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気がつくと、自室のベッドに寝ていた。着替えもされて、先ほどの大惨事は跡形もなくなっている。おそらく、騎士のジャンはまだ近くにいるはずだ。私は、侍女を呼び出し身支度を整える。それと同時に騎士のジャンを呼び出すように伝えた。
「――――参上いたしました」
「良く来ましたね。ジャン……」
私の前に恭しく跪いていた年若い騎士が、驚いたように顔をあげた。
「俺の名前、知っておられたのですか」
「うん。さすがに一緒にいてくれる騎士の名前くらい知ってる。ところでアダムさん……ううん、アダムは」
嫌な予感がする。おそらくアダムさんのおかげで全軍撤退はできただろう。上位種がいたという報告をあげたこと、全軍が無事に帰ったことはむしろ大成功と言えるだろう。
けれど、殿を務めた私が倒れてしまった。
だれが責任をとるのか。誰になら責任を負わせやすいのか。
「アダム殿は……」
ジャンが眉を寄せた。それだけで、私の予想が恐らく正しいことを確信してしまう。
「まだ……無事だよね? いったい今どこにいるの」
「北の広場で、姫様を危険にさらした罪で尋問を受けています」
北の広場なんて、王族に対して罪を犯したものが捕らえられる場所だ。アダムさんは、私の事を助けてくれただけなのに。
「ジャンはわかっていますよね。アダムが私のことを助けてくれたんだって」
「分かっています……。獣人というだけで彼に心無い言葉を向けた俺がおろかでした」
「連れて行って」
「……あそこは、姫様がいくような場所では」
――――行かなくては。
私が一人で走りだそうとしたのを察したのか、ジャンが私の事をお姫様抱っこした。
「……こういう抱き上げ方もできたのね」
「からかわないでください。あの時は、走る方を優先しただけですよ」
「そう。悪かったわね、汚して」
「いいえ、光栄です」
その返答、間違ったら勘違いされるからね?! そういうのを喜ぶ人みたいになっちゃうからね?
でも、すでに覚悟を決めているみたいなジャンに余計なことは言えない雰囲気だ。
ジャンが足早に歩いていく。その後ろを、たくさんの侍女たちがついてくる。姫としての日常。姫としての生活。違和感しかない。
北の広場で、門を守る騎士に入ることを止められる。
「こんな場所に、姫様を入れたとあれば……」
私は、ジャンに降ろしてもらうとその場に出来るだけ傲慢に、不遜に見えるように立った。その姿を見た騎士が、慌てて跪く。
「第三王女シエラが命を下します。先の討伐戦の英雄が誤って捕らえられているとのこと。すぐに案内するように」
シエラの紫から赤に変わる瞳を、出来る限り冷酷な王女に見えるように鋭くする。悪徳と呼ばれることを恐れて、いつもにこにこと笑っているだけだった私。でも、今は自分に悪評が立つことよりも、恩人を助けたい気持ちの方が強い。
それでも、すぐに動かない門番の騎士にしびれを切らしたようにわざと声を荒げる。
「――――聖女であり、王女である私に、逆らうのですか?」
そのまま出来る限り冷たく微笑むと、騎士は背筋をただして王族に対する礼をした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
案内された北の広場は、高くそびえる塔や壁のために日も差さない場所だった。
「……アダム」
「――――姫さん、高貴なお方が何でこんなところにいるんだよ」
縛られたアダムさんは、無事なようだけれどずいぶんひどい目にあったようだ。さすがに人前なので、姫としての姿勢を崩すことなく話しかける。
「アダム……私が気を失わなければ、こんなことさせなかったのに」
しゃがみこんで、縛られているひもを短剣で切る。虎の獣人の力を恐れたのか、魔法が掛けられているから、それも解き放つ。聖女の得意分野だ。
できている傷は、回復魔法で治しておく。
「エスコートしなさい。これから陛下のところへ行くから」
「は……何を言っているんだ」
「まず、その恰好何とかしないといけないわね? あと、エスコートは出来るの、出来ないの」
「――――ご命令であれば」
そう言って、頭を下げたアダムさんの礼は、予想以上に完璧だった。やっぱり普段の態度は、暴れん坊で力ばかりだと周囲に思わせるための擬態なのだろう。
「じゃ、王女宮の客室へ連れて行って。アダムを誰よりも素敵な騎士へと磨き上げてちょうだい。あと、ジャン。あなたもね?」
「ひっ、俺もですか?!」
振り返って侍女たちに命を下す。グレーの瞳と髪の毛のジャン。磨き上げれば光ると見た。そしてもちろん、アダムさんは言うまでもなくカッコいい。
二人の仕上がりが楽しみだ。
そして私は決意する。たとえ、自分の立場がどうなろうとアダムさんを私の手元に置くことを。
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