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貧民街の転生者  作者: Stellune


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路地裏の赤

あれから、いくつかの時が過ぎた。


最初は手探りだった毛皮の売却も、今では流れ作業に近い。

フォレストラビットとフォレストウルフを狩り、なめして加工し、

週に一度か二度ギルドへ持ち込む。


回数を重ねるごとに、

買取のやり取りも無駄がなくなっていった。


「また持ってきたのか。安定してるな」


初日の受付の女性はいつの間にか、大柄の男性に代わっていた。

男にそう言われる程度には、顔も覚えられているらしい。


それでも、こちらから踏み込むことはない。

登録はしていないし、名前も名乗っていない。

事務的な会話と少しの世間話をするくらいだ。


あくまで、村から流れてきた狩人。

それ以上でも、それ以下でもない。


銀貨は少しずつ貯まっていった。


食料、素材、最低限の備品を揃えても、まだ余裕がある。

“生きるだけ”ではなく、“選べる余地”がある状態。


「……悪くない」


小さく呟く。

拠点の方も整ってきた。


木の小屋は雨風をしのげる程度には頑丈になり、かまどや作業台も使いやすく改良した。

最近では、クラフトでできることも増えている。


 傷薬。イヤシソウをすりつぶし、軟膏状にした簡易回復剤。

 そして――低級ポーション。


こちらはまだ数は作れていないが、効果は確かだった。

軽い体調不良ならすぐに回復し、小さな傷なら数分で塞がる。

ティアが軽い風邪をこじらせたが、1日で回復していた。


 ただし、これを表に出すつもりは今のところない。


「目立つのは、まだ早い」


 ギルドの扉を出ながら、心の中で整理する。


素材の売却だけなら問題ない。だが、ポーションとなれば話は別だ。


前世と違い、医療が発達しておらず、

魔法や薬師個人の腕によって受けられるレベルが変わるような世界。


街中を探索した時に治療院と呼ばれる病院のような施設があったが、

【ヒール】という回復魔法を受けるのに、銀貨が数十枚飛ぶそうだ。

ポーションも同じく、気軽に買えるような値段ではなかった。


低級ポーションとはいえ、狩人が販売を始めたら、

製法、供給元、目的――余計な詮索が増える。


 今はまだ、“裏側で整える時期”だ。

 そう判断している。


ギルドを後にし、いつもの裏道へ入る。


昼過ぎの街は騒がしいが、一本路地を入るだけで空気が変わる。

人の気配は減り、湿った匂いと静けさが戻ってくる。


 足音を殺し、気配を薄める。


 ――いつもの帰り道。



 そう思っていた。

 だが。


「……ん?」


 視界の端に、不自然なものが映った。


 石畳の上に、黒ずんだ染み。


 血だ。


 乾ききっていない。まだ新しい。


 その先に、崩れるように倒れている人影があった。


 距離を詰める。


 赤い髪。



「……カレンか」


以前、路地裏で助けた少女だった。


あの時と同じ鋭さはない。

呼吸は浅く、肩で息をしている。

腕や顔には擦り傷。服は土と血で汚れ、打撲の跡も見える。


 ……やられているな。

「……ちっ」


周囲を確認する。


人気はない。だが、時間の問題だ。

このまま放置すれば、別の連中に見つかるか、最悪そのまま――


そこで思考を切る。



「……放っておく、か?」


誰に聞くでもなく、呟く。


関わる理由はない。

助けるためにはスキルを使う必要がある。

余計なリスクを負うだけだ。


あの時は“たまたま”助けただけだ。

 ――そうだろ?


 脳裏に浮かぶ。

 ルナとティア。


 あの二人が、同じように倒れていたら。


「……ああ、もう」


ため息が漏れる。

考えるまでもない。

この子だってまだ子供で、俺は大人だ。


 俺はしゃがみ込み、カレンの様子を確認する。

 意識はない。だが、まだ生きている。


「運がいいな」


軽く担ぎ上げる。


「俺に見つかったのが、かどうかは知らないが」


体は思ったより軽い。

食っていないのが分かる重さだ。


周囲をもう一度確認し、そのまま裏道を抜ける。

足早に、だが目立たないように。


向かう先は決まっている。


 ――拠点だ。


森へ続く穴をくぐりながら、俺は小さく呟いた。


「さて……面倒が増えたな」


だが、その声に後悔はなかった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

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