奥の手
すでに両手両足を負傷している魔術師は宙に浮きながら康太へと攻撃を仕掛けていた。体を動かせばその場所から壊れていくとなれば体を動かすことはできない。だからこそ浮く。
そして先ほどのような近接戦にも似た高速機動はできない。そのためか、周囲の金属を用いた射撃戦に移行するようだった。
激痛に苦しんでいるだろうに周囲の金属片の動きはさらに加速していた。文の作り出している竜巻によって多少動きが阻害されているように見えるが、それでも数の利を生かして康太めがけて攻撃を仕掛けてくる。
だが康太もこの程度の攻撃に驚くほど軟ではない。攻撃形態のウィルを纏った状態でウィルにエンチャントの魔術をかけ、防御力と攻撃力を一時的に上昇させる。
双剣笹船を携えたウィルはその体を鞭のように縦横無尽に刃を繰り出し、康太へと向かってくる金属片をすべて弾き飛ばす。
康太はウィルが作った道を通るように一直線に魔術師にめがけて跳躍した。
康太はそこまで飛行能力は高くはない。飛んでいるというよりは跳んでいるという動きを好むため、長時間空中にいることはできない。
だが康太めがけて襲い掛かってくる金属片はウィルを盾にして受け止めることで、一時的な空中の足場にできる。康太はこれを使って再現の魔術を使わずに空中を駆け回っていた。
相手の機動力はすでに先ほどまでのキレは一切ない。速度のなくなった相手を見失うことなどあり得ない。先ほどまでの集中力を維持しながら康太は槍を構えていた。
無論対峙している魔術師もただやられるつもりはないようだった。自分の体の周り、腕や足以外の胴体に金属片を集中し始め、そこから攻撃できる金属の触手を作り出している。
康太が行っているウィルの戦闘形態を見て真似したのだろう。だがウィルの攻撃は康太が動かしているわけではない。
ほとんどウィルが動かしている状態なのである。処理能力的な意味でも攻撃の精度という意味でも、相手の魔術師よりも何倍も高い性能を発揮している。
康太が接近するのに合わせて、ウィルは攻撃を周囲の金属片から魔術師本体へとむけていた。
金属片を縫うように刃を突き立てようとするその動きは、人間にできるそれを軽く超えている。
ウィルの多角的な攻撃に加えて康太の機動力、魔術師は当然ながら追い詰められてしまっていた。
攻撃が命中するかもしれない、その瞬間、魔術師の体が炎に包まれた。
周りにいた誰かが攻撃したのだろうか、康太はそう考えた瞬間に自らのその考えを否定する。
魔術師は痛みを覚えていない。それどころか笑っているようにすら思えた。先ほどまでとは少し違う。康太は眉をひそめながらも、それでも前へと突っ込んだ。
康太の戦い方は前進するしかないのだ。相手がどのような手段を講じていてもやることは同じこと。
少し様子を見ることも考えたが、このまま手負いの魔術師を放置しておくと危険だと判断し、即座に槍を構える。
彼我の距離が槍の射程範囲に届くと同時に、康太は槍を振るい体の周りにある金属をはぎとろうとする。
だが康太の槍は思い切り振ったにもかかわらず金属片を引きはがすことはなかった。
それどころか、金属片はより強固に魔術師の体を守るように固まっている。それがどういうことなのか康太は先ほどの炎を思い出し、大まかに察していた。
要するに、あの炎を使って適当な金属片を融かして即席の鎧を作ったのだ。
周囲に落ちていたそこまで純度の高くない金属だろうが、一瞬で融かしてそれを融着させるだけの熱量を一瞬で発動できるあたり炎の魔術も得意としているのではないかと思われる。
それを攻撃に向けてこないのには何か意味がある。単純に彼の素質か、あるいは心情的な問題でもあるのだろうか。
どちらにせよ防御の手段を与えてしまったのは康太にとって手痛い失態だった。先ほどまではゴミをかき分けるように金属片に対して手数で攻撃すれば多少は攻撃が通っていたのに対し、もう強力な一撃を叩きつける以外に相手にダメージを与えられなくなってしまったのだ。
炎に対して強い耐性を持っている、あるいは熱そのものを伝達しないようにする魔術を使えると考えたほうがいいだろう。炎の弾丸や噴出の魔術ではダメージが与えられないのを理解した康太は、眉をひそめて相手を攻略する糸口を探そうとする。
強い衝撃を与えるならば蓄積か拡大動作の魔術が有効だろう。だが機動力が落ちたとはいえ周囲に金属片が未だ飛び交うこの状況では蓄積の魔術で強力な一撃を放てるようになるまでには時間がかかりすぎる。
幸い、頭部はまだ露出している。苦痛同調の魔術で一気に片を付けることも考えたが、この魔術は康太の切り札の一つだ。
最後の手段と言い換えてもいいが、可能な限り使いたくない魔術である。
相手を廃人にすることがほぼ確定しているような魔術を使えばどのようなことになるのかは目に見えている。
何よりこの魔術師にはそのような手段は使いたくなかった。
ならばと康太は槍を持つ手に力を込める。
魔力の消費が激しくなってしまうためあまり使いたくはないがそうもいっていられない。これ以上時間をかけると一般人に対しての隠匿が間に合わなくなる可能性もある。
拡大動作をメインとして連続攻撃するしかない。だがそれにしてもやり方を考える必要があるだろう。
康太は周囲に浮かび続ける金属片を見て一つ思いつく。
やりようはある、相手が防御手段をまだ完全にしていない今こそチャンスである。
相手が展開したこの周囲にあった金属片、これこそが勝利の鍵となると康太は確信していた。




