犬耳王子は追いかける
――――いろいろ言いたいことがある。
何でここにいるんですか。
政務はどうしたんですか。
何でこの一週間会いに来てくれなかったんですか。
たしかに全部私が言いたいことに違いない。でも、いまいちピンと来ない。
でも、土砂降りは続いていて、このままじゃパンダも、私も風邪をひいてしまうだろう。
残念なことに、私は魔力はあっても、それほど体力はない。
宿屋には、護衛とルリ達の部屋のほかに、貴族用の部屋はなぜか一部屋しかとっていなかった。
ジャンはすべて知っていたはずなのに。ツインルームとは。
慌てて空き室がないか確認したけれど、在りませんと素気無く断られた。
パンダ用の個室はあるのに。
着替えるまで、部屋の外で待っていてくれたレン様が、入るなりタオルで私の髪の毛を拭き始める。
レン様の目線は、私の首元を見つめたままだ。
「……その、ネックレス。身に着けてくれていたんですね」
フードをとったレン様の犬耳が、大変元気なくぺったりとしてしまっている。
そしてかなり顔色が悪いみたいに見受けられる。
「――――レン様」
どうして、レン様が一週間近く会いに来てくれなかったのか。
今になって思い至ってしまった私はバカだ。
思うより先に、レン様の頬に私の手が触れる。回復魔法をレン様に掛ける。
優しい色の魔法が二人を包む。
「――――会いたかったです」
「俺のこと……置いていこうとしたのに?」
スッと目を細めるレン様。
たぶんレン様は、私が旅に出ようとしていることも、レン様を置いていこうとしていることも、とっくに予測していたのだ。
『俺もあまりの多忙さに寝ずに働いています。王太子殿下は俺より忙しそうでしたよ』
ジャンも言っていたではないか。有能なジャンが寝られないほどの多忙さと、それよりも忙しく過ごすレン様。
新たな魔獣の報告もなく、砂漠から全土がオアシスになってしまったラビアン王国の情勢も、ずいぶんと安定してきた今になって、なぜ寝られないほど忙しかったかなんて……。
「――――俺自身がしないといけない政務は一カ月分済ましてきましたからね?」
「――――はい、レン様」
「それに、陛下も快く送り出してくれました」
「レン様」
「それに、今はアダム将軍とジャンもいる。1カ月程度の不在で問題が起こるとは……」
いつも、穏やかに話すレン様。今日は、なんだか少し早口だ。
フードを外したレン様の服装は、使者としてグリフィス王国に来た時のものだった。
「だから、帰れなんて言わないで」
そう言って、レン様は私の事を抱きしめた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




