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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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結果は上々?

「あ・・・あの・・・ブライトビーさん・・・?」


「ん?どうした?」


召喚のために魔力を注ぎ込んでいる中、一人暇をしている康太に話しかける者がいた。


今回やってきている魔術師の弟子である。中学三年生と中学一年生。康太からすれば後輩にあたるであろうその少年と少女が恐る恐る康太の方に視線を向けていた。


「あの・・・ブライトビーさんは・・・協会内でいろいろと・・・その・・・噂を聞くんですけど・・・」


「あぁ、だいぶ脚色されてるけどね・・・ちなみにどんなことを聞いた?」


噂の大本たる本人が目の前にいるというのに、堂々とその言葉を口にできるほど彼らは豪胆ではないようだった。


言おうかやめようか迷っている様子で、ちらちらと康太の顔色を窺っているようにも見える。


もっとも仮面があるために顔色などわからないのだが。


「まぁいいにくいわな・・・この部屋は俺がよく使ってた部屋ってことは知ってる?」


「いいえ、知りませんでした・・・」


「この部屋では何をしてたんですか?修業とか勉強ですか?」


修業中の魔術師はそういう考えになってしまうのかなと康太は苦笑してしまう。だがこれが明らかに気を遣った発言であるということも理解できた。


康太の噂を知っているのであれば何となく想像はできているのだろう。


「ここは主に捕まえてきた敵の魔術師を尋問するのに使ってた。固定できる椅子を使って、そこに魔術師を縛り付けて、こう・・・な」


尋問という言葉で濁したが、それが拷問であることを二人の魔術師はすぐに理解できたことだろう。


部屋の細かなところ、小さな溝や傷などについている黒い汚れのようなもの、そして部屋に充満する彼らの嗅いだことがないなぞの異臭。


それらが何を意味するのかを理解してしまったのか、二人の魔術師はわずかに体を震わせていた。


「まぁ勉強もしなきゃいけないっていうのはわかるんだけどな・・・そういうのは拠点とか、あるいはここの図書館でやってる。術式が読めるのはありがたいしな」


「ちなみにその・・・聞いていいのかわからないですけど、今おいくつですか?」


「この前十七になった。高校二年生」


「「え!?」」


康太の年齢を聞いた瞬間に二人が同時に驚愕の声を上げていた。まさかそこまで歳が近いとは思わなかったのだろう。


協会で広まっている康太の戦績を考えれば無理もないかもしれない。魔術師において年齢というのは魔術に関わってきた年数と同じくらいに気になるものだ。


「まだ未成年なのに・・・あんなすごいことばかり・・・?」


「年齢はあんまり関係ないな。俺の場合は周りの影響が大きい。特に師匠の影響が大きいわな」


「デブリス・クラリス・・・ですか」


小百合の悪評を知らないものは協会の中でもかなり少数だろう。日本支部の前支部長を再起不能に追い込んだ人物なのだ。


人の噂も七十五日というが、小百合のそれはおそらくいつまでも語り継がれることだろう。噂ではなくある種の伝説として。


「ちなみに、あっちにいる俺の相方と知り合いな、一人は俺と同い年で、もう二人は一つ下の後輩だ。結構年齢的には近いぞ?」


「・・・そう・・・なんですか・・・」


年齢的にはほとんど同じであるにもかかわらず、こうして立っている場所は全く違う。


依頼を出す側、そして受ける側、さらに言えばこうしてみているしかない立場であるのかどうか。


彼らからすればこの立ち位置は、魔術師としての差を感じるには十分すぎた。


そしてすぐ近くにいる魔術師、ブライトビーの存在。話している限り特別な何かを感じることはできない。


保有魔力に関しては彼らの師に劣る程度であり、気さくに接してくる康太はそこまで恐ろしい人物のようには感じられなかったのである。


そのおかげか、二人の雰囲気は先ほどよりもずっと柔らかくなっていた。年齢が近いということに加え、康太が気さくに話しかけてくれているということが彼らの緊張を解くことにつながっていた。


「まぁあの三人に関しては一種のエリート教育を受けてるし、素質も半端ないからな・・・ぶっちゃけ俺よりもすごい」


「そうなんですか・・・ブライトビーさんは今まで精霊を入れてなかったんですか?」


「あぁ、師匠の言いつけでな。ある程度のレベルに達してないと属性魔術を覚えてもしょうがないだろうって・・・最近になってようやく許可が下りたんだよ」


「そうだったんですね・・・あの・・・もしあなたに精霊が合わなければ、譲っていただけると・・・」


「そのあたりは今回受けてる魔術師全員の話し合いで決まるな。うちの連中は精霊はいらないから、受けてくれる五人の話し合いで決めるだろ。そのあたりはそっちで勝手にやってくれればいい」


「ありがとうございます」


精霊を譲ってもらう可能性があるということもあって二人は少し落ち着かない様子だったが、先ほどよりは態度も軟化している。危険人物であると思われていた魔術師が思っていたよりも常識的だったから拍子抜けしたのだろう。


「ところで・・・あの人は誰なんですか?」


「あの人?どの人?」


「あっちの金髪のキレイな人です。あの人もブライトビーさんのお知り合いですか?」


「あの人は・・・私たちと近い歳ではないですよね?」


視線の先にいるのはアリスだった。だが康太はこの問いに対してどのように答えるべきか迷っていた。


何せ、今のアリスが周りの人間にどのように見えているのか、どのように見せているのか康太自身わからなかったからである。


普通に考えれば少女の姿をしているのだろうが、アリスの場合は状況によって相手に見せる姿を変えている。


女性であることは変わらないのだろうがそれ以外の特徴に関してはその時々によって魔術によって見える姿を変えてしまう。


そのため、あの魔女をどのように紹介するべきか、少しだけ悩んでしまった。


「あいつは・・・まぁ同い年ではないな。俺の年上の魔術師なんだけど、召喚の話をしたら協力してくれた。正確な年齢は知らん。成人はしてるらしいけどな・・・気難しいけどいいやつだよ」


「へぇ・・・二十・・・五歳くらいでしょうか?」


「え?もう少し若いんじゃないかな?肌とかの見た目は二十歳くらいに見えるけど・・・」


肌だけで年齢を判断できるのは何かの特殊技能なのだろうかと康太は内心苦笑してしまう。


年上なのは間違いない。そして何も嘘は言っていない。そんな康太の説明に二人は各々見えているアリスの姿で年齢を想像するが、その五十倍近い年齢であることを知ったらどのような感想を抱くだろうかと康太は苦笑してしまっていた。


そして彼女こそが封印指定二十八号その人なのだと言ったら、この二人はどんな顔をするのか。康太は想像してしまい首を小さく横に振った。言わないほうがいいなと。


「外国の方ですよね?やっぱり海外で出会ったんですか?」


「あぁ、あいつは封印指定の案件の時に知り合ってな。あの時にすごく助けてもらって、その縁で今も一緒にいることが多くなってな」


「海外だとやっぱり日本とは違いますか?魔術師とか、そういうの」


「違う・・・と言いたいところだけど・・・俺自身あんまり海外での行動経験が少ないからよくわからないっていうのが正直なところだな・・・まだ三回しか行ったことないし」


初めて海外に足を運んだのは封印指定百七十二号ことデビットに関わった案件。そして次が封印指定二十八号ことアリシア・メリノスに関わった案件だった。


そして三回目が中国における殲滅戦である。この三つの事柄で康太は海外に足を運んだ。そのどれもで厄介な想いこそしたものの、戦いにおいてはあまり違いはなかった。


「あぁでも、道に迷ったのは厄介だったな・・・地図の場所なんかわからないし、標識も何が書いてあるのかわからないし、人に聞こうにもそもそも現地の言葉が話せないし・・・だからって空に跳び上がって探すわけにもいかないし・・・あの時は本当に絶望したよ」


「へぇ・・・そんなことがあったんですか」


「意外です・・・道に迷うとか・・・そういうのは・・・ないものかと」


「いやいや、あれは迷う。本気で訳が分からなかった。現地も何も知らない状態で案内人をつけなかった俺が悪いんだけど、知らない土地で気軽に散歩とか行くもんじゃないってつくづく学んだよ」


康太が知らない土地で迷子になっていて、そしてその状況に強い絶望感を抱いていたところを想像したのか、二人は仮面の下で静かに笑ってしまっていた。


顔は隠せていてもわずかに肩が震えているのを押さえられていないため、バレバレなのだが、今は良い空気を作れているということで見逃すことにした。


ここで突っ込めば彼らはまた身を強張らせてしまうだろう。せっかくできた平穏な空気を崩すこともない。


「そこであいつに会ったんだ。ちょうど協会の依頼できてた俺に接触してきてさ、日本語も話せたからすごい助かったんだよ。地獄に仏とはまさにあのことだな」


「そういうことだったんですね・・・でもその・・・迷子っていうのはちょっと驚きました。そういう状況にならないタイプの人だと思ってたので」


「そうそう、完璧な人だと思ってた。徹底的っていうか、抜け目ないっていうか・・・」


「何言ってんだ。俺なんて抜け目だらけだぞ。ぶっちゃけ俺を一人にすると大抵やらかすことになる。だからベルとかは俺につきっきりなんだよ・・・あ、あそこの髪長い奴のことな」


文のことを指さしながら康太はため息をつく。実際康太は一人だと大抵何かをやらかすのだ。


それが良い方向に転ぶかどうかはその時々だが、自分一人で何かを考えた時、たいてい極端な方向に話をもっていく節がある。


小百合の弟子らしいといえばらしいのだが、康太のことを知らない彼らからすれば先ほどの迷子の話を引き合いに出されたため笑い話のようにとらえているようだった。


彼らの頭の中でブライトビーは意外と普通の人で、少し抜けている人という印象が与えられた瞬間である。


何もかもを破壊するような凶悪な人物ではなく、噂がこなしてきた実績に比べ先行しすぎてしまっているのだなと解釈したのである。


「日本ではどんなことをやっていたんですか?協会に張り出されてるのはちょっと多すぎて」


「えっと・・・護衛とか調査とかが多いな・・・あとは救出もやったか・・・やってることは主に問題解決ばっかりだな。そういう意味じゃ何でも屋に近い」


何でも屋。確かに康太は何でもやってきた。依頼であればたいていのことはこなす。文や他の術者とも協力しながらではあるが。


協会や身内などの依頼をこつこつとこなす中で培われた経験は、康太の中に確かに息づいている。


そんな雑談をしている中、部屋の中にあった方陣術がまばゆい光を放ち始める。


最初の召喚が始まったのだということを理解した康太は即座に光を放ち続ける方陣術に視線を向ける。


光の中からゆっくりと現れた炎を纏った大きなカエルのような精霊を見て康太は近くで魔力を注ぎ続けていた魔術師たちへ視線を向ける。


代表して文が小さくうなずくと召喚が無事成功したことを確認し安堵した。


携帯のタイマーの表示は四十五分となっている。思っていたより時間がかかったのは今日最初の召喚のため魔力の調整に時間がかかったのだろう。


「まずは一回・・・さっさと入れてみてくれる?」


「はいよ・・・こう・・・か?」


康太は火の精霊に近づいていき、手が届くほどの位置まで来ると体の中から魔力を放出して道を作っていく。


その魔力に導かれて火の精霊は康太の体の中に入っていく。康太の体の中に侵入し、その体の内部へと浸透していった瞬間、康太の中に強烈な違和感が生じる。


もはやそれは違和感というレベルをはるかに超えた、感覚の錯誤といってもいいほどのものだった。


右腕と左腕の感覚が逆転しているような、目を動かす感覚そのものが変化するような独特な、それでいて強烈な変化に、康太は思わず身をかがめた。


そしてその瞬間、火の精霊は康太の体から飛び出して再び召喚陣の真ん中に降り立った。


「ダメだ、違和感強すぎ」


「そう・・・残念ね。じゃあこの精霊は皆さんで試してみてください。私たちはその間に次の準備に入りますから」


「ありがとう、それでは遠慮なく」


康太が精霊との相性が悪かったと判断した時点で、この精霊の契約権は康太から協力してくれた魔術師たちへと移ることになる。


康太もそれに異論はないが、先ほどの違和感が強すぎて未だに目を回してしまっていた。


「きっつ・・・今のはひどい相性だったな・・・」


「そんなにきつかったんだ。よほど相性が悪かったのね」


「よくありますよ、むしろ相性がいい精霊の方が少ないくらいです」


「俺らも何度も試しましたからね」


精霊をその身に宿している経験者である文や土御門の双子が苦笑しながら再び召喚の方陣術に魔力を注ぎ始めている。


仕事熱心で何よりだよと康太はため息をつく。協力してくれている魔術師たちも一人一人精霊を体の中に入れているが、あまり好ましい結果は得られなかったようである。


一人一人精霊を入れては出してを繰り返し、最終的には全員精霊と契約することはかなわなかったようだ。


「ダメだったね・・・それじゃあ次のを手伝うよ」


「次はもう少し早く行けると思う。目標は三十分を切るところかな」


心強い限りだと康太は薄く笑みを浮かべながら壁に背を預けながらゆっくりと深呼吸をする。


あそこまで強い違和感を覚えたのは久しぶりだった。まだ身体能力強化の魔術をうまく扱えずにいた頃の感覚に少し似ている。


体のバランスが著しく崩れ、体を動かすことすらままならなかった頃に何度か体験した感覚。


もうだいぶ昔の話なのに、今でもこうして思い出せるということはそれだけ今まで積み重ねた修練の時間が自分の血肉になっているのだなと康太は笑ってしまっていた。


「あの・・・残念でしたね」


「ん?あぁ、こればっかりは確率だからな、仕方ないさ。そっちもダメだったんだろ?」


「はい・・・残念ながら」


「そりゃ残念だったな。まぁ今日中に契約できれば重畳、また別の日に持ち越しってことも十分にあり得るな・・・」


精霊の召喚というのはあくまで相手との相性が重要になってくる。特定の条件に当てはまる存在を無作為に選んできた人物との相性が良いかなど、そうそうあるものではない。


それが精霊という自分たち人間と全く違う存在であればなおさらである。人間同士であればある程度気を遣うということもできたのかもしれないが、精霊相手にそのようなことを期待しても無駄。

となれば本質の相性を見極めるほかない。


こればかりは数をこなして相性を見極める以外に方法がない。下手な鉄砲ではないが、数をこなさなければ精霊との契約はできない。


それは今まで何人もの魔術師が通ってきた道だ。同じように何人もの精霊術師が通ってきた道だ。


面倒ではあるが、別の方法を思いつかない以上、仕方がないというほかない。


「こいつらと仲良くできるやつがいればいいんだけどな・・・」


「・・・こいつら・・・?」


いったい誰のことを言っているのか、近くにいた中学生の二人には理解できなかったことだろう。


康太の中にいるデビットと、すでにいる雷の精霊。この二つの存在との相性も加味されるとなれば難易度は跳ね上がる。


今日は契約できないかもなと、一回目から何となく思ってしまった康太はうなだれる。


二種類以上の精霊を身に宿している人物は何人か心当たりがある。康太の兄弟子の真理やこの場にいる文もその一人だ。どうやってそれだけの精霊を身に宿したのか、いやどれだけの時間をかけたのか、非常に気になるところでもあった。


精霊の召喚を開始して、休憩をはさみながらすでに八時間が経過していた。


精霊の召喚の数は十四回、ほとんど三十分に一回ペースで召喚されている精霊だが、康太の体に精霊が宿ることはなかった。


ただ一人精霊を宿すことに成功した。連れてこられた魔術師の弟子のひとり、中学三年生の魔術師だった。


「今回はありがとうございました。良い結果を得られました。そちらは結果は振るいませんでしたが」


「いえいえわかっていたことですから。また召喚をやると思いますので、その時はよろしくお願いします。報酬は協会を通して支払わせていただきますので」


ありがとうございましたと康太が一礼すると、協力してくれた魔術師たちも一礼してその部屋から退室していく。


部屋の中に残されたのは方陣術と康太、文、アリス、土御門の双子たちだった。


「いやぁ・・・予想してたけどこれだけやってもダメか。沼が深いな精霊ガチャは」


「まぁよくよく考えたら単発ガチャでひたすら引いて、しかも一回引くのに三十分かけてるわけだからね。リセマラしてたって時間がかかるってものよ」


通常のアプリなどのリセットマラソンの場合、たいてい一回に五分から十分程度の時間を想定して、それでも数時間から数十時間を要する。


一回の時間が多くなればその分時間はかかる。さらに言えばシステムでどれだけの確率で出ると定められているものと違って、今回の場合は完全にランダムとなっている。


そもそも相性のいい精霊がいるかもわからない状態で、これほど劣悪な召喚を繰り返さなければならない。


さらに言えば召喚には複数人の魔術師の協力も必要である。康太の場合比較的金銭面では苦労はしていないとはいえ、何十回何百回と繰り返せばそれらも枯渇するだろう。


「とりあえず片づけましょ。疲れちゃったわ」


「あぁ、とりあえず片づけて・・・今度トゥトゥを呼んでここ掃除してもらうか、この辺りの汚れとか気になりだしてくるとちょっとな」


「水圧で汚れ落とし?それならお湯とかの方がいいかもしれないわね。洗剤とかも用意しておきましょうか」


そんなことを言いながら方陣術を解体していく文たちをよそに、康太は壁や床についている汚れを一つ一つ確認していた。


そんな中、康太たちのいる部屋の扉が勢いよく開く。


「ブライトビーはいるか!?」


駆けこんできたのは支部の専属魔術師だった。かなり急いできたのか、だいぶ息を切らしている。


鬼気迫るその様子に康太たちは一瞬顔を見合わせた後でその魔術師のもとに歩み寄る。


「どうしたんですか?何かありました?」


「すぐに支部長室に来てくれ、あぁブライトビーと、可能ならアリシア・メリノスも来てくれ」


「私か?いったい何の用だ?」


「ここで話すのは少々はばかられる。とにかく急いでくれ」


可能なら強引に連れ出したいのだろうが、康太とアリスにそのようなことはできないのか、とにかく必死についてきてくれと懇願している。


康太は文の方に視線を向ける。行ってもいいだろうかと。


「私はこれを解体した後でこの二人と一緒に後で支部長室に行くわ。先に行ってて」


「了解。んじゃアリス、行くか」


「うむ・・・いったい何だろうかの?」


つまらない用件ならば即座に帰ってやると言わんばかりの様子のアリスに、康太は少し苦笑しながら魔術師に案内されて足早に支部長室へと向かう。


そこには何人かの魔術師が集まっており、その中心に支部長がいた。


仮面の上からでも面倒くさそうな案件に立ち会ったというのがよくわかる、所謂面倒くさいオーラを周囲に振りまきながらあぁでもないこうでもないと思案を重ねているようだった。


そして康太とアリスがやってきたことを知ると、少しだけ喜んだ様子で二人を招き入れた。


「よかった、入れ違いにならずに済んだか。時間的にもう帰ってしまったかと心配してたんだよ」


「どうしたんですか?いきなり呼び出されたんですけど・・・ひょっとして何か問題ですか?これから誰を倒せばいいんです?」


「非常に頼もしい言葉をありがとう。でも今回は誰かを倒せばいいとかそういうものじゃないんだよ・・・非常に面倒な案件になってしまってね・・・いや、ぶっちゃけ僕からすればこれがどれくらい面倒なのかどうかも測りかねる」


「・・・どういうことですか?」


「ん・・・実際に見てもらったほうが早いか・・・これなんだよ」


支部長が示したその先には支部長がいつも使っている机がある。


いつも通り書類などがあり、先ほどまでもデスクワークを行っていたであろうことが容易に想像できる状況だった。


そんな中、普段の支部長の机の上にはないものがそこにはあった。拳大の石。


書類が飛ばないように押さえるためのものにしてはあまりにも不釣り合いで、適当にそのあたりから拾ってきたのではないかと思えるほどに形も歪だ。


だが土の類が一切ついていない。洗ったのだろうかと思えるほどに汚れ一つない石しかそこにはなかった。


支部長がこの石のなんのことで悩んでいるのだろうかと康太は一瞬首をかしげてしまう。


誤字報告を15件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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