納得できることできないこと
「あぁ、俺の中にも精霊がいる。俺のは雷の属性の精霊だな。えっと・・・まだお話しとかはできてないんだけど・・・」
もともと、死に瀕した子供とその母親の影響を強く受けたせいで存在そのものが若干歪んでしまっていたために、未だ正常な状態に戻っていないのではないかというのが康太の考えだった。
最近は涙を流すこともなくなってきたため、おそらくだいぶ落ち着いてきたのだろうが、そろそろちゃんとした精霊としての契約と関係を結びたいところである。
「私じゃなくてお兄ちゃんのところにいるのはなんで?私より居心地がいいの?」
「それは・・・どうなんだアリス先生」
いつの間に私は先生になったのだとアリスは眉を顰めるが、けだるそうに体を起こしながら小百合と神加を見比べながらいいたとえがないか模索しているようだった。
「あー・・・それは要するに個人の好みの問題だな。サユリよ、お前は菓子を食べるなら何がいい?」
「私は煎餅だな」
「ミカはどうだの?」
「私はクッキー」
「とまぁこのように、人によって好きなものは違う。精霊も同じだ。神加の中が好きという精霊もいれば、康太の中が好きという精霊もいる。好みが違えば入る人間も違うということだの」
小学生にもわかりやすい説明であるのは間違いない。さすがは長く生きているだけはある。せっかく説明しようとしていた小百合の立場は完全になくなっていた。拗ねているのか、面白くないのか眉間にしわを寄せた状態で黙々と食事を続けていた。
「でもでもアリス、さっき守ってくれてたって言ってたけど、どうやって?みんなは私から出ることはできないよ?」
「出ることができなくともできることはある。お前の体を使って魔術を発動することくらいはできるだろう。もっとも、それは魔術とは言えないものかもしれんがな・・・そのあたりは私よりも小百合の方が詳しいだろう」
神加を助けた現場を見たのは小百合だけだ。神加の中の精霊が半ば無理やりの形で術を発動させて彼女を守っていたということは聞いているが、それ以上のことは康太もアリスも聞いていない。
「精霊が術式を自ら組み上げるなど今まで聞いたこともないが・・・おそらくできたとしても暴走に近いものだろう。それだけお前を守りたかったということだ」
「どうして?」
「お前のことが大好きだからだ。好きなものは大事にしたいだろう?」
「・・・うん・・・うん!」
自分の中にいる存在達から大好きだと思われていることが嬉しかったのか、神加は笑みを浮かべている。
体の中の精霊たちが愛おしくなったのか、神加は自分の体の中を強く意識しながら目をつむり笑みを浮かべていた。
「そういえば師匠の中には精霊はいるんですか?今まで聞いたことなかったように思いますけど」
「ん・・・一応いるぞ。とはいってもこいつが動くことはほとんどないがな」
「どうしてですか?属性魔術発動の補助くらいできるんでしょう?」
真理がそうしているように、精霊は適応する属性魔術の発動の補助が可能である。
三つの素質のうちの一つを代替してくれるため、多少有利に行動することができるものだ。
小百合は無属性魔術を得意としているが、他属性の魔術ももちろん扱える。当然のように破壊に関わるものばかりだが、それでも発動を補助してくれるというのは非常にありがたいはずである。
「私自身が属性魔術をあまり使わないからというのもある。無属性でたいてい事足りるしな。斬り落とせば大体けりがつく」
「あぁ・・・そういえばそうでしたね」
刀を持って攻撃すれば大抵問題なく事を解決できるため、康太は小百合が属性魔術を使っているところを見たことがない。
そのすべてが破壊に関わるということもあって、どれもえげつない手段だというのは理解している。
そのうちの一つが康太が所有している肉体超過の魔術だ。火属性に属している魔術ではあるが、あれは相手を自滅させるタイプの魔術、はっきり言って今まで小百合が有している魔術の中でもかなり上位に位置するほどえげつない魔術である。
「私が属性魔術を扱うのはその必要に駆られたときだけだ。最近はそういう場面に出くわしていないからな」
「そうなんですか・・・アリスは?アリスは精霊は今いないんだっけ?」
「うむ、前にも話したかもしれんが今は精霊はいない。そういう輩は気まぐれでな、私のような体には入りたくないらしい」
どうやらアリスの体は康太以上に選り好みされるタイプであるらしい。細胞単位に術式を書きこんでいれば仕方のない話でもあるが。
「ミカ、お前の中の精霊たちはきっとお前の力になってくれる。大事にするのだぞ?」
「うん、大事にする!ありがとアリス!」
「どういたしまして。お前の師匠のお株を奪ってしまって申し訳ない限りだがな」
「気にすんな。子供相手にちゃんと説明するのは師匠じゃ無理だ」
「・・・ふん・・・」
小百合は眉間にしわを寄せた状態で茶をすすり始める。
これが奏ならばちゃんと子供向けの説明ができたのだろうが、できないあたりが小百合らしいというべきだろうかと康太は苦笑してしまっていた。
夏休みが始まるまであと数えるほどの時期になってきたところで、康太と文は支部長からの呼び出しを受けていた。
支部長から呼び出しを受けるのももうすでに慣れてしまっており、今度はどんな面倒ごとなんだろうなと考える余裕さえあった。
「やぁ、来てくれてありがとう。すまないね、何度も呼び出してしまって」
「構いませんよ。今度は何があったんですか?何を倒しますか?」
「・・・倒す前提っていうのがなんか申し訳ないね・・・まぁ間違ってはいないのが微妙なところなんだけども・・・」
支部長は困ったような声をだしながら二冊の書類の束を用意した。康太と文それぞれに用意されたであろう書類を見て、二人は一瞬顔を見合わせながらもそれを閲覧していく。
そこには地形データ、移動ルート、そして移動するうえで通過する街の詳細、そして受け渡し場所などが記載されていた。
「・・・支部長、これは?」
「以前君から立案された、件の組織と思われる一団をおびき出すための計画書だよ。本部にその提案をして、かなり内容を詰めたから、少し時間がかかってしまったけどね」
提案したといわれて康太は首をかしげるが、記憶をたどっていったときにようやくそれを思い出すことができていた。
「あぁ、呪いのビデオを囮にすればってやつですか」
「そうそう、本部もだいぶ渋ってはいたけどね・・・背に腹は代えられないってやつさ・・・実際、すでに一度本部からもアプローチをかけていたようだけれど・・・」
本部の方から一度呪いのビデオを囮にした際は、各支部から数人程度が出動していたくらいしかわからなかった。
一人一応捕縛はしたが、本部の方で取り調べを行われているのだろう。それなりの情報は有していたはずだが、彼は一体どうなったのか気になるところではある。
そのあたりの情報はすでに本部が握っていると思って間違いないだろう。
「以前捕まえていたやつから得た情報では足りないと?」
「うん、少なくとも指示系統や本拠地、目的まではわからなかったようなんだ。わかったのはいくつかの術式やその技術を求めているということ・・・そしてその規模がかなり大きいということくらいか」
「・・・あれだけ実力があってその程度ですか・・・」
「実力云々ではなくて、立場とかが重要視される組織なんじゃないかな?そのあたりは僕も把握しきれていないけれど・・・とまぁそれはさておいて・・・今回は本部主導による大規模作戦だ。その一端を君たちにと、副本部長からの直々の指名だよ」
直々の指名と言われ、康太と文は仮面の下でいやそうな顔を作る。
副本部長に実力を買われているのはうれしいのだが、こうやって面倒ごとを押し付けられるというのはあまりうれしくはなかった。
「大規模作戦って言っても・・・町から町へ移動するだけじゃないですか・・・この前と何が違うんですか?」
「うん、今回は何名もが同時に作戦に参加するのさ。君たちだけがビデオを持つわけじゃない、何人もが同時に、まったく別の場所で同じような行動をするのさ。偽物をもってね」
「・・・つまり、ダミーを複数用意して、どれが本物なのかわからないようにする・・・ということですか?」
そういうことさと支部長は机の上に以前康太たちが持ち運んだことのある鍵付きのアタッシュケースを取り出す。
「今回同時に運搬するケースは七個。戦闘能力に長けたものに直接運搬をしてもらうことになる。協会の門の近くから、別の町を経由して受け渡しをするということになっている。魔術師の追跡防止を含めてね」
「前回と似ていますけど・・・今回もやっぱり情報を意図的に漏洩させてるんですか?」
「一応ね・・・けど流すのは呪いのビデオを運搬するってところだけなのさ。何人も同時に行っているということは知らせていない。意図的に情報を絞り込んで、どの情報に引っかかるのかを利用して内通者をあぶりだすのが目的の一つさ」
「なるほど・・・支部内、あるいは本部内で誰が敵に通じているのかを把握しようってことですね・・・後詰は誰が?」
「本部の人間が請け負うことになっているよ。それぞれ怪しい奴らを直接捕えてほしいという意見も出ているね。情報は貴重だから」
「捕まえろって簡単に言うよな・・・向こうには明らかに格上っぽい奴がいるっていうのに・・・報告しておいたはずだけどな」
「本部としては、その人物を捕まえてほしいらしいよ?やはり回収に来るくらい元締めのやつじゃないと情報源にはならないと考えたんでしょ」
小百合と同レベル、ないし近いレベルの戦闘能力を持っていると思われる相手に対して『捕まえて来い』などと簡単に言うあたりが本部らしいというべきだろうか。
「まぁ、あの時のやつがまた現れるかどうかはさておいて・・・戦力的にはどれくらい用意していいんですか?姉さんや師匠を連れて行ってもいいのであればそれこそそのくらいは可能でしょうけど・・・」
「あんたの師匠を連れて行ったら間違いなく殺しちゃいそうだけどね・・・実力者同士が戦うとやばいことになるでしょ」
「まぁそうなんだけどさ・・・実際どうなんです?」
相手が実力者を擁していることがわかっているため、ある程度の戦力を連れて行きたいところだが、支部長は唸るような声を上げていた。
「あまり大人数で動いてほしくないというのが本部の考えみたいだよ?ある程度襲いやすい人数が好ましいと」
「・・・あーなるほど・・・襲われないと捕縛もできないから少人数でってか・・・無茶苦茶いうなぁ・・・」
言いたいこともわかるしその理由も理解できるものなのだが、実際に動く現場からすれば無理難題を突き付けているのはよくわかる。だが納得はできなかった。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




