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予想以上の出来栄えな、アダムとジャン。
王女の護衛騎士を表す、白い騎士服が二人ともとてもよく似合う。
「ふふっ。二人ともとても素敵だわ」
「あ、あの……この格好は」
うろたえたようにこちらを上目遣いに見つめるジャン。ジャンは男爵家の三男だ。その立ち位置と、少し自信がなさそうな、垂れ目の若きイケメン護衛騎士。……これは素晴らしい。
「うん、陛下からそろそろ護衛騎士を決めるように言われていたの。これからは、宮殿の外に出ることも増えるからって」
そして虎の尻尾と耳がトレードマーク。金色の瞳と獰猛さすら感じる虎の獣人の護衛騎士。何だろうここは桃源郷か。たぶんアダムさんの方は、これから起こることを正確に理解している。
その表情には、諦観すら浮かんでいる。うん、逃がさない。
たぶん、この後の展開がわかってしまったのだろう。ジャンは震えてしまっている。これは少しフォローが必要そうだ。
「ジャン、私に恥をかかせる気ですか? 私はあなたの事を信じることにしたのに」
「えっ? 姫様が俺のことを?」
「そうよ。それにジャンは私の命の恩人だから。何があっても私が守るわ」
「――――姫様に守られる情けない護衛騎士なんて、未だかつて聞いたことがありません」
その瞬間、ジャンの背筋がしゃんと伸びた。それだけで、私の護衛騎士としてふさわしい佇まいになる。
私を抱えて走っていた姿からジャンには素晴らしい身体能力があることがわかっている。そうでなければ逃げ切ることは難しかっただろう。ジャンには伸びしろがある。
それに、ちゃんと「アダム殿」と呼んですでに獣人を蔑むことが無くなった彼の思考の柔軟性も好ましい。おそらくこれから進む道で、私にはたくさんの敵ができてしまう。
そんな時、きっと二人は味方でいてくれる。
――――まあ、ただの勘だけど。味方でいてくれるといいな。
父であるグリフィス国王は、謁見室の豪奢な椅子に座って私を出迎えた。私はアダムさんにエスコートされて入室する。
やはりというか、アダムさんのエスコートは完璧だった。
「第三王女シエラです。今回の討伐責任者として陛下にご報告を」
父は、獣人であるアダムさんが私の護衛騎士を表す騎士服に身を包んでいるのを表情も変えずに見つめた。そして、小さなため息をついた。
「――――申せ」
「はい、今回の魔獣討伐では、予想に反して複数の上位種が確認されました。うち一体はこちらのアダムが撃破しております。そして全軍一人もかけることなく撤退することに成功しました」
「ああ、予想外にも困難な任務を無事遂行したことを褒めよう」
「……ありがとうございます」
そこで父は「そこの護衛騎士以外人払いを」と言った。
謁見室には、私と父、アダムさんとジャンだけが残される。
「それで、どういうつもりだ」
「――――どういう意味でしょうか、父上」
私は、王女としての微笑みを崩さない。今まで、聖女としての能力を高めてこの国を離れることばかり考えていた。でも、守りたい仲間ができてしまったから、今までの凡庸な王女ではもういられない。
「今まで、そのように振る舞うこともなかったのに。それに、護衛騎士の選定……これからお前が歩むのはいばらの道になるぞ」
「――――覚悟の上です」
それに、ぜったい断罪ルートに入る前に、他の国にお嫁に行くんだから! だから大丈夫です父上。
「姫を救い出した討伐戦の英雄としても、獣人をここまで取り立ててしまえば、周囲の猛反対にあうぞ。特に、中央の権力者のほとんどは人族至上主義者だ。お前の立場は難しいものになるだろう」
「構いません。そのかわり、私の聖女としての資質は、魔獣討伐でも、中央の貴族たちの利権のためでもいかようにもお使いください」
「――――シエラ」
父は初めて私のことを名前で呼んだ。生まれて初めてではないだろうか。
「お父様……。お父様の立場は理解しています。それでも私は」
「ああ、国王の立場であるからこそ、出来ることは限られているが……。わかった。今回の討伐戦での活躍への褒美として王命でそこの二人を護衛騎士にしよう」
父は人族至上主義でないのはわかっていた。それでも、この国の内政を混乱させないために、父にはとるべき立場があるということも。
「ありがとうございます」
振り返って、二人に微笑みかける。報奨と言っても、二人はこれから私のいばらの道を強制的に一緒に歩むのだ。報奨なんて名ばかり。それならついでにこちらも請け負っていただこう。
「あ、ついでに聖女直属部隊設立を聖女の名のもとに申請します。我が国の法律では直属部隊の任命権は、聖女にありましたよね? 隊長はアダム、副隊長はジャンでお願いします」
「……シエラ、いつからお前はそんな目をするようになった」
実は私、中身は大人なので。そんな風に言えたらいっそ楽なのかもしれない。でも、これだけは譲れない。
「――――娘としての最初で最後の願いです」
とは言ったものの、私はまだ知らない。
砂漠から来た使者のせいで、最初で最後のお願いを密かにもう一度父にすることになるなんて。
でも、まだ私はそのことを知らない。
砂漠国の王子様と私が出会うまで、まだ5年の時間を過ごす必要があるのだから。
第1章完結です。このあと、番外編を投稿。第2章準備中です。
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