幸彦の職業
「クラリスさんが子供の頃って、バズさんたちも学生だったんですよね?」
「そうだね。みんなフレッシュだったんだよ?」
「クラリスさんが昔からあの性格っていうのは・・・あった時からですか?」
「うん、師匠がいきなり連れてきたときからあんな感じだったね。あの時はびっくりしたよ。師匠がついに子供を誘拐してきたんじゃないかって姉さんと話してたもんさ」
小百合たちの師匠である智代は今でこそ落ち着いているが、昔はそれなり以上に剛毅な魔術師であったらしい。
まるで今の康太たちと小百合の関係を見ているようだなと、文は幸彦を見ながら目を細めていた。
弟子は師に似るというが、ここまでになくてもいいのにと思う反面、学生時代の幸彦たちにも興味があった。
「聞いてもいいですか?バズさんやサリーさんはどうして魔術師に?」
「ん、僕は前にもいったと思うけど両親が魔術師だったからね。必然的っていうかいつの間にかっていうか・・・たぶんそのあたりは君と同じだと思うよ?」
文も両親が魔術師ということもあって自我が目覚めたころにはすでに魔術師としての育成が始まっていた。
そのため魔術師以外の生き方を知らない。それが幸せなことなのかどうかはわからないが、少なくとも文は今の自分に満足していた。
「姉さんは・・・実はよく知らないんだよね・・・僕が弟子入りした時にはもう師匠のところでいろいろとやってたから」
「サリーさんのご家族は?」
「これがすごいんだよ、全員魔術師。姉さんの弟子のひとりに姉さんの親戚の人がいるでしょ?」
「・・・はい、いらっしゃいますね」
文は眉間にしわを寄せながら章晴のことを思い出す。奏の親戚であり奏の弟子である。以前文に要らない気を回した張本人でもある。
文は一度彼と手合わせをしたことがあるが僅差で敗北している。あの時は手を抜かれていたのかもしれないが。
「有名かそうじゃないかはさておいて、姉さんの家系はほとんどが魔術師なんだよ。素質は基本的に遺伝しないはずなんだけど・・・なかなかないことだよね。もちろん中には精霊術師もいるけど」
「へぇ・・・そういえばうちの家系ってどうだったかしら・・・?父さんも母さんも魔術師だけど・・・」
文自身あまり自分の家のことに興味がない、というか魔術師として両親と接してきていたために自分の家系のこと、ひいては自分の親戚のことを聞くことをはばかっていたのである。
今度親戚と会う時には魔力を調べてみようと思い立ちながら、文は今荷台にいるであろう康太たちに意識を向ける。
「ビーなんかは家族全員一般人ですけど・・・そういう人でも普通に魔術師の素質を持ってるんですよね?」
「そうだね。統計を取ってないから何とも言えないけど、単純に魔術師の素質を持っている人は結構多いと思うよ?魔術師になるための訓練をしていないだけで」
「そういうものですか・・・バズさんのご両親は今何を?」
「とっくに引退してるよ。今は魔術師として新しい魔術を研究しながら余生を過ごしてるって感じかな」
「それって引退っていうんですか・・・?ばっちり活動しているように思いますけど」
「元気な人たちだからね・・・この前なんてラスベガスに行ってきたとか自慢してきたよ・・・あ、ちゃんと旅行でね?」
「ラスベガスですか・・・それはすごいですね・・・海外とか協会の門を使わないといける気がしないです」
この間の中国で一応文も海外に足を運んでいる。その前にはアリスの一件でイギリスに行っている。
だが自分の稼いだ金銭で海外に行くことができるかといわれると微妙なところだった。
特に一般人として稼いだお金だけでと言われるとさらに条件が厳しくなる。
文は魔術師としてある程度稼いでいるが、一般人としてはほぼ無一文なのだ。
仕方のないこととはいえ、学生身分の苦しいところである。
「僕も仕事が忙しくなければね・・・今はましだけど、一時期は本当に厳しくてさ・・・やっぱり無理して一人で抱えるもんじゃないね」
「お仕事大変なんですか・・・?っていうかバズさんって一般人としてはどんな職に就いてらっしゃるんですか?」
「僕?僕は運転手だよ。バスの運転手」
「そうだったんですか!?知りませんでした」
「はっはっは、そりゃ言ってこなかったからね。だからいろいろと融通が利くのさ。いろんなところに行けるし、門があれば一時的にでもすぐに帰ってこられるからね」
幸彦は魔術師であるメリットと一般人としてのメリットをうまく合わせて生活しているようだった。
何というかたくましい限りである。
「本当は飛行機のパイロットになりたかったんだけどね・・・残念ながら試験に落ちてしまって・・・適性がなかったらしい」
「パイロットはあこがれますね・・・でも門を使っての移動は難しそうです」
「そうだね、そう考えるとやっぱり今のままでもいいかなって」
幸彦は今の仕事に満足しているらしく、笑いながら車を操っていく。穏やかで乗り心地が良いのは職業柄ということだろう。




