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アダム将軍に別れを告げて、国境を越えたとたん土砂降りになった。
フィレリオ火山は、国の名前を冠している。その国は、火の国と言われるだけあって、雨が降ることが少ない。国境を越えたとたんに、不思議なことに景色が変わる。
フィールドが変わったとたんに、景色が変わるなんてゲームの世界では当たり前だけれど、実際に目の当たりにすると不思議な気持ちでいっぱいだ。
周囲は、短い草丈の草原と、細長い低木の続く大地だった。
雨が少ない気候だったはず。それなのに土砂降りとは。
はやく、ジャンが手配してくれた宿に入るのが正解に違いない。
そう思って、足早に街道を通り抜けようとしたときにそれはいた。
「――――?」
白と黒のモフモフ。
道の真ん中に、それは転がっていた。
その生き物の名前を私は知っている。その生き物の名前は。
「パンダ……なぜこんなところに」
とりあえず、雨の中でピクリとも動かないところを見ると、生きているのか分からない。
恐る恐る触れてみると、まだ温かいし呼吸もしているみたいだ。
私は、回復魔法をかけてみる。
回復魔法をかけ終えると、パンダがガバリと起き上がった。
どう見てもパンダ。でも、二足歩行のパンダ。
「えっと……」
パンダの獣人?
それとも、ただのパンダ?
私は混乱する。
『くれぐれも道に落ちたものなんか拾ってはいけませんよ』
アダム将軍の言葉が脳裏をよぎる。それはフラグというやつだったに違いない。
次の瞬間、意外と鋭かったパンダの目がこちらをにらんだように思った。
ルリが私の前に立って、戦闘態勢に入ったとたん、目の前を風のように誰かが横切って、パンダに攻撃を仕掛けた。
土砂降りの中、水の精霊を従えたローブ姿の男性が、パンダに攻撃を仕掛け、パンダはそれをやすやすと防いだ。
両方とも、相当のやり手なのは間違いない。
そして、フードの男性の剣筋には見覚えがある。
見間違えるはずもない、その剣技。
そのまま、臨戦態勢に入ろうとしたときに、パンダが突然土下座した。
「――――すまない」
パンダがしゃべった……。
この時点で、二足歩行のパンダが、ただのパンダであるという線は消滅した。
「命の恩人に対して、混乱して攻撃を仕掛けた。許して欲しい」
パンダに謝られれば赦す以外に選択肢はない。
それよりも、私が気になるのは、そちらの剣士様のフードの下の犬耳だ。
「あの……剣士様」
剣士様は、フードをより深く被る。でも、バレバレだ。
「――――なんでここにいるんですか、レン様」
ここにいてはいけないはずの、王太子殿下が「もう少し黙ってついていこうと思っていたのに」と、観念したようにフードを外した。
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