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危険な魔物


 私達は森の奥のほうへ、奥の方へと歩いていた。周りの木々は太く大きくなり、陽の光は木の葉に遮られ地面に届くのはわずか。気がつけば森の中は薄暗く、じめじめした雰囲気が漂っていた。


 木々の上で鳴いていた鳥たちの声も聞こえなくなっていた。


 少し歩きすぎてしまったみたい。


 日が差し込まないせいか少し寒くなってきた。


「ねえ、もうそろそろ戻らない」


 私はグスタフに問いかけた。


「そうですね。戻りましょうか」


 グスタフと一緒に引き返そうとしたとき、


「!?」


 急にグスタフが腰に吊り下げた剣を引き抜いた。そして森の奥のほうに鋭い視線を飛ばす。剣を引き抜いたということはただごとではない。何か危険が迫っているということだ。


「私のすぐ後ろに来てください」


 囁くようにグスタフは言った。


 グスタフは両手で剣を構え、足をやや開いた。いつでも剣を繰り出せることができるようにだろう。


 警戒を含んだ彼の声を聞いた私は、言われたとおりにグスタフのすぐ後ろに回った。


 耳を済ますと、遠くのほうでガサガサと落ち葉を踏みしめる音が聞こえた。何かが近づいてきているようだった。音からするにリスやうさぎといった可愛らしい小動物ではなさそうだ。それよりももっと大きな何かだ。


 音のする方を見つめていると、人の背丈もありそうな大きなイノシシが姿を現した。全長が人の背丈ほどなのではない。地面から背中の一番上までが人の大きさはある大きなイノシシだった。口からは大きな牙が左右に二本ずつ飛び出していた。とても鋭く尖っており、簡単に人体を突き刺すことができそうだ。そもそもあまりの巨体のため、突進されるだけでただでは済まないだろう。そのイノシシは、普通のイノシシにしては大きすぎる。何か魔物のたぐいだろう。


 襲いかかられたらどうしよう。嫌な汗が流れ出した。


 私達の前に姿を現したイノシシはそれ以上近づこうとすることはなく、立ち止まって私たちの方をじっと見つめていた。イノシシの鼻がピクピクと動き、耳はパタパタとなびいた。こちらの様子をうかがっているようだった。


 グスタフも剣を構えているだけで、挑発的な行動はとらない。


 お互いが睨み合ったまま時が流れた。


「そのまま慌てずにゆっくりと後ろ歩きで下がってください」


 グスタフが囁いた。


 私は言われたとおりにゆっくりとイノシシと距離を取る。本当は回れ右をして全速力で駆け出したい衝動に駆られたが、なんとか我慢した。急に動いたら、イノシシが突進してくるのではないかと怖かったからだ。ここは戦闘のプロであるグスタフの言うことを大人しく聞くのが一番だ。


 一歩一歩確実に距離を取る。グスタフも私の動きにあわせてイノシシから離れる。いつイノシシが観察を終えて私たちを襲ってくるだろうかと恐怖した。


 しかし、イノシシは襲ってくることはなかった。巨大なイノシシは私たちを見つめるだけで何もしてこない。静かに立っていた。


 ふいにイノシシは私達を見つめることをやめると、回れ右をして歩み去っていった。


 イノシシの姿が見えなくなり、十分時間が経ったころ、私は詰めていた息を吐き出した。グスタフも剣をおろし、腰の鞘に収めた。


「怖かった」


 私は言った。


「ええ、かなり大きな魔物でしたね。早くここから去りましょう。いつ戻ってくるかわからない」


 グスタフが急ごうと言うふうに手を差し出してきた。私はグスタフの手を取った。


 もしかしたらイノシシは私達を見逃したのではなくて、仲間を呼びに行ったのかもしれない。ホッとしているとイノシシの大群が戻ってくるのかもしれない。そんな不安が頭のなかをよぎった。せっかくグスタフとこれから楽しい生活を送ろうというのに、魔物に殺されるなんてまっぴら。


 グスタフが私の手を引きながら、歩いてきた道を早足で戻る。


 周りは日が差し込まない暗い森から、だんだん木漏れ日が洩れる明るい森に変わっていく。


 鳥たちの声も上からまた降ってくるようになっていた。


 森からは嫌な雰囲気はなくなってきていた。


 そして暫くすると、私達はなんとか家にたどり着くことができた。ほぼ駆け足にちかい速度で戻ってきたので息がきれていた。グスタフも同様だった。やはり死霊術で蘇ってから、グスタフの体力も落ちているみたい。


「あまり森の奥に行くのは危険ですね。これからはもっと気をつけましょう」


 家に戻って、一息ついてからグスタフは言ってきた。私もそう思う。


 なんだか森の奥は得体がしれない。グスタフがドラゴンに喰われたときのように、森の奥にいけば悪いことが起きる気がする。特別なようがなければ、森の奥に行くのはやめようと心に決めた。

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