教える難しさ
「康太的には明日はどっちが勝つと思う?船越君に勝ってほしいって思うの?」
「正直晴が勝つってことになっちゃったからな・・・ぶっちゃけ船越君が勝つビジョンが見えにくくなった・・・付け入る隙はあるだろうし、船越君にも勝機はある。けどなぁ・・・ぶっちゃけ晴以上に相性が悪いと思う」
相性が悪いと康太は言ったが、船越はまだ魔術師としてあまりにも未完成だ。戦闘スタイルも、魔術師としての基本方針も、何より人間としても未熟な点が目立つ。
康太自身、自分がそこまで高い実力を持っていると思えるほど自惚れてはいない。だがそれ以上に船越は粗削りな面が目立つのだ。
よく言えばまだまだ伸びしろがあるというべきか。
対して明は射撃系をメインとし、現段階でもなかなか高い処理能力を有し予知と射撃の連携によってそれなり以上の攻撃力を有している。
おそらく攻撃面では晴のそれよりずっと上だろう。
文に教えられて魔術での攻撃の仕方、当て方など教わっていることもあるため、船越相手ならば問題なく立ち回れる。
「じゃあどういう状況になったら船越君が勝てると思う?」
「そうだな・・・まず第一に接近戦をすることだな。明は晴に比べて近接戦が苦手だし、何より予知をフル活用した明相手に射撃戦で優位に立てるやつはなかなかいないと思うぞ。それを船越君にやれっていうのはまず無理だ」
明の予知によって把握できる情報量は晴のそれよりかなり多い。単純な射撃戦の場合、予知の力は圧倒的だ。
相手の弾道も動きも丸わかりになるのだから対処しやすく攻撃しやすいのは当たり前である。
はっきり言って射撃戦では勝算はない。
だがそれは船越が射撃戦で戦った場合の話。船越が接近戦を挑んだのであれば勝機は見えてくるだろう。
「でも小百合さんとの訓練である程度はましになったんじゃないの?あんたも結構槍を教えてあげてるでしょ?」
「まぁ・・・本当にある程度って感じだぞ?筋がいいのは認めるけど・・・まだ振り回されてる感は否めないな」
「けど、魔術と組み合わせればそれなりなんじゃない?あの子結構面白い魔術の使い方するわよ?」
単純な攻撃や魔術の発動が多い晴と違い、明は文の指導のおかげか、その処理能力の高さゆえか、いくつかの魔術を組み合わせる、あるいは応用しての発動が多い。
集中できる環境にあれば、彼女に近づくのは康太も少してこずるだろう。
「あとは船越君がどこまで明の弱点に気付けるかだな・・・たぶんしょっぱなから暗闇は使ってくるだろうし・・・」
「双子ってこともあって同系統の魔術を使ってくると思うでしょうね。最初は面食らうでしょうけど・・・」
すでに康太と文の頭の中では明と船越が戦う光景が浮かんでいた。今日船越の戦闘を見たおかげで、二人とも船越の戦闘能力をほぼ正確に把握することができていたために、明との具体的な戦闘能力の違いを理解できているのである。
二人の頭の中ではほぼ結果は出てしまっていた。いくつかのイレギュラーでもあれば話は別だが、そのような偶然が起きることはまずない。
十中八九、明の勝ちで勝負は決まるだろう。
「実戦はうまくいくかしら・・・あの子だけ明らかに楽な戦いじゃあんまり意味ないんだけど・・・」
「・・・んー・・・先輩方との戦いはちょっと辛いだろうしな・・・こうやって考えると実力に見合った相手と戦わせるのって難しいな・・・うまく調整できない」
「あんたのところの師匠とかはそういうのを見極めるのが抜群にうまいわよね。やっぱ戦闘経験の違いなのかしら」
「・・・あー・・・そうかもな。天性の勘ってやつだろ。あの人、洞察力もそうだけど勘があり得ないほどいいからな」
康太の言葉にあんたも人のこと言えなくなってきてるけどねと文は突っ込みそうになったが、あえてその言葉は飲みこんで小さなため息へと変えていた。
「とりあえず、どんな形でもいいから実戦を経験させるのはいい結果に転がりそうだし、そのあたりはいいんじゃない?今後、もっと役に立ってくれるわよ」
「二人は今のところ情報担当だからな・・・今後はしっかりと戦力になってくれることを期待するよ・・・」
「弟子を持ったわけでもないのにこんなこと考えなきゃいけないなんてね・・・そういえば神加ちゃんのほうはどうなのよ?」
「相変わらず蹴りの練習だな。この前オーバヘッドキックができるようになったぞ」
「・・・あの子もセンスいいわよね・・・なんかすごく複雑な気分」
決して運動神経が悪いというわけではないが、神加の成長速度を見ていると文は自分が運動音痴なのではないかと思えてくるから不思議である。
文は近接戦があまり得意ではない。無論できないわけではないが康太や真理のそれに比べると数段劣る。
神加も徐々に近接戦の実力を身に着けてきている。いずれ抜かされるのではないかと内心びくびくしてしまっているほどだ。
子供の成長とは早いものだ。そして教えれば教えるほどに力をつける人種は教えていて楽しくもある。
未熟な身でありながら、康太と文は師匠としての気持ちの片鱗を感じ取っていた。




