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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十五話「釣りをするのも大博打」

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赤黒い汚れ

「ほい、こいつら任せたぞ。もう気絶してるけど油断すんなよ?がっちり縛っとけ」


「お前、ずっと引きずってきたのか・・・?鬼畜の所業だな・・・」


「襲ってきたやつが悪い。服はだいぶボロボロになってるだろうけど死んではいないだろ・・・たぶん」


魔術で防御していたのは確認済みだったため、死んではいないだろうが、動くことはできなさそうだった。


「んじゃ後ろの奴らも片づけるか・・・ベル、車に乗ってるのがやばいのか?」


『私の感覚だとね。私も上に出て本格的に援護するわ。トゥトゥが捕まえた連中の捕縛を終えるまでは防御は任せて』


「了解、んじゃいくか」


短いやり取りだったが、相手が待ってくれない以上最低限の情報共有になってしまうのは仕方がない。

すでに後方に下がっていた車とバイクが追い付きつつあるのだ。これ以上は話をしている余裕はない。


「連中、ビデオの回収に加えてそいつらの回収もしてくる可能性があるから気をつけろよ?フォローはするけどかき回してるとどうしても限度がある」


「わかってるよ、お前はさっさとあいつら殲滅してこい」


『二人とも、来るわよ!』


文の合図とともに後方から追いついてきた魔術師たちが一斉に攻撃を仕掛けてくる。


とっさに障壁と水の防壁を展開した文と倉敷によって、その攻撃のほとんどが防がれるが、このままでは飽和攻撃をかけられるのは目に見えていた。


「トゥトゥ!俺が突っ込んで数を減らすから捕縛しとけ!それが終わったらまた防御!頼むぞ!」


「わかった!防壁はそのままにしとくから何とかしてくれ!」


康太はバイクを操り後方に迫ってきている魔術師たちの方へと一気に距離を詰めていく。


相手も康太が接近してきていることに気付いたのか、攻撃を康太の方にも向けようとするが、再びバイクに対して遠隔動作や噴出の魔術で強引にバランスを崩しにかかる。


だがさすがに何度も同じ手にはかからないということか、バイクごと念動力によって角度を固定して傾きを変えられないようにしているようである。これでは加速と減速くらいしか康太は操作できそうになかった。


自分に向けて放たれる魔術を、康太はバイクを操ることで回避しようとするが、やはり生身の状態に比べて回避はかなり難しくなってしまう。


体は避けられても、バイクに当たることまでは避けられない。ウィルにとっさに防御してもらっているがそれにも限度がある。


早々に数を減らさなくてはと、自らに向けられている射撃系魔術を康太はおおよそ直線状のものと範囲攻撃に分別していた。


射撃系の単一攻撃ならばまだ対応可能だ。だが範囲攻撃となるとバイクの損傷を押さえるのが難しくなってしまう。


機動力を維持するためにもバイクを守るのは必須事項、車はトラックに集中しているため、康太が相手をするべきはバイクの魔術師二人である。


康太から一定の距離を取って攻撃してきている魔術師に攻撃を当てること自体はそう難しいことではない。回避がしにくいのは相手も同じなのだ。


康太は槍を操りながらウィルに双剣笹船を持たせる。ウィルの体を細く形状変化させていき、鞭のように変えていくと同時に、その先端に双剣笹船を持たせ、二人の魔術師めがけて襲い掛からせる。


エンチャントがかけられたままの攻撃は、それなり以上に攻撃力を持っているため、相手も危険と判断したのか障壁を展開して防御しようとするが、ウィルの攻撃は変幻自在だ。単一の盾を用意したところで簡単に迂回できてしまう。


魔術師本体への攻撃ではなくバイクに向けられた攻撃は簡単に魔術師の防御を回避してそのバイクのタイヤ部分へと直撃していく。タイヤを破壊してしまえばバイクは走行不能になる。そんなことは相手もわかっているのだろう、乗っていたバイクをとっさに乗り捨てて跳躍する。


車に乗り移ろうとしているのだろう、念動力の魔術などを駆使して空中をかなり長い間滞空している。


もともと有していた速度に加えて魔術によって加速したその体は、容易に車の上に降り立つこととができた。


二人も車の上に乗ったせいで一瞬車は制御を失いかけるが、運転手の腕がいいのか、そのまま走行し続ける。


二人が乗り捨てたバイクが倒れて転がりそうになった瞬間、康太はウィルをバイクに絡ませて強引に走行させ続ける。


「お客さまぁぁぁぁぁ!忘れものですよぉぉぉぉお!」


ウィルがバイクを持ち上げようとするのと同時に、噴出の魔術を全力で発動しバイクを車めがけて投擲する。


後方からいきなりバイクが飛んできたという無茶苦茶な光景に、車の中にいた魔術師、そして車の上に降り立った魔術師は驚愕の表情を作って対処しようとする。


車の上にいた魔術師は車に体を固定しながら障壁の魔術を同時に展開しバイクを防ぐ。車はバイクが襲い掛かると同時に何とか回避しようと横にハンドルを切っていた。


バイクという重い鉄の塊が襲い掛かってきたのでは、ただの障壁では防ぎきれなかったのか、展開していた障壁は砕け散るが、車が早々に回避行動をしていたためかバイクは車の後方に少し接触しただけだった。


僅かに衝撃こそ入ったものの、走行に問題はなさそうだった。


だが安心したのもつかの間、バイクに注意をそらされていた魔術師たちは康太が急接近していることに気づけなかった。


康太はバイクを移動させ、車のほぼ側面へと躍り出ると同時に、バイクの装甲に収められていた装備を一部展開していく。


真横にいる車に向けて放たれるそれは、あらかじめ用意しておいた炸裂鉄球だった。


ショットガンのように狭い範囲に面攻撃を仕掛けるかのように放たれるその鉄球によって、車の側面には大量に穴が開いていく。


そして接近する前に噴出の魔術によって放っておいた杭が収束の魔術によって誘導され、上空から一斉に車めがけて襲い掛かる。


側面に康太がいるという意識が強まったせいか、魔術師たちは上空への警戒を怠ってしまった。

上空から襲い掛かる大量の杭を見逃し、障壁を展開することもしなかった。


そしてその隙を文は見逃さなかった。


杭を道標代わりにして、電撃を放つと、魔術師たちはその光によってようやく攻撃が来るということに気付いたのだが、もう遅かった。


電撃に加え杭が真上から襲い掛かり、車の上に乗っていた魔術師は態勢の維持が難しくなったのか、一人はその場に倒れ、一人は車から落ちそうになってしまう。


とっさに車の中にいた魔術師一人が支えるが長くは持ちそうになかった。


そうしている間も、車の魔術師はトラックを攻撃し続けている。そのすべてを文と倉敷が防ぎ続けているが、これ以上長引くと危険そうだった。


トラックを追跡している車はすでにかなりボロボロだった。康太の攻撃を何度も受けているせいで穴だらけになってしまっている。


ここで勝負を決めるかと、康太はバイクを駆り車の後方へと移動していく。


「ベル、トゥトゥ、今からとっておきを使うからしっかり防御しておいてくれ。バズさん、合図したら一気に加速してください」


『了解したよ』


康太がしっかり防御しておいてくれというからにはとてつもない攻撃をするつもりなのだろうと、文と倉敷は援護や反撃を一度やめ、完璧な防御態勢に入っていた。


車の魔術師たちは自分たちの攻撃に怯んだと判断したのか、さらに攻撃を強めていく。


また康太に対しても攻撃するのを忘れない。康太はバイクを操りながら何とか回避し、ウィルに守ってもらいながら車の真後ろに移動すると、フレームの正面部分を開く。


そこには巨大な杭が両脇に一本ずつ収められていた。


康太の槍に収められている大蜂針よりも一回りから二回りは大きな杭。どのように使うのかはもはや言うまでもなかった。


「カウントダウン行くぞ!3、2、1、巨蜂針、放てぇぇ!」


康太のカウントダウンに合わせて幸彦は勢いよく加速し、文と倉敷は作り出せる最大限の防壁を展開していく。


次の瞬間、康太のバイクから巨大な針が二本、同時に発射される。原理は鉄球や杭と同じ。蓄積の魔術によって運動エネルギーを保存してあるだけの話である。


その杭は車のフレームを容易に貫通し、座席シートすらも貫通し、座っていた人間の腕を簡単に引きちぎり、運転手の脇腹を貫通してダッシュボードに突き刺さり、車の外部にまで貫通していた。


まさか車の背後から貫通するほどの威力の攻撃を放つとは思っていなかったのか、車の運転はだいぶ疎かになっていた。無事だった魔術師が何とかハンドルを操作しているものの、いつ事故を起こしてもおかしくないような蛇行運転をしている。


『あんたね、やりすぎよ。死んだらどうするのよ』


「大丈夫だって、もう応急処置し始めてるから。それより、畳みかけるぞ」


『もう十分とどめになってると思うんだけど・・・そのあたりどうなんだ?』


「いいから、水流し込んで窒息させちまえ。そのほうが楽だ」


康太が開けた穴によって水は注ぎ放題だ。倉敷は康太の指示に渋々ながら従って車を水で覆っていく。

中に水がどんどん侵入していき、最終的には車の中も外も完全に水に浸かってしまっていた。


『いやいや、本当に僕の出番がないじゃないか。これは由々しき問題だよ』


『バズさんの出番がなくてよかったです。引き続き安全運転をお願いしますね』


『・・・三人が頼もしくて泣けてくるよ。僕も年を取ったかなぁ・・・』


「まだ依頼は終わってませんよ。こいつらを収容したら移動再開なんですから、まだバズさんに戦っていただく機会は残っているかもしれませんよ?」


『んー・・・まぁそれもそうだね。相手がまだあきらめていないことを祈るよ』


「その点は問題ありませんよ。前回と同じなら必ず来ます」


康太の視線ははるか後方に向いていた。きっとくる。康太の勘はそういっていた。


いつ来るのかまではさすがにわからないが、きっとやってくる。特にこうやって魔術師たちを拘束しておけば間違いなくやってくる。


「それじゃさっさとこいつら縛り上げていくぞ。トゥトゥ、放り投げるから縛るの頼む。あと簡単な応急処置もしておいてくれ」


康太の指示に倉敷はしぶしぶ従っていた。


ほとんどの魔術師が息ができなくて気絶しているが、まだそんなに時間が経っていないため肺の中に侵入した水を取り除いて軽く人工呼吸するだけで息を吹き返すだろう。


だがその人工呼吸が問題だった。倉敷が風の魔術を使えればそんなことをする必要もないのだが、倉敷は精霊術師だ。水属性以外は使えない。


『・・・おいライリーベル、こいつらを蘇生するの手伝ってくれ』


『・・・あー・・・なるほど、わかったわ。今からそっちに行くから』


トラックの屋根の上にいた文は倉敷の言葉の意図を察したのか、屋根を伝ってボックスの荷台の方へと移っていく。


康太がどんどんと魔術師たちを放り投げていく中、文たちは手際よく魔術師たちを生かす処置を進めていった。


「合計十人か・・・まぁまぁの人数だな」


「前回よりは少なかったか?どっちにしろ結構な人数だぞ?車の中の連中が積極的じゃなくてよかった」


車の中に当初三人、残りがバイクで追従してきた七人。どちらにせよかなりの大人数で押しかけてきたのは間違いない。


初動で一人仕留め、康太が四人をひきつけてくれていたからこそ倉敷達は安定して対処できていたが、これ以上の人数で押しかけられていたら結果はわからなかった。


「まぁよかった方じゃないのか?これだけの人数相手に安定して立ち回れたんだ。しっかり実力はついてるってことで」


「そりゃそうかもしれないけどさ・・・そういえばあのバイクとか車はどうするんだ?あのままじゃ警察沙汰だぞ?」


途中で乗り捨てられたバイク、そしてボロボロの車。見つかったら間違いなく警察沙汰は間違いないだろう。そうなったら康太の装備などから特定されかねないだけに倉敷は少し心配だった。


「もう協会に依頼して回収してもらった。あんなもんそのままにしておいたら面倒くさいからな、解析してもらって持ち主とかも割り出してもらう予定だ。ついでに生きてるパーツは売って金に換えてもらう」


「抜け目ないな・・・っていうかえげつねぇ」


「襲ってきたあいつらが悪い。というか・・・お前戦ってみてどう思った?こいつら」


康太は正直な感想を聞きたかった。以前戦った魔術師たちとレベルはほぼ同等と思っていい。


そこまで強くもない、所謂烏合の衆とでもいうべき連中だ。だが連携だけはしっかりできている。

明らかに連携を目的とした戦い方をしていたために、以前との共通点が多すぎて少々気がかりなほどだった。


「ぶっちゃけ似たような感じはしたな。射撃してきたときの合わせ方がすごく似てた。やっぱ同じチームなんじゃないのか?」


「・・・んー・・・にしては弱すぎたような気もするんだよな・・・まぁ今回はほかにも動いてるチームがいるからそっちに人員割かれてたのかもしれないけど」


前回とは状況が違うために、前回と違う点が見つかるのも仕方のない話だが、少なくとも康太からすればこの違和感は少し気がかりなことでもあった。


先鋒は様子見。中堅あたりから本気で襲い掛かってくるということを考えれば、おそらく次に襲撃してくる者たちが本命だろう。


前回がそうだったように、今回もそうである可能性は高い。


「なぁ、ベルはどう思う?さっきの連中と戦って」


『何よいきなり・・・私は前回みたいに囲まれなくてよかったと思ったわよ?後ろからだけだったから対処は楽だったし』


「そういうことじゃなくてさ・・・前との違いはどうだって話だよ」


『前?あぁビデオの時の?私はあの時と今回とは別件と考えてるんだけどね』


「え?なんでだ?」


思いもよらぬ文の言葉に、倉敷は疑問符を飛ばす。大人数で襲い掛かってくる、連携して戦う、ビデオを狙っているといくつも共通点があるのだから前回と同じでもなんら不思議はない。


文の考えがわからずに、倉敷は意識を失ったままの魔術師たちに視線を移して首をかしげてしまう。


『確証はないわよ?でも何となく前回とは違うなって思ったのよ』


「ふむふむ、その心は?」


『何となくっていったでしょ。でもそうね・・・あえて言うなら、相手の必死さが足りないというか・・・』


「必死さ?」


『そう。なんか絶対に手に入れてやるっていう必死さが感じられなかったのよね?前回のやつらは囲んだ状態であればビーでも倒すのに苦労してたでしょ?』


前回は担当していた人数が違うとはいえ、確かに康太は相手に囲まれた状態では倒すのも苦労していた。


康太の攻撃がぬるかったわけではない。相手の攻撃が的確で、なおかつ攻めっ気があり、康太自身が押されていたというのもあるのだ。


無論あの頃に比べれば康太も多少は強くなっているし、何より今回はバイクに乗っての機動戦だった。そのため前回と比べるのはナンセンスかもしれないが、少なくとも文は今回の相手に対して違和感を覚えていたのだ。


『なかなか面白い話をしているね。それで、ベルとしては彼らはどういう一団だと思うんだい?』


『今回私たちが相手にするべき相手であるのは間違いないと思いますけど・・・たぶん斥候代わりの魔術師でしょう。そこまで実力もないただの下っ端・・・一人くらいまともなのがいたと思いますけど、それもまともに戦いを始める前に倒しちゃいましたし』


車に乗っていたという魔術師、文が警戒するべきだと伝えた魔術師はすでに気絶している。温存されていたのだろうが、康太の一撃によって深手を負ってしまっている。


すでに治療され、一命はとりとめているがそれでも危険な状態であることに変わりはないだろう。


『ビーも予想してたように、たぶん回収の人間が来ると思います。次はビデオと回収を目的とした主力が来るんじゃないでしょうか。こいつらが間接的に雇われた魔術師でもない限りは』


「その可能性は低いだろ。これだけ連携してきてたんなら間違いなく同じチームだ。チームごと雇ったとも考えられるけどな」


「なるほど、チームごと雇えば足がつく可能性は高くなるか・・・なかなか面倒くさい話だな」

可能性を一つずつ消していく中、康太は重症の魔術師に目を向ける。内包している魔力量で言えばこの中で一番多い人物だ。


「いっそのこと、ここで尋問でもするか?俺は別に構わんけど」


そういってナイフを取り出す康太だが、その時点で倉敷が康太にチョップを食らわせる。


「俺が構うわ。こんな密閉空間で血なまぐさいのはごめんだ。お前協会であれだけ悪評を広められてるのにまだ続けるのかよ」


「だってさ、こうしないとちゃんとした情報は手に入らないじゃんか。大事なものを手に入れるためには手段を選んでいられないんだよ」


「選べ、せめて人道主義に則ってくれ。拷問とか捕虜の扱いを無視しすぎだろ」


「何言っているんだトゥトゥ、こいつらは捕虜じゃない。人質にもならないただの情報源だ。叩いて情報が出るなら壊れるまで叩くのが常識だろう」


康太の言葉に倉敷は額に手を当ててため息をついてしまっていた。この密閉空間が血にまみれるのは倉敷としてはごめん被りたいところである。


だがこのままだと康太は間違いなく情報収集という名の拷問を始めることだろう。


ここは早めに止めることができる人物に声をかけるべきだなと、倉敷は無線の向こう側にSOSを出す。


「おいライリーベル、お前の相方何とかしてくれよ。さすがにこんなところで血を流したら何があるかわからんぞ」


『んー・・・ある程度情報を入手しておきたいっていうのは賛成なんだけどね・・・さすがに移動中に拷問は危ないわね。いつ手が滑るか分かったもんじゃないし・・・あと血がトラックの外に漏れるかもしれないし』


「そこなのか?お前が心配するべきことは本当にそこなのか?なんで平然と拷問を容認してるんだよ」


『そいつと一緒にいると否が応でも慣れさせられるわよ。あんたもそろそろ慣れなさい』


康太の拷問は奏仕込みだ。的確に相手に痛みを、確実に相手から情報を。その基本理念に基づいて行われるそれは感情など一切ない作業に近い。


如何に相手の心を丁寧に折っていくか、そこに康太の拷問術は存在する。


そんなこと知りたくもない倉敷からすれば、この状況は飛び降りたくなるほどに忌避するべきものだった。


「こいつらが同級生とか思いたくないな・・・バズさんも何とか言ってくださいよ、このままじゃトラックが殺害現場みたいになりますよ?」


『それは困るなぁ。一応これレンタルだからさ。血さびみたいな落としにくい汚れは困るよ?まぁもう穴が開いてる時点でお察しなんだけど・・・』


すでに魔術師の攻撃によってそれなりの大きさの穴が開いてしまっているために、ある程度違約金を支払わなければいけないのは確定的なのだが、幸彦としてはそれがさらに増えることを恐れているようだった。


拷問のことよりもトラックが汚れることを恐れるあたりはさすがは幸彦というべきだろうか。


『ビー、やるなら一度表に出てやろうと思うんだ。さすがにそこじゃやりにくいでしょ。多少準備も必要だろうから』


「準備ならいつでも行けますよ?必要な道具は魔術師として行動するときはたいてい持ち歩いてますから」


そういって康太は魔術師の外套の中から金槌、ペンチ、針、カミソリ、爪切り、耳かきなどの道具を取り出していく。


一見すれば日常にあるべきものだ。全く気にするべきものでもないただの日用品のはずなのに、その道具はなぜか一部黒く変色している。


まるで何か赤黒いものでも塗りたくったかのように変色したそれを見て、倉敷は目を細めてしまう。


「・・・これさ・・・一応聞いておきたいんだけど・・・何に使ったんだよ」


「聞きたいか?」


「・・・ごめん、やっぱいい。俺はまだ肉を食っていたいんだ・・・聞いたら確実にトラウマになりそうだ・・・」


「なんだよ、せっかく新しい技も見せようと思ったのにさ・・・新しい魔術を覚えたからそれを使ってのいい手段を思いついてさ」


「だから聞きたくないって言ってんだろ!なんで新しい魔術を覚えてそれを拷問に利用しようとするんだよ!頭おかしいんじゃないのか!?」


倉敷の猛抗議に康太は「えー・・・」と不満そうな声を出している。なぜ自分が責められているのか皆目見当もつかないといった様子だった。


これだからこいつと一緒にいるのは嫌なのだと、倉敷は悪態をつきながら座り込む。


「いいか?俺の目の黒いうちにはこいつらには指一本触れさせないからな?」


「大丈夫だって、指なんて触れなくても道具が使えるなら」


「そういうこと言ってるんじゃないんだよ!いいから拷問はダメ!わかったか!」


「・・・全く我儘だなぁ・・・仕方がない、今回依頼を受けてくれたしな。今度はこっちが折れようじゃないか」


まるで自分が無理を言っているような状況に倉敷は非常に憤りを感じていたが、それでも何とか拷問を開始させることだけは阻止できた。


何で敵を守らなければいけないんだと倉敷は一瞬自分が何をしているのかわからなくなっていたが、それももはやいまさらである。


『二人とも、お楽しみのところ悪いけどちょっとトラブルが来たようだよ?対応してくれるかな?』


幸彦の言葉に、康太は即座に反応して周囲を警戒する。康太の索敵には反応はない。だが確かに後方から妙な威圧感が近づいてきている。


『まだ私の索敵には反応はないですけど・・・?』


『いや、来るね。来てるね。間違いなく』


幸彦の言葉を裏付けるように、康太もそれを感じていた。背後から何かくる。それもかなり強い相手だと康太は確信していた。


誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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