追いつかれる前に
『お、どうやらしびれを切らしてきたみたいだね・・・三人とも、ちょっと警戒してくれるかな?奴さん近づいてきているよ』
幸彦の声に従って康太たちは意識を集中する。未だ索敵に引っかかる距離にはいないが、幸彦曰く徐々に距離を詰めてきているらしい。
「よくわかりますね・・・やっぱ俺には全然わからないです」
『そのあたりは経験がものをいうのさ。とはいえ僕も索敵で見つけているわけではないから確実にとはいいがたいけどね・・・気配が少し変わった』
幸彦の独特の感覚に康太たちはついていけていないが、相手がしびれを切らしたというのは間違いないのだろう。
どの段階で仕掛けてくるかは不明だが、警戒しておいて損はない。
『それにしても・・・すごくゆっくりとではあるけど速度を上げてきたのにどんどん距離を詰めてきてるってことは・・・たぶんそれなりに早い車種に乗ってるね。それがバイクか車かはわからないけど』
『ビー、いつでも戦闘を行えるように準備して、トゥトゥ、あんたは援護の準備よ。このトラックが止められたら一気に追い打ちをかけられるわ。前回の二の轍を踏むのだけは避けるわよ』
「了解、あんなふうに囲まれたら厄介すぎるからな・・・っていうか相手は一人なんですかね?」
『そこまではわからないなぁ・・・結構な威圧感を放っている奴が一人いるってことは確実だけど・・・こうして追ってきているんだ、一人ってことは考えにくいね。たぶん運転手とそいつを合わせて最低でも二人ってところかな』
戦力を遊ばせておくほど相手に余裕があるのならまだしも、今回の状況で運転手を用意しないというのは愚策だ。
運転に意識が集中してしまい戦いどころではなくなってしまう。
もっとも康太たちの場合は一番の戦力である幸彦に運転を頼んでしまっているのだが、そのあたりは年齢制限や免許の制限があるため仕方がないと思うべきだろう。
「今度はバラバラにすることも視野に入れないとな・・・いちいち動き回りながら戦ってる余裕はないし・・・目的地までの距離は?」
『あと三十分ってところかな・・・まだまだかかるよ?このペースだと移動中に戦闘になるのは避けられないかな』
「仕方ないか・・・協会の人間には面倒をかけるけど回収を頼むべきか・・・?それとも俺も降りて戦うか・・・」
『ビー、今回の敵で打ち止めっていう確証があるなら降りてもいいけど、その確証がないのならやめておきなさい』
「でもさ、雑魚を何人捕まえても情報を知らなきゃ意味がないだろ?ある程度強い奴を捕まえておく必要があるって」
『それはそうだけど、今回の作戦は捕獲作戦、餌をぶら下げていれば追ってくるんだから。目的地・・・あるいは広い場所にたどり着くまで時間稼ぎをしながら戦うって手もあるんだから。移動中に勝負をつけるだけが選択肢じゃないのよ?』
移動中という悪条件に惑わされがちになってしまっていたが、何も目的地にたどり着くまで戦う必要はないのだ。
少し広い場所にたどり着いた時点で倒せばいいだけで、そこまで行動に制限がかかっているわけではない。
「じゃあライリーベル、比較的広い場所を探してくれないか?近くに水辺があると非常に助かる」
『了解、私はルート上で広い場所を探してみるわ。あんたたちは迎撃の準備をお願い。ある程度の範囲に入ったら教えるわ。後方を常に警戒しておいて』
「アイアイマム。さすがはベルだ、いろんな意味でさえてるぜ」
「あいつがいなかったらお前も結構無鉄砲になるからな・・・いや、あいつがいるから考えなくてよくなってるのか?」
「いやいや、俺だって考えてるっての。でもそれは相手を倒すための思考であって状況をよくするためのものじゃないんだよな・・・」
今まで康太は対峙した魔術師とどのように戦うかということは考えてきたが、どのようにすれば有利な状況にもっていけるかは考えたことがない。
効果範囲の広い索敵を有していないために、地形や周囲の状況を利用しにくいのが原因の一つだが、小百合の訓練のおかげで大体どんな地形であっても戦えてしまうのが大きかった。
自分にとっての優位性を維持しながら相手を追い詰めるという行動をしてこなかったつけが今に回ってきているのである。
『少し速度を上げるよ。相手も近づこうとしてるから限度はあるけど、少しでも追いつかれるのを遅くしてみる』
「了解です。いっそのこと罠でも撒くか。パンクしてくれれば追いついてこないぞ?」
「捕まえるのが目的だって言ってんのに動けなくしてどうするんだよ」
「俺らの後ろについてきてるのは確実なんだから、そこは協会の魔術師総出でやってきてもらえばいいだろ。いちいち少人数で戦う必要もない、数の力で圧倒してしまえばいいだけの話よ」
康太の言うことも一応理にかなっている。だが問題は相手の存在を確実に捕捉できるかどうかというところだ。
そもそも後方にいるというのも幸彦の勘でしかない。そんな曖昧な情報に協会の人間はついていけないのだ。
せめて正確な位置さえわかれば何とかなるのだろうが、あいにくと未だ相手との距離は遠く、誰の索敵にも引っかかっていないのが現状である。
良くも悪くも時間だけはあるのだ。あとは広い場所にたどり着くことができるかということだけである。
『二人とも警戒して!索敵範囲に入ったわ!数は三!三人とも車に乗ってる!』
「来たか。あいつの索敵って範囲はどれくらいなんだ?」
「今は広くしてるはずだから、たぶん・・・六、七百メートルくらいじゃないか?目視はちょっときついかな?」
もうすぐ夜が明けるとはいえ、未だ暗闇に包まれている道路でそれだけの距離の物体を目視するのは容易なことではない。
特に道は常に一直線なわけではないのだ。ある程度曲線も勾配もあるために、目視で相手を捕えるのは難しい。
「ベル、相手との距離、正確に出せるか?」
『待って、今測定中・・・六百・・・いえ、五百五十!』
「距離五百五十了解。車種は?ワゴンか?スポーツカーか?」
『えっと・・・平べったいわ。ワゴンとかではない』
文自身そこまで車に興味がないために詳しい車種まではわからなかったが、平べったいということはある程度速度を出すために作られた車の可能性が高い。
トラックとではスピード勝負にはならないなと康太はわずかに目を細めるとトラックの背後の扉をわずかに開ける。
やはりまだ見えない。だが文が感知しているのだから間違いではないだろう。おそらくかなり無理をしているはずだ。後方だけに絞っているとはいえ索敵を五百メートル以上に広げるような真似をすれば情報量の多さで頭がパンクしてもおかしくない。
高速で動き続けているのがさらに処理を増やしているはずだ。あまり長時間この状態を続けるのはまずいかもしれないなと康太は内心歯噛みしていた。
「トゥトゥ、俺は上に行く。場合によってはバイクを外にぶん投げてくれるか?」
「いいけど・・・壊れても知らないぞ?」
「そのあたりはうまくやるよ。なるべく早い段階で相手を捕捉したいんだ。あと霧も出しておいてくれるか?不自然になるかもしれないけど相手への目くらましにはなる」
「でもそれだとお前も見えなくなるだろ?本末転倒じゃないのか?」
「大丈夫、だいぶ気配が強くなってきたからある程度はわかる。見えない相手との戦いは慣れたもんだ」
康太は普段からⅮの慟哭を使用して意図的に視界を封じる戦いを行っているために気配を読む技術には長けている。
相手がどのような実力の持ち主なのかはさておき、文の索敵に引っかかったということは相手もこちらを確認していても不思議はないのだ。
少しでも相手の処理を削るためにも、邪魔をする意味でも霧を出しておいて損はないと考えたのである。
「まぁそれなら・・・特別濃いのを用意してやるよ。ただスリップとかは期待するなよ?あくまで霧だからな」
「そういうのは期待してないよ。ベル、もし打ち込めるようなら電撃を撃ってもいいぞ?トゥトゥが道を作る」
『車相手じゃほとんど意味ないわよ。でもまぁこのまま黙って近づかれるのもいやね・・・バズさん、この場所に寄っていただけますか?この辺りでは一番広い場所です』
『ゴルフ場か・・・なるほど、確かにそこなら広そうだし水辺もあるね。多少荒らしちゃっても直すのは難しくない、いい場所だ』
ゴルフ場のような広大な土地であれば問題なく戦うことはできる。倉敷が要望した水辺も存在するし、土属性の魔術を使えば地形の変化はすぐに直すことができるだろう。
入るときに多少不法侵入のための魔術を使うかもしれないが、ばれなければいいだけである。
「ベル、協会の人間に先回りしてもらってその場所を確保してもらうことはできるか?」
『時間的にぎりぎりよ?あと十分くらいすれば到着できるもの』
「確かにぎりぎりだな・・・でも俺らが到着した段階ですぐにその場所に入れなきゃ意味がないだろ?やっぱ連絡は必須だろ、後始末的な意味でも」
『・・・そうね、わかった、協会には私が連絡しておく。なんかの要員で手が空いてる人にすぐ駆けつけてもらうわ』
もしゴルフ場に即座に乗り込めるとなればある程度強引に距離を作らなくても戦いの場所を作ることができる。
せっかく使える手札があるのだからそれを使わない手はないだろう。
「それじゃ行ってくる。トゥトゥ、援護頼んだぞ」
「おう、落ちないようにだけ気をつけろよ?今結構速度上がってるからな」
「落ちたらそのまま戻ってくるよ。短時間であれば空だって飛べるんだからな。さすがに車の速度に追い付けるかは微妙だけど」
噴出の魔術を使い続けたとして、車の速度に追い付くことができるかは怪しいところだ。というか試したことがないためになんとも言えない。
ウィルの力を借りればいけるかもしれないが、噴出の魔術を使い続ければ魔力消費も増えるためあまり使いたい手段ではない。
「ベル、進展があったら教えてくれ、バズさん、曲がるときとかは教えてくれるとありがたいです」
『安全運転を心がけるよ。後ろのやつらが近づいてきたら教えてくれると助かるな』
『了解よ、気をつけなさい、三人のうちの一人の保有魔力量は私よりも多いわ』
文の言葉にその場の全員が眉を顰める。文の素質は魔術師の中でもトップクラスだ。バランスよく、なおかつ高い性能を誇った三つの素質。そして魔力の保有量もこの中でおそらく一番多いだろう。
それよりも多い魔力量という事実に驚愕を隠せなかった、だが同時にその魔術師が威圧感を放ち続けている魔術師であるという可能性も高くなっていた。
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




