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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十五話「釣りをするのも大博打」

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夏の始まり

七月、気温が徐々に高くなっていき夏ももう間近、むしろもう夏といっても過言ではないこの季節、康太たちはいつも通り小百合の店にやってきていた。


「神加、こっち向いてくれ」


「なに?」


康太に呼ばれ、ちゃぶ台で勉強していた神加は視線を康太の方に向ける。そこにはカメラを向けた康太の姿があった。


自分のことを写真に写そうとしているということを察したのか、神加は自分がかわいいと思うポーズをとって見せる。


「何をやっている?」


「いや、こういう日常風景も写真に収めておこうと思いまして。師匠も写ってくださいよほら」


「・・・私は写真写りが悪いから」


小百合の言葉が終わる前に康太はカメラのシャッターを押す。いつの間にか撮られていたという事実に小百合は少し不機嫌になったようだった。


「大体、私たち魔術師はそういう記録を残すのは推奨できん。第一記録が残ったらどうするんだ」


「魔術を使ってる時ならまだしも、こういう日常の風景だったら問題ないでしょ。何より神加の成長記録を残しておきたいですからね」


「・・・好きにしろ・・・一応写真は真理に見てもらえ、問題がある写真は削除するようにしろ」


「了解です。まぁアリスを写さなきゃ大丈夫でしょ」


「・・・私は写ってはいかんのか・・・」


いつの間にか話を聞いていたのか、暑さにやられてほとんど動けなくなっているアリスは扇風機の風を独り占めしながらそんなつぶやきをぶつけてくる。


アリスにとって日本の夏はそこまでよいものではないらしい。外国人にとって日本の夏はとにかく不快だと聞くが、アリスにも同じようだった。


「アリス、お前もうちょっと何とかならないのか?だれすぎだろ」


「この暑さの中で平気そうにしているお前たちのほうが神経を疑う・・・サユリよ・・・もうクーラーを起動してもよい時期ではないのか?このままでは熱中症で倒れてしまうぞ」


「現時点で倒れている奴が何を言う。この程度ならつける必要もないだろう」


「・・・ならば自分で冷やすぞ・・・?良いのか?この部屋が氷だらけになるぞ」


「もう少しまともな冷やし方してくれよ。氷漬けになったら後片付けが面倒くさいだろ。ここ畳なんだから水びだしになったら干すのが手間だ」


「・・・魔術のことよりも体のことよりも畳の方を心配するのかコータは・・・何と薄情な奴だ・・・!」


「なんでもいいから水飲んでおけよ。そのままじゃ脱水症状になるぞ・・・っていうかお前体をいじれるんだから体温調整とかもできるんじゃないのか?」


アリスは自分の体に魔術をかけ成長を極端に遅らせている。全細胞単位に行っているそれを応用すれば体温の調整くらい思いのままではないのだろうかと康太は首をかしげてしまっていた。


「さすがの私も細胞単位の魔術を同時並行で行えるほど処理に余裕があるわけではない・・・簡単に言ってくれるな」


「そうか・・・じゃあもういっそプールでも行って来いよ。どうせお前暇だろ?そういうところで涼んでくるのもいいと思うぞ?」


「水に浮かぶのなら自分でできる・・・何ならこの家でもできる・・・水風呂など入ったところでこっちに戻ってきたら大差ないではないか・・・もっと恒久的に・・・この部屋を冷やし続けるほうが良い・・・そうだ・・・いっそのことこの辺り一帯を冷やしてしまえば」


「そこまで、なんか危ない思考に陥ってるぞ。魔術の隠匿はどうした」


「封印指定の私にそんなルールを押し付けるな・・・私はいつだってフリーダムに生きるのだ」


「そのルールを作った組織の創設者の一人のくせに何言ってやがる。ほれ、冷やしたタオル持ってきてやったから、これで涼め」


康太は冷蔵庫から出してきた濡れた状態で冷やしたタオルをアリスの頭の上に置く。アリスは冷たい物体を察知したからか、濡れたタオルを首部分に当てて少しでも冷やそうとしているようだった。


「さしもの封印指定も暑さには弱いと見える・・・以前日本に住んでいた時はどうしていたんだ?」


「当時はこんなに暑くなかった・・・はずだ・・・少なくともここまで不快ではなかった・・・日本という国は変わってしまったな・・・」


それが昨今問題になっている地球温暖化のせいなのか、それともただ単に昔のことをアリスが美化しているだけなのか、どちらかはわからないがこの暑さにアリスは完全にダウンしてしまっている。


「とりあえず昼飯作るけど、食欲はあるのか?」


「あー・・・さっぱりしたものを頼む・・・」


「夏バテ・・・とまではいかんが・・・なんとも情けない・・・それでも封印指定か」


「封印指定とはいえ人間には違いない・・・一応私も人間だったということだ・・・はっはっは」


自分自身が人間だということがアリスはうれしいのか、それともまだ人間でいる自分が悔しいのか、アリスは笑っている。


とりあえずこうして暑い間は食事にも気をつけなければ本当に人が倒れかねないなと康太は眉をひそめていた。


とりあえず精がつき、なおかつさっぱりしたものを何か用意しなければならないと頭をひねることにした。


昼食を食べながら康太たちは何気なくやっていたテレビを眺めていた。


夏に良くある話だが、こういう時期はテレビでも怖い話をよく特集している。


怖い話。こういう話は昔からよくあるが、小百合も神加もアリスも割と平然とその番組を眺めていた。


「そういえば神加はこういうの平気なのか?」


「なんで?」


「いや、なんでって、こういうの怖くないのか?」


神加くらいの子供だとテレビのチープな演出でもなかなか怖がりそうなものだが、神加は特に気にした様子もなく箸を進めている。小学校一年生とは思えないほどの堂々たる様子である。


「怖くないよ、みんながいるもん」


「みんな・・・っていうのは俺らのこと?」


「お兄ちゃんたちだけじゃないよ?みんな」


みんなという言葉に康太たちは一瞬だけ眉をひそめたが、そのみんなというのが神加の中にいる精霊たちのことを指していると気付き目を丸くする。


神加の中にいる精霊、おそらく神加はいつの間にか、もしかしたらかなり早い段階でその存在に気付いていたのだろう。


「体の中にいる精霊たちか」


「せーれー・・・?この子たちってせーれーっていうの?」


そういって神加は体の中から光の球体をいくつも飛び出させていく。精霊としての核が神加の体内にあるためか、その光の玉の具体的な形を見ることはできなかったが、どうやら神加はいつの間にか精霊との対話を可能にしているらしい。


才能のなせる業か、それとも神加の体質によるものか。


「そういえば、精霊に対する指導はしてこなかったな・・・」


「精霊に関することは基本的に属性魔術に関しますからね・・・どうしますか?今の内に教えておきますか?」


神加の体質は非常に希少なものだ。本人が持つ素質自体も恵まれたものであるのだが、大量の精霊を宿すその体質は他人に真似できるようなものではない。


まさに神に愛された素質と言わざるを得ない。だがその体質を最大限活かすならば属性魔術を学ばなければいけない。


小百合は将来的にこの体質がなくなることを考慮して無属性の魔術しか教えていないが、今後神加が属性魔術を覚えるきっかけにもなる。


「ん・・・精霊に関しては教えておいてもいいかもしれないな。今後こいつがどのように中にいる連中と付き合っていくかの指標にもなる」


小百合は一度姿勢を正して神加に向き直る。その様子を見て神加も重要な話であると気付いたのだろうか、姿勢を正して小百合の方をまっすぐに見た。


「神加、お前の中にたくさんいる連中は精霊といって、自然の力の象徴のようなものだ。風、雨、炎、雷、光、氷・・・そういった自然の中に含まれるエネルギーを象徴している存在だと思え」


「・・・?・・・??」


神加は理解しようとしても言葉が難しくて理解できないのか、理解しようと一生懸命頭を動かしているのだがどうしても小百合の言葉を咀嚼できないようだった。


無理もない、小学校一年生にこんなことを説明したところでわかるはずもない。


「ミカよ・・・それぞれ自然の中に彼らはいるのだ。お日様の光、強い風、流れる水、そういったものの中にお前の中にいる彼らは住んでいる」


「お日様や水の中がおうちなの?」


「そうだ。だが時折、そのおうちを変える者もいる。それが今お前の中にいる彼らだ」


子供にもわかるように言葉を選びながら説明するアリスに康太は感心してしまう。それに引き換えうちの師匠はと蔑んだ視線を小百合に向けるが、小百合はどこ吹く風といった感じでまったく気にしていないようだった。


「どうして私の中にいるの?」


「それはお前が大好きだからだ。風の中にいるよりも、お日様の光の中よりも、お前の中が良い空間なのだろう」


「・・・ふぅん・・・」


神加は理解したのかそれとも理解していないのか、自分の体をペタペタと触っている。自分の体の中のことなど自分には分からない。当たり前なのだが自分の中にたくさんの精霊たちがいるその理由は理解したようだった。


「その精霊たちに感謝することだ。お前のことを、おそらくずっと守ってくれているのだから」


「守ってくれてるの?お兄ちゃんよりも?」


「そうだ。コータよりもずっと長い間お前を守ってきたのだ。ありがとうの気持ちを忘れてはいかんぞ?」


感謝という言葉がわからないかもしれないなと、アリスは意図的に言葉を変えていた。そしてそれが功を奏したのか、神加は自分の体の周りを飛んでいる光の玉を見て深々と頭を下げてありがとうございますとつぶやいていた。


「でもそのせーれー・・・?は私の中にいるだけじゃないよね?」


「その通りだ。まだこの世界にはたくさんの精霊がいる。お前の中にいるのは全世界から見ればほんの少しだろう」


「お兄ちゃんの中にもいるよね?見えないけど、そんな気がする」


康太の中にも精霊がいる。神加はかつて康太の中に精霊を入れることになったその現場に確かにいた。


だがその光景そのものは見ていないはずだった。それなのに中にいると断言するあたり、やはり精霊の気配を感じ取ることができるのだろうかと少しだけ驚いてしまっていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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