武器と魔術師
「なお、当然だけれど相手も武器を所持している。銃火器の類はくれぐれも注意してほしい。まぁここにいる人なら大抵平気だと思うけども」
銃は人類が生み出した武器の中でも最も携帯性と攻撃力のバランスに優れた武器である。
懐に入れておけるほどの大きさの銃でも、簡単に人一人を殺すことができてしまう。それこそ指を少し動かす程度の労力で。
康太や小百合のように日々努力して得られる力と違い、金かコネさえあれば、日本以外の国ならば割と簡単に手に入ってしまうような武力の象徴、それこそ銃だ。
才能と努力によってはじめて結果に反映される魔術とは対極の存在といってもいいかもしれない。
才能がなくても、努力をしなくても比較的簡単にある程度の力が手に入ってしまうのだから。
もちろん本当の意味で銃火器を使いこなそうとすれば才能も努力も必要不可欠になるだろう。
だがマフィアのような非合法組織に属している者がそれほどの努力をし、なおかつ高い割合で非日常に身を置く魔術師以上に戦い慣れしているとも思えなかった。
特にこの場に集められたのは支部長が目をかけ、特に高い戦闘能力を有していると思われる魔術師ばかりだ。
拳銃などに後れを取るほど油断はしていないつもりではあるが、それでも支部長は万が一を考え警告したのだ。
その警告の意味をその場にいたほとんどの魔術師が正しく理解していた。
「師匠、俺今まで銃相手に戦ったことがないので手っ取り早くできる銃の類に対しての対策をお願いします」
「あ?あんなもの殺気を読んで分解するだけだろうが。私じゃなくてもお前でもできるお手軽な攻略法だ。狙撃だろうと近距離だろうと、殺気を読めば反応できる」
「なるほど、なら比較的できそうですね。注意するべきは流れ弾くらいですか」
「そうだな。偶然ばかりはどうしようもない。だからそういう時のために最低限の防御はしておけ。急所に当たらなければ問題なく動ける」
「確かに。まぁ俺はある程度防御できますけど、師匠はどうするんですか?」
「最悪斬る。どうしようもなくなったら祈れ」
「何にですか?神様にでも祈りますか?どうせ信じてないでしょうに」
「そうだな・・・松田優作にでも祈ってくか」
「それ撃たれる人ですよね?撃たれますよ?なんじゃこりゃって言いたいんですか?」
「それはそれで癪だな・・・じゃあキアヌ・リーヴスにでも祈るか」
「避けるにしてもあんなよけ方無理ですよ?ていうか避けてる時点で察知できてるじゃないですか」
康太と小百合の会話を周りで聞いていた魔術師は恐ろしく何とバカらしい話をしているのだろうかと半ば冷や汗をかき、半ばあきれてしまっていた。
殺気を読んで弾丸を躱すなど常人にできるそれではない。小百合がそのくらいのことをできるのは半ば予測できることだったが、その弟子の康太もすでにその域に達しているということに驚きを隠せなかった。
目を隠した状態での訓練が思いのほか康太の感覚を鋭くしているのか、集中状態に達すれば殺気どころかある程度視線も把握できるようになりつつある。
康太は小百合に近い察知能力を身に着けつつあるのだ。そういう意味ではかつて誰かから言われた小百合の正統後継者と言えなくもない。
もっとも康太ができることが真理にできないはずはない。当然康太以上の察知能力を真理は持っている。
それを隠しているだけの話なのだが、ほとんどの魔術師が気づいていないのである。
「はい、クラリスとブライトビーのような無茶苦茶な行動をとる人はいないだろうけども、狙撃とかには注意してね。索敵範囲外からの攻撃は魔術師にとっても脅威だからね。相手にキロ級のスナイパーがいるとも思えないし、展開させるだけの隙は与えないつもりだけど万が一もあるから十分注意すること」
魔術師の索敵は広くしても数百メートルだ。逆に言えばそれ以上遠いところから一方的に攻撃すれば不意打ちも十分可能なのである。
弾丸が索敵の範囲内に入ったところで反応できない。音速に近い速度で襲い掛かる弾丸に反応できるような人間などいないのだ。
「あらかじめ障壁や防御の魔術を張っておいて予防するしかないな・・・威力どれくらいだ?」
「生半可な防御じゃ貫通されるな。少し防御に割り振って全身を覆っておけば通常防御にもなるし、そのほうがいいんじゃないか?」
「いや、あんまり処理を割きすぎると攻撃に手が回らなくなるぞ?ある程度は索敵で対処するべきじゃ・・・広範囲に索敵班を回すか?」
「あんまり分散すると危険じゃないか?相手だってそれなりに数がいるんだぞ?」
作戦会議に参加している魔術師はあれやこれやと意見を出していく。そんな中小百合はそれを我関せずといった感じで眺めていた。
「見ろビー、これが狙撃に対応もできないお粗末な魔術師たちだ。お前はこんな風になるんじゃないぞ?」
「はい、クラリスは黙っててね・・・っていうかクラリスからも何か意見出してよ。狙撃に対してのいい対策。殺気を読む以外で」
「あ?・・・そうだな・・・ぶっちゃけ狙撃の距離にもよるが、遠くからの攻撃の場合射線が通っているとこう・・・何というかピリッと来る場所がある。そこに気をつけろ」
なんともアバウトかつ抽象的な対策にその場のほとんどの人間が内心舌打ちしていた。全員がそんな言い方でわかるはずがないだろうにとほとんどの人間が思っている中、康太と文はなるほどなと少しだけ感心していた。
小百合の説明を正しく理解するには実体験で殺気を多く感じ取るしかないのが難しいところである。




