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異世界恋愛無双帝国 ~勇者が建国したらドラゴン300匹が国民になった~  作者: 4ランクは下の人間


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第十二話 幕間①

 レグナード王国、王宮。


 セシリアの私室にある浴室には、白い湯気がゆっくりと立ちこめていた。

 彼女は浴槽の縁に腰を下ろし、つま先でお湯の温度を確かめた。


「ん……あったかい……」


 ゆっくりと身体を沈め、セシリアは目を閉じた。


「はぁ……気持ちいい……」


 濡れた髪をかき上げ、細い首筋を伸ばす。

 湯気に包まれた頬は、ほんのりと赤く染まっていた。


「……こんな時間、久しぶりかも」


「お湯加減はいかがですか、姫様?」


「ええ。ちょうどいいわ」


 侍女の声に答えながら、セシリアは小さく息を吐いた。

 温かな湯に包まれていると、ふと、ここ数日の出来事が頭をよぎる。


 恋愛無双帝国。

 アルバート皇帝。


「……上手く行った――」


 セシリアの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

 そして、これまでの事を回想した。


 * * *


 ――二日前。王宮、執務室。


「本気ですの?」

「はい」


「建国して間もない、あの帝国に領土を?」

「はい」


 宰相は真顔で頷いた。

 セシリアは書類を置いた。


「……我が国の官僚は、そこまで無能ではありませんわよね?」


「もちろんでございます」


 宰相は地図を広げた。

 王都の北に広がる、広大な森林地帯。


「今回の戦いで、七大魔神の一柱ヴェルムが倒されました。しかし、あの地域が安全になったとは限りません」


「魔神領、ですわね」


 ――魔神領。


 魔神が支配する土地という意味ではない。


 この先へ進めば魔神と遭遇する確率が高くなる――人間たちが恐れを込めてそう呼ぶ地域だった。


「今後も魔軍が出現する可能性があります。王国軍を常駐させるとなれば、莫大な費用が必要です」


「つまり?」


「恋愛無双帝国に管理を任せるのが、最も合理的かと」


「……厄介な土地を押しつけるということですの?」


「管理をお任せする、ということでございます」


「……」


 セシリアは、生粋の王女である。

 王家に生まれた者は、国に尽くす。

 それは彼女にとって、疑う余地もない当然の責務だった。


 セシリアは地図を見つめた。

 そして、ふと思い出す。


 黒い霧。

 次々と倒れていく兵士たち。

 動けなくなった竜王。


 そして――最後まで魔神に立ち向かったアルバート。

 あの男は、自分が何をしたのか、まるで理解していない様子だった。


「……アルバート」

「殿下?」


「分かりましたわ。褒賞として、その土地を授与しましょう」

「ありがとうございます」


「それと、私自身が大使として書状を届けます」

「殿下ご自身が?」


「ええ。あの男とは、決着をつけなければならない件もありますから」

「領土授与の件、お父様にも伝えて頂戴」


 セシリアは微笑んだ。

 ただし、その目は笑っていなかった。


 * * *


――侍女がセシリアの背中を流す


 湯に濡れた白い肌は、見る者の目を奪うほどに美しい。


「セシリア様」


 侍女の声に、セシリアは回想から引き戻された。


「あの男は、やはりバカです」

「……いきなり何ですの?」


「セシリア様のご命令どおり、金貨一万枚を目の前に置いてきました」

「すると借金のことなど忘れ、骨董品屋に騙されてガラスの剣を買ったそうです」


「しかも、『オマケで今なら二つ』という言葉に騙されているんですよ」

「……」

「金貨一万枚で、ガラスの剣が二本です」


「……ずいぶんと高価なガラスですわね」

「はい。あの男、金銭感覚というものが存在しないのでは?」


 セシリアは額に手を当てた。

「それで、裁判の件は?」

「違法金利なのは明白でした。契約書にも問題がありました」

「法的には十分に争える案件だったと思います」

「だった、ということは?」


「アルバート陣営だけでは、勝てたかどうか」

「でしょうね……」


「ただ、こちらで手を回しておきましたので」

 侍女は、少しだけ得意げに胸を張った。


「裁判官に、契約書の金利に関する問題点を確認させました。」

「あとは裁判官が自分で判断できるよう、必要な資料を渡しただけです」


「……ご苦労様」

「いえ、姫様のご命令ですから」


「そうね」

 セシリアは浴槽の縁に腕を置いた。


「もっとも、あの陣営には別の問題もありますけれど」

「リリアさんですか?」


「ええ」

 セシリアはため息をついた。


「いざとなれば、ドラゴン三百匹で押し通すつもりだったのでしょう?」

「……可能ではありますね」


「可能かどうかの話ではありませんわ」

「アルバートさんなら、やりかねませんけどね」


「銀の食卓の件は?」

「はい。保険金も賠償金も受け取り、近日2号店を建てる予定だとか。竜王が働いた店として宣伝するそうです」


「大変ご苦労。たくさん儲かると良いわね」

 セシリアは浴槽から立ち上がった。


 豊かな乳房が揺れ、張りのある肢体が湯気の向こうに浮かび上がった。


「アルバート……」


「バカは確定。しかも、救いようのない大バカ……」


 しかし。

 彼女は、その男が魔神の前に立った姿を忘れていなかった。

 恐怖に震え、逃げようとしながらも、最後には立ち向かった。


 ――あれは、本当にただのバカなのだろうか。


 * * *


 王宮、執務室。


 湯浴みを終えたセシリアは、侍女が用意した書類に目を通していた。

 最初は、魔神による王都被害報告書。

 続いて、恋愛無双帝国への領土授与に関する書類。


 そして最後に、アルバートの能力に関する戦闘解析報告書が置かれていた。


「……これは?」


「ヴェルムとの戦闘について、各所から集めた記録を整理したものです」


 セシリアは報告書を開いた。


 アルバート=プーホルス。

 レベル:八。

 一般成人:レベル十前後。

 鍛えた者:レベル二十前後。

 人類最強クラス:レベル四十前後。


 そして――


 竜王ルシエラ:推定レベル百万級。

 魔神ヴェルム:推定レベル一千万級。


「……比較するのも馬鹿らしいですわね」


 レベルだけなら、勝負になるはずがない。

 それでも、アルバートは生き残った。

 セシリアは次のページをめくった。

 そこには、帝国の閣僚一覧が記されていた。


 皇帝:アルバート。

 官房長官:リリア。

 財務大臣:リリア。

 総務大臣:リリア。

 法務大臣:リリア。

 経済産業大臣:リリア。

 防衛大臣:プックル。

 外務大臣:ルシエラ。


「…………」


 セシリアは一覧を見つめた。


「この子、邪魔ですわね」

 指先で、とんとんと叩く。


「さて……どうしましょうか」


 セシリアは椅子にもたれた。

 そのとき、ふと自分の左手に目が留まった。

 小指。

 そこには、黒い金属の輪がはまっていた。

 ヴェルムが倒れた日。

 アルバートの左手にも、同じ位置に現れたもの。


「……」


 セシリアは、しばらくその輪を見つめた。

 そして、報告書へ視線を戻した。


 * * *


 アルバート皇帝・戦闘解析報告書


 対象:皇帝アルバート(LV8)


 神話級即死魔法《アブソリュート・エンド》および

 魔神の権能:魂吸収《ソウル・ドレイン》を受けながら生存。


 LV1000万級の魔神による魔法・直接攻撃を受けても生存。

 既存のスキル・耐性では説明困難。


 暫定分類:スキル《不死》


 なお、戦闘終盤に確認された光剣現象についても、

 発生原理・能力との関連性ともに未解明。現在調査中。


 * * *


「……スキル《不死》」


 セシリアは、その文字を指でなぞった。

 既存の鑑定手段では、アルバートの能力を特定できなかった。

 それでも、報告書の作成者は、あえてこの名称を与えた。

 即死魔法を受けても死なない。 魂を奪われても生きている。


 そして、レベル差を覆して魔神を倒した。

 ただの耐性で説明するには、あまりにも異常だった。


「アルバート……あなたはいったい、何者?」


 セシリアの小指には、黒い輪が静かに光っていた。


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