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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十三話「追って追って、その先に」

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魔術師の正義

「・・・なんだ、遅かったな」


「師匠が早いんですよ・・・なんで歩いてるだけなのに一番乗りで建物の頂上に来てるんですか・・・!」


康太は魔術師を片づけた後、必死に小百合を追いかけた。索敵を発動しながら全力疾走し、途中で遭遇した構成員たちはすべて気絶させてきた。


康太と小百合が離れていた時間はそこまで長くはない。だというのに小百合は建物の頂上付近、おそらくはこの建物を仕切っている人物がいる場所にまでたどり着いていた。


他にこの場所にやってきている者はいない。どれだけ小百合が他を圧倒するだけの速度でこの場にやってきたのかがわかる。


康太とは違うルートで歩いてきたのか、小百合が倒したであろう構成員たちを見つけることはできなかった。


「あの程度の魔術師に時間をかけすぎだ。数秒程度で終わると思っていたが・・・当てが外れたな」


「冗談言わないでください。あれでも結構強かったですよ。ベルの援護がなかったらどうなっていたか」


実際文の援護がなければ康太もどうなっていたかわからない。大量に物品を浮かせて視界も索敵もしにくくなるような状況ではかなり戦いにくい。


しかも金属片を盾代わりにして射撃系の魔術を封じてきていた。康太の最大攻撃力を発揮できなくなるうえに、牽制して相手を誘導することもできなかったために少々時間がかかってしまったのである。


「情けない・・・それでも私の弟子か。ジョアならものの数秒で片づけるぞ」


「俺を姉さんと一緒にしないでください・・・俺はまだ姉さんほど強くないんですから」


「まったく・・・だというのにお前はあいつより強いと思われているのか・・・嘆かわしい・・・あいつもあいつだ。もう少し前に出ないでどうする」


「いや、姉さんの場合はそうなりたくないから頑張って実力を隠してきたんじゃないですか」


康太と真理、どちらが強いかと言われればほとんどの魔術師は康太のほうが強いのではないかと考えるだろう。


単純に協会の依頼で戦闘している光景をよく見せている康太に比べ、真理は戦っているところをほとんどといっていいほど見せていない。


そのため、周囲と本人たちとで認識の齟齬が発生しているが、康太よりも真理のほうが圧倒的に強い。これは康太も真理も認めているところである。


問題なのはそれを周りが認識していないことだ。いや、この状況は真理が作り出したものであるために、簡単にそれを壊すのも申し訳なく思える。


実際のところ、真理の実力を知っているものは康太たちのような身内以外では二桁に満たないと思われる。


それだけ真理が努力したということでもあるのだが、あまりに兄弟子の評価が低いというのは康太からすれば歯がゆかった。


能ある鷹は爪を隠すというが、真理の場合は隠しすぎだと小百合は考えているのである。康太からすれば真理のような生活を送りたかったなと思ってしまうのだが、それは今更というものだろう。


小百合が今までとは違う大きな扉を開こうとするが、ドアノブに手をかけようとしたところで小百合は止まっている。


一体どうしたのかと康太が不思議そうに彼女の姿を眺めていると、その意味を康太は即座に理解した。

康太の索敵に唐突に魔力の反応が現れたのだ。


奥にいる人間は二人。その中の一人に多量の魔力の反応があった。


先ほどまでは全く魔力がなかったのは確認していた。つまり索敵用に魔力抜きを行っていたということだろう。


用意周到なことだと思いながら、康太は小百合に視線を向ける。


逆に言えば索敵してようやく気付くことのできた魔力のなかった魔術師の存在に、小百合は気づいていたということになる。


相変わらず化け物のような察知能力だなと康太はため息をつきながら小百合の背中を軽くつつく。


「わかっている・・・ビー、お前こそ分かっているな?」


「わかっていますよ。連戦で・・・しかも格上か・・・面倒くさいなぁ・・・」


康太はそういいながら槍を構える。康太のやるべきことは決まっている。小百合の通る道を掃除すること、小百合の邪魔をさせないことである。


先ほどの戦いで魔力は四割ほど削れている。即座に回復する量ではないが、相手との戦い方を気をつければ何とか五分に持っていける状態である。


先ほどの戦いでは幸いにもほとんど装備を消費しなかった。


装備は十分、魔力は半分以上、戦闘能力としてはあまり高いとは言えないが、少なくとも勝てないほどではないのではないかと考えていた。


先ほどの魔力の増加量から考えて魔力の供給量的には間違いなく負けているだろう。となれば長期戦は不利。短期決戦に望みを託すほかなかった。


「私はさっさと仕事を終わらせて帰りたい・・・ビー、無様な戦いは許さんぞ?」


「わかってますよ・・・全力を尽くします・・・師匠は手伝ってくれないんですか?」


「弟子の獲物をとるほど落ちぶれてはいない」


戦う相手のことを獲物というあたり小百合はさすがだなと康太は内心ため息をついてしまう。


もはや相手を敵とすら思っていない。まるで狩りのような考え方に康太は苦笑しながら姿勢を低くする。


「それじゃ行ってきます!」


康太は掛け声とともに目の前の扉を蹴破り、部屋の中にいた魔術師に視線を向ける。そして自分に向けられている銃口を見ると同時に分解の魔術を発動した。


部屋にいるのは二人。片方が魔術師であることは確認している。もう一人は魔力を全く有していないことから一般人であることが予想される。


一人は狼狽えることなく堂々と椅子に座り、もう一人はこちらに銃を向けて攻撃態勢を取っていた。


だが康太の分解の魔術によって自らの武器が無力化されたのを見て、魔術師は戸惑っているようだった。目の前に一般人がいるからか大っぴらに魔術を発動しようとしてこないのは康太にとって僥倖だといえるだろう。


相手にとって一般人は守る対象だろうと、こちらからすれば最初からこの場にいる人間すべてを消すつもりなのだ。今更魔術の存在を見られても何も気にすることはない。


康太はウィルを駆動させながら、噴出の魔術で一気に彼我の距離を詰めると魔術師を拘束しながらさらに加速し、壁を突き破って隣の部屋へと躍り出る。


「お前は正気か!?あれは一般人だぞ!堂々と魔術を使うなんて何を考えている!?」


ウィルに拘束された状態のまま叫ぶ魔術師。そして康太に聞こえてくる日本語、目の前の魔術師の口の動きが日本語のそれと一致しないことから、アリスの翻訳はしっかりと機能しているようだった。


ありがたい限りだと康太は仮面の下で薄く笑みを浮かべる。


確かに普通に考えれば康太の行動は暴挙以外のなにものでもない。一般人に見られることを承知で魔術を使うなど普通の魔術師ならばやらないだろう。


だからこそ不意を打つことができた。このチャンスを逃す手はないと康太はウィルの体を噴出の魔術でさらに加速させた。


壁から壁へ、部屋から部屋へ、連続で叩きつけ、突き破り、その体に強い衝撃を与えていく。


さすがの魔術師もこのままやられっぱなしはまずいと判断したのだろう。康太の体を攻撃しようと試みるも、度重なる衝撃と高速での急加速急減速に体がついていかないのか、集中が乱され魔術を発動できずにいた。


「一般人だからどうした?どっちにしろもうお前が気にすることもないよ」


「な・・・んだと・・・!」


何度も壁を突き破り、柱部分にたたきつけると同時に康太はこの魔術師と少しだけ話をすることにしていた。


少なくともこの場所にいるすべての一般人は排除対象となってしまっているが、魔術師はその対象には含まれない。


あくまで康太は小百合の露払いとして、仕事の邪魔をしないようにこうして相手をしているだけだ。

戦わないで済むなら戦わないほうがいい。


少なくともこの魔術師を倒すのには苦労する。康太の勘がそういっているのだ。なるべくなら戦いを避けたいと思うのは当然だろう。


きっと小百合がこの場を見たら「阿呆が」とあきれるのだろう。


「ここの人間は全員消される。魔術の存在がどうのこうのとか気にすることもない。かけらも残さずきれいさっぱり消える。俺の師匠が来てるんだ。これはもう覆らない」


「・・・お前の師匠・・・?いったい誰だ・・・!」


さすがに一瞬見ただけでは判断できなかったのか、それとも魔術協会に所属していないから小百合の存在を知らないのか、どちらにせよ康太にはどうでもよかった。


ここで小百合の名を出すことが相手の戦意を削ぐことになるのか、それとも相手の戦意を奮い立たせることになるのか。どうなるのかは何となくわかっていた。


「知る必要はないだろ。どっちにしろお前はここにいてもらう。この建物の掃除が終わるまでな」


「掃除・・・!?お前、ここに何人の一般人がいるのか知ってるのか・・・!」


「百人規模だとは聞いてるよ。だけどさ、仕方ないだろ。どっかの馬鹿が情報を流そうとしてるんだから、それを止めるのが俺らの仕事だ」


「・・・ふざけるな・・・!そんなことで・・・!そんなことでここの人間を殺すのか!たかがそれだけのことで!」


理不尽なことだと自分で言っていて理解している。かつて康太が味わった理不尽な言葉を、今度は自分が言うことになるとは思わなかったと、康太は内心苦笑してしまっていた。


「それがどうした・・・あいにくそういう細かいことは言っていられないらしいんだよ。運がなかったとあきらめてくれ」


「運?あきらめてくれ・・・!?ふざけるな・・・!お前は何様だ!神にでもなったつもりか!人の生き死にをそのような・・・そんなことで勝手に決めて!許されると思っているのか!?」


許されるか許されないかで言われれば、康太たちが今していることは決して許されることではないだろう。


非合法組織とはいえ百人規模の人間を殺そうというのだ。そんな行為にも特に何も感じないのは、まだ康太が直接手を下していないからなのかもしれない。


倒しては来たが殺しては来ていない。康太はここで人殺しをするつもりは全くなかった。


そういう妙に責任が付きまとう行動を、軽々しく行うつもりはなかった。


少なくとも、小百合からは好きなようにやれと言われているのだ。この作戦に関しては好きにするつもりでいた。


仮に支部長から命令で殺せと言われても、康太は拒否するつもりだった。


やりたいことをやる。やりたいようにやる。それが小百合の弟子である康太のやり方であると自信を持って言えるからだ。


「許してもらおうとは思っていないし、そもそも誰に許しを乞えばいい?神にでも祈れってか?あいにくと無宗教なんだがな」


「・・・彼らの家族は・・・彼らの友はどうなる!?」


「さあな。そこまでは知らん。あとは上の人間が決めることだ。もしかしたら一族郎党皆殺しかもな」


康太の発言がきっかけになったのか、魔術師の魔力がみなぎっていく。まぁこうなるだろうなと康太はため息をつきながらもその表情は笑っていた。


理不尽なことに怒るのは理解できる。そしてこういう被害者はそれを発散する場が必要だ。


話しているうちに、この魔術師が悪い奴ではないということを理解した康太は、意図的に話をこの方向へともっていった。


多少面倒が増えるだけだ。戦う相手が一人から二人になるだけの話。さしたる変化ではないと康太は笑っていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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