赤髪の逃亡者
街の中央通りは、昼を過ぎても人の波が絶えなかった。
露店の呼び声、鍛冶屋の槌音、焼き立てのパンの匂い。
その匂いに混じって、怒鳴り声が響いた。
「待ちやがれ、この くそガキ!」
視線を向けると、赤い髪が人混みを縫って走っていた。
俺と同じくらいの年頃。短く結んだ赤髪が揺れ、鋭い目が周囲を睨みつけている。
腕にはしっかりとパンを抱えていた。
後ろから追うのは、顔を真っ赤にしたパン屋の主人。
――面倒事だな。
俺は足を止めた。
関わる理由はない。そう思った。
――だが。
脳裏に浮かんだのは、ルナとティアの顔だった。
もしあいつらが空腹で、同じことをしたら?
「……ちっ」
舌打ちが漏れる。
俺は人混みを横切り、赤髪の進路を読む。
路地に入る瞬間、腕を掴んだ。
「なっ――!」
「静かにしろ」
そのまま横道へ引き込む。角を二つ曲がり、廃材が積まれた影へ。
数秒後、パン屋の主人が通り過ぎていった。
「どこ行きやがった!」
怒鳴り声が遠ざかる。
赤髪の少女は俺を睨みつけたまま、腰の短剣に手をかけていた。
「……何のつもり?」
「別に」
俺は肩をすくめる。
「ただの気まぐれだ。捕まると面倒そうだったからな」
「恩を売るつもり?」
「興味ない」
数秒、にらみ合う。
やがて彼女は短剣から手を離した。
「……ありがとう」
小さな声だった。
「カレン。名前くらいは教えとく」
「俺は――」
「いい。聞かない」
即答だった。
「借りは、いつか返す」
それだけ言うと、彼女はパンを抱えたまま屋根の上へ飛び乗り、あっという間に姿を消した。
……赤髪の嵐だな。
俺は小さく息を吐き、帰路についた。
***
廃屋の中。
ルナが火の番をして、ティアが干し肉を並べている。
「おかえりなさい、カイさん」
「ああ」
街でのことを軽く話し、次の一手のために動き出す。
「今日は毛皮を作る」
「毛皮…?」
ルナはちら、と素材がストレージエリアを見る。
「あー、、素材としての毛皮じゃなくて、売り物としての毛皮だな。
きちんとなめして俺以外でも活用できるようにする…… 説明が難しいな。」
とりあえず作って見せたほうが早いか。
ギルドに売るなら、生皮そのままより加工した方が高く売れるだろう。
俺は素材を並べる。
・石
・木と草の灰
・水
・木材
・燻製台
なめすとは動物の皮から毛や、脂、タンパク質を取り除き、
なめし剤を染み込ませることで耐熱性を上げ腐敗進行を抑制する行程だったはず…
――なんでこんなことを知ってるんだ…?
不意に疑問が湧いたが、<狩り>スキルの上昇による恩恵であることが思い当たった。
鑑定スキルだけじゃなく、各スキルの影響がクラフトスキルにもあるのか…
なら、薬品を作るには<癒し>スキルを伸ばすのが良いのかもな。
少し考えがそれたが、思いつく限り頭の中で工程を組み立てる。
クラフト。
作業は日が落ちるまでかかった。
本来ならもっと時間がかかるだろうが、クラフトスキルによってかなりの時間が短縮されている。
夕暮れ、二枚の毛皮が木枠に張られている。
俺は手を触れ、鑑定を起動する。
【鑑定】
名称:良質な毛皮
分類:加工素材
用途:防具作成など
品質:良
耐久:100/100
効果:防具作成時、防御性能をわずかに向上させる
備考:丁寧になめし処理が施されている。安定した市場価値を持つ。
「……よし」
成功だ。
ルナとティアが目を輝かせる。
「うれる?」
「ああ。普通の毛皮より確実に高く売れるだろう」
ルナが頷いた。
「こんな立派な毛皮初めて見ました…。」
「明日、ギルドに持ち込んで売ってみるよ。
そしたら、いろいろ買ってくる。」
「パンたべたい!」
「分かった、分かった。買ってくるよ。」
「やったー!」
――ああ。
保存食、武器、加工。
生き延びるだけじゃない。
よりよい生活の為に積み上げる。
その夜、焚き火の明かりを見つめながら、ふと赤髪の少女を思い出した。
カレン。
借りを返すと言っていたな。
……また会う気がする。
根拠はないが…
こういう予感は意外と外れないものだ。
赤い火の粉が夜空に舞い上がった。
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