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 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 アダム将軍に別れを告げて、国境を越えたとたん土砂降りになった。

 フィレリオ火山は、国の名前を冠している。その国は、火の国と言われるだけあって、雨が降ることが少ない。国境を越えたとたんに、不思議なことに景色が変わる。


 フィールドが変わったとたんに、景色が変わるなんてゲームの世界では当たり前だけれど、実際に目の当たりにすると不思議な気持ちでいっぱいだ。


 周囲は、短い草丈の草原と、細長い低木の続く大地だった。

 雨が少ない気候だったはず。それなのに土砂降りとは。


 はやく、ジャンが手配してくれた宿に入るのが正解に違いない。

 そう思って、足早に街道を通り抜けようとしたときにそれはいた。


「――――?」


 白と黒のモフモフ。


 道の真ん中に、それは転がっていた。


 その生き物の名前を私は知っている。その生き物の名前は。


「パンダ……なぜこんなところに」


 とりあえず、雨の中でピクリとも動かないところを見ると、生きているのか分からない。

 恐る恐る触れてみると、まだ温かいし呼吸もしているみたいだ。

 私は、回復魔法をかけてみる。


 回復魔法をかけ終えると、パンダがガバリと起き上がった。

 どう見てもパンダ。でも、二足歩行のパンダ。


「えっと……」


 パンダの獣人?

 それとも、ただのパンダ?


 私は混乱する。


『くれぐれも道に落ちたものなんか拾ってはいけませんよ』


 アダム将軍の言葉が脳裏をよぎる。それはフラグというやつだったに違いない。

 次の瞬間、意外と鋭かったパンダの目がこちらをにらんだように思った。


 ルリが私の前に立って、戦闘態勢に入ったとたん、目の前を風のように誰かが横切って、パンダに攻撃を仕掛けた。


 土砂降りの中、水の精霊を従えたローブ姿の男性が、パンダに攻撃を仕掛け、パンダはそれをやすやすと防いだ。


 両方とも、相当のやり手なのは間違いない。

 そして、フードの男性の剣筋には見覚えがある。

 見間違えるはずもない、その剣技。


 そのまま、臨戦態勢に入ろうとしたときに、パンダが突然土下座した。


「――――すまない」


 パンダがしゃべった……。

 この時点で、二足歩行のパンダが、ただのパンダであるという線は消滅した。


「命の恩人に対して、混乱して攻撃を仕掛けた。許して欲しい」


 パンダに謝られれば赦す以外に選択肢はない。

 それよりも、私が気になるのは、そちらの剣士様のフードの下の犬耳だ。


「あの……剣士様」


 剣士様は、フードをより深く被る。でも、バレバレだ。


「――――なんでここにいるんですか、レン様」


 ここにいてはいけないはずの、王太子殿下が「もう少し黙ってついていこうと思っていたのに」と、観念したようにフードを外した。


最後までご覧いただきありがとうございました。


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