしまっていた。


「生き物だけを透過するわけでもない・・・でも物体には置くことはできてもナイフとかは通す・・・どうなってるんだこれ・・・?っていうかこれを一体どこで?」


おそらく支部長が康太とアリスを呼んだのはこの部分だろう。何かが関わっていて、何かが起こっていて、それを康太に知らせ、可能ならアリスに解析して欲しかったのだ。


「今回、君たちとは別のチームが件の組織の拠点を攻略したんだ。その時見つけたものがこれだそうだ」


「ってことは何かしらの実験結果ってことですか?連中が目的としている『何か』の・・・?あるいはそれに近しい何か?」


「可能性は非常に高いと思っているよ・・・連中が何を目的としているのかはいまだにはっきりしないし、これがあったからといってなんだって話だけどさ・・・この石を生み出すことができるのは間違いなく危険だ」


触れない石を作り出すことが危険。単純に誰かを傷つけるとかそういう話ではない。魔術の隠匿という観点から、この石は危険なのだ。


一般人にこの石が知られでもしたら、間違いなく大々的に取り上げられる。無論最初こそ立体映像の類ではないかと思われるかもしれないが、それらしい映像機器がないことがわかれば、この石そのものがおかしいのだと気付かれる。


この石は放置しておくわけにはいかない。もちろんこの石を生み出すことができる術者やその術式そのものも野放しにはできない。


「この石を生み出す術式は禁術になるってことですか?」


「それならまだいいけど、最悪封印指定になるだろうね・・・戻す方法があるのなら禁術で済むだろうけど・・・ないのなら・・・」


存在の不可逆性というものは厄介で、ありとあらゆる行為や事象などによって手を加えた後、元の状態に戻すことが非常に難しいのである。


紙をはさみで切った後、元通りにすることができないように、紅茶にミルクを混ぜた後、そのミルクだけを取り出すことが困難であるように、単純に加えられる一つの手段に対して元の状態に戻すという方法はかなりの難易度を誇る。


多少似た形にすることはできるだろう。だが決して同じではない。


支部長が言うように、一方通行の術式ならば、もう二度とこの石を元に戻すことはできないということになる。


こんな石をいくつも作り出されては、魔術の隠匿がかなり難しくなる。


ついこの間のビデオの話に少し似ている。一般人に気付かれないように管理しなければいけないのが魔術協会の責務だ。


その責務を全うするため、この石を作り出す術式は早い段階で封印する必要があるということも康太は理解していた。


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