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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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相性は

ウィルが捕縛している以上、魔術師はまともに動く手段がない。だがそれでも戦う気力は全く衰えていないようだった。

ウィルの拘束を何とか破ろうと力を込めているが、当然その程度で破れるほどウィルの硬化は生易しくはない。


物理的に破壊することができないのならと、魔術師は康太に向けて攻撃を行うことにしたようだった。


周囲に満ちる強い圧力を有した魔力、攻撃の予兆であることは容易に想像できたが、康太はあえてその攻撃を放置していた。


その気になれば再び魔術師を振り回し、相手の集中を阻害するくらいのことは簡単だろう。


あえてそれをしなかったのはこの魔術師の心情を少しだけ理解できるからに他ならない。


理不尽な物事に対して怒るのは人の常だ。その怒りの矛先を日本支部にされてはかなわない。


今後日本に面倒ごとを持ってこられるよりはここでその鬱憤を晴らしてもらったほうがいいと思ったのである。


その矛先が自分に向かっていることになるかもしれないがそれはそれで仕方のない話だ。康太はウィルに拘束を命じたまま、意識を集中していた。


次の瞬間、康太めがけて襲い掛かったのはどこかの水道から噴き出したであろう水だった。


うねりを上げてまるで蛇にも似た生き物のように襲い掛かる水の大蛇に、康太は舌打ちをしていた。


水の魔術は康太の苦手とする属性のうちの一つだ。はっきり言って効果的な立ち回りは屋内ではできるとは言えない。


だがだからといってこの魔術師を放置しておくこともできない。いっそのこと屋外にたたき出すかと考えたが、ウィルで拘束できているというのはかなりのアドバンテージには違いない。


屋外に行けば援護も受けられるだろうが、そうするとこの魔術師の復讐の対象が自分だけから屋外にいる魔術師全体になりかねない。


それはそれで面倒だなと康太は目を細めてからウィルから手を放して跳躍する。康太めがけて襲い掛かってきた水は部屋の中を縦横無尽に走り回り、再び康太めがけて突進してくる。


ウィルの拘束は未だ続いている。もともとウィルは体から離れて行動する方が得意なタイプだ。康太の動きに合わせるよりは勝手に動ける方が楽だろう。


康太はウィルの様子を確認しながら目の前の水の大蛇に向けて火の弾丸を何発か放っていた。


火の弾丸が水の大蛇の体に直撃すると同時にその体表面が蒸発するが、もとより火の弾丸は威力の低い攻撃だ。その体積にほとんど変化はない。


ただ効かないわけではないようだった。数発受けたことで多少体積は変化している。そして再び火の弾丸を放った時、不格好ながらも何とか避けようとしているのが康太にも理解できた。


襲い掛かる水の大蛇に向けて槍を振るうも、槍は水を通り過ぎるだけでほとんどダメージにもなっていない。


これだから水の魔術は嫌なんだと康太はため息をついていた。水の魔術は攻撃にするには難しく、防御するのも難しい。


常に流動する水を完璧に防ごうと思ったら同じように水の性質を正しく理解しておかなければならないだろう。


だが康太は水の性質など知らない。倉敷がこの場にいればこの水の魔術に対して立ち回れるのだろうが。あいにく康太は水属性の魔術など一つも使えないのだ。


仕方がないと、康太は部屋の中における位置を確認しながら蛇をおびき寄せる。いったい何を考えているのかとウィルに拘束されたままの魔術師は不思議そうに康太のほうを見ていたが次の瞬間その答えがわかる。


部屋の中にあった調度品のいくつかが噴出の魔術によって水の大蛇めがけて飛翔してきたのである。そしてその中には康太が突き破ってきた部屋の扉もあった。


攻撃範囲の狭いただの射撃系魔術ならば対応できただろうが、複数の調度品に加えて面積の広い扉をぶつけられてはよけようがないのか、水の大蛇は物体を叩きつけられてその体をバラバラにされてしまう。


そしてそのバラバラになった状態で、康太は身をかがめて両手を前に突き出す。


瞬間、康太の両腕から大量に炎が吹き出て水の大蛇を飲み込んでいく。


調度品をぶつけられてバラバラになったところに康太の噴出の魔術による広範囲攻撃。これによって魔術師が作り出した水の大蛇はほとんどが消えてしまっていた。


ほんの一部だけ残っているがそれもすぐに消えてしまうだろう。


康太は拘束した魔術師の体から魔力を奪い続けながらウィルのもとに歩み寄る。


「奇妙なペットだったな・・・お生憎様だけど水属性の相手は慣れてるんだよ」


真理とも訓練を行っている康太からすれば、彼女が得意とする水属性の魔術は比較的対応しやすい部類だった。


無論苦手であることは変わらないため、苦手意識が抜けないのだがそれに関しては今後直していくしかないだろう。


「この・・・なら・・・これならどうだ・・・!」


魔力をみなぎらせて再び魔術を発動すると、再び部屋の向こう側から多量の水が押し寄せてくる。


今度は蛇の形状などはさせずに、津波のように部屋の中に勢い良く襲い掛かっていった。


押し流す気だろうかと思いながら、康太は再現の魔術や噴出の魔術を使い、津波を回避しながら魔術師のもとへと向かって行く。


「水が好きならどうぞご自由に!」


康太はウィルと体をつなぐと、再び噴出の魔術によってその体を浮かせる。


魔術師の体は未だウィルに拘束されたままである。康太は襲い掛かってくる大量の水に向けて魔術師を叩きつける。


小規模な津波に頭からたたきつけられた魔術師は一時的に息ができないのを嫌ってか、中洲のような水が押し寄せてこない場所を作り出していた。


この周囲の水はこの魔術師が操っているのは間違いなさそうである。


だが水を宙に浮かさずに流し込んできたあたり、あまり量が多いと水を浮かせることもできないのかもわからない。


水の扱いに関しては倉敷よりは劣る魔術師のようだった。


「かなづちなのに水を使うとか、なかなか思い切ったことするんだな」


「・・・なめるな・・・!」


魔術師が魔術を発動すると周囲の水が勢いよく康太めがけて襲い掛かってくる。魔術師の体には近寄らないように水が動くところを見ると、細かいコントロールは得意なようだった。


康太はウィルの力を借りて魔術師の体を思い切り振り回す。水を弾き飛ばすように、水にたたきつけるようにその体を振り回すと、さすがにコントロールが利かなくなったのか、魔術師は水に叩きつけられて息ができなくなってしまっていた。


とっさの反射で体を動かせる康太と、魔術でいちいち操らなければいけない魔術師、どちらが反応するのが早いかなどは言うまでもないだろう。


「動きが遅い、魔術の流れがおおざっぱすぎる。何よりこれだけの水をコントロールするのに何でそんなに魔力が必要なんだ」


康太は索敵の魔術で相手の魔力の状態を観察していた。


倉敷の普段のそれを知っているからか、倉敷と比べこの魔術師の消費魔力はかなり多いように思える、水を操っているだけだというのに倉敷の五割増し程度で魔力を消費している。


一体どうして、そんな考えが頭の中をよぎった時、一つ可能性を思いつく。


この男はおそらく協会に所属していない魔術師だ。つまり術式を見つけることが困難だったのではないか。


協会に所属していればよほど怪しい人物でもない限りたいていの術式を閲覧することができる。


だが協会に所属していないと、魔術の術式を得る手段は人づてなどに限定されてしまうのである。


協会に所属していない魔術師は行動が自由である代わりにそういったデメリットも抱えているということだ。


もっとも今回の場合を考えると完全に自由が許されているというわけでもないのだが。


水では康太に対して有効打を与えることができないと判断したのか、魔術師は周囲に満ちた水を使って次は氷を作り出していった。


足場や壁、天井などが凍る中、康太はその様子を見て目を細めていた。


水の次は氷の魔術。水と比べれば氷は相性がいいほうだ。物理的にも回避できるし防ぐこともできる。


とはいえこれだけ周りを水びだしにされた後の氷の魔術だ。警戒しておいたほうがいいだろうなと康太は身体能力強化に加え、エンチャントの魔術を使って自らの体を防護していく。


次の瞬間、壁や天井から氷の棘が大量に康太めがけて襲い掛かってくる。


やはりこう来るかと康太は攻撃の中でよけきれないものに限って槍や再現の魔術で砕いていく。


鋭い氷の棘は刺さればおそらく重傷は免れないだろう。


水と氷のコンボはなかなかに厄介だと思いながら、康太は自らの体と槍を起点に噴出の魔術を発動する。


その場を回転するように噴出によって加速する康太の体、槍と含めて周囲の氷を砕きながら、部屋を炎で包んでいく。


周囲にあった水気は一気に吹き飛び、魔術師が作り出していた冷えた空気も一気になくなってしまっていた。


そして同時に、康太の炎によってあたりに火が付き始める。


「あ・・・やばい・・・放火しちゃった・・・」


氷を排除するだけのつもりが、建物そのものに火をつける結果になってしまい康太は失敗したなと反省していた。


この建物の中にある情報はすべて精査したうえで消去しなければならない。建物そのものが燃えてしまうのはあまり良い状況とは言えなかった。


「仕方ない・・・壊すか」


康太はそうつぶやいて双剣笹船をウィルから受け取ると拡大動作の魔術を発動する。


壁や天井、床などを切り裂いていき燃えている部分を破壊していく。崩れる建物に押しつぶされるように炎は消えていく。実際はくすぶっているだけだろうが、幸いにも部屋の向こう側に先ほど魔術師が操っていた水が残っていたようで大まかではあるが炎は消すことができていた。


そして天井を切り落としたせいで、天井から空を臨むことができるようになってしまった。そして康太が火を起こしていることに気付いたからか、この状態を予知したからか徐々に空模様が変化し始めている。


おそらくは土御門の双子と一緒にいる倉敷が気を回してくれたのだろう。一つ二つと雫が空から落ちてきて、ゆっくりと雨が降り始めていた。


康太はその雨を収束の魔術で操り、炎に直接当てていき消火に成功していた。


水属性の魔術を覚えるべきだったかなと康太は少し自分の魔術の危険性を実感していた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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