散歩
空は雲ひとつなく、ぽかぽかとした陽の光が降り注ぐ昼過ぎ。
グスタフは机に向かって書物をしていた。紙には整った文字が記されていた。何を書いているのか私は知らない。私は何を書いているのと聞いても「秘密です」 といって見せてくれない。とても内容が気になる。日記だろうか? 小説だろうか? それとも騎士の戦術についての論文だろうか?
彼は病人――ということにしている――なので、普段はおとなしくしているように言っていた。グスタフは私の言うことを聞き、書物をするようになった。
彼が大人しく知り合いに会う危険のない家の中にいることは、とても嬉しい。
でも、せっかく一緒にいるのに、書物ばかりで、私を相手にしてくれないのでちょっぴり寂しい。
「ねえ、散歩にいかない?」
私はグスタフに外に出ようと誘った。ゆっくりと二人手をつなぎながら散歩するのだ。こんな天気のいい日は外を出かけないともったいない。
なにより私の相手をして欲しい。
もしかしたら人に見つかる危険もあるが、この家の周りは森に囲まれている。めったに人に会うものでもない。少しくらいならば大丈夫だろう。
「もちろん」
グスタフは書物の手を休めると、立ち上がって壁にかけてある剣を手に取り、腰のベルトに吊り下げた。何かあったときの用心だろう。
「行きましょうか」
私とグスタフは外に出て、並んで歩き出した。
そよ風が心地いい。木々が風で揺れて葉が擦れ合う音が聞こえた。木の上の方からは鳥たちのさえずり声が降ってくる。地面には枯れ葉が積もっていて優しく足を包み込んでくれる。天然のクッションだ。
ゆっくりとした歩調で自然のなかを歩くのは心地がいい。
「ねえグスタフ、体調はどう?」
しばらく並んで歩いたあと、私は聞いた。グスタフは一度死んでいる。死霊術で蘇ったが悪影響が何かしら出ていてもおかしくない。できるだけグスタフの体調は把握しておきたかった。
「やはり怪我の影響なのでしょうか、身体の動きが少し鈍くなってしまっていますね。元気になった暁には、身体を鍛え直さなければなりません」
私から見ても、グスタフからは戦闘訓練を受けた騎士特有のキビキビとした動きが失われている気がした。
「聖女様と付き合うことになったなんて同僚に知られてはどんないびりが待っているかわかりません。しっかりと返り討ちにできるようになっておかないと」
グスタフが軽口を叩く。
「あんまり無茶してはだめだからね。私がいいというまでは激しく運動することは禁止。わかりましたか?」
私はグスタフに注意する。彼を街に戻すつもりなんてまったくない。トレーニングによって身体が以前のように元気に動くようになったりしたら、グスタフは街に戻るなんて言い出すかもしれない。そんなことを許せるはずもない。何かしら理由をつけてこの家に引き止めるつもりだ。
「わかりました」
「それとグスタフをいびるやつがいたら私がとっちめてやる」
グスタフをいびるやつがいるなんて許せるはずがない。私のグスタフなのだ。たとえそんな奴とはもう会うこともないとしても、いるというだけで腹がたつ。
「あいつらもいいやつなんです。ほんとに」
グスタフは笑った。
「なにがおかしいというの。私はグスタフを心配しているというのに」
「心配ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですから。クリスティーナが出ていったらもっと茶化されてしまいますよ。愛されているなって」
グスタフは笑いつづける。よほどおかしいらしい。
「いびるっていったんですけど、少し違いますね。クリスティーナは教会の聖女であり、我ら教会騎士団のアイドルでした。貴方のためなら命を投げ捨ててもいいという者がたくさんいます。そんな貴方と私はお付き合いすることになった。教会騎士達は嫉妬といったらそれはもう。聖女様を泣かすなよっていう脅しがたくさん来るでしょう」
なるほど、そういうことか。私を心配してこその行動だということか。しかし、そんなの知ったことか。私のグスタフをいじめるものはどんな理由でも許さない。たとえソレが私のことを思ってのことだとしても関係ない。
「とにかくどんなことがあっても私に相談すること」
「はい、わかりました」
グスタフはやれやれというふうに肩をすくめた。
そんな話をしながら私達は森の中を散策した。
「ねえ、こんなふうに二人だけで歩くのも久しぶりね」
私は教会の聖女として大切に扱われてきた。つねに私の近くには世話役のシスターが控えていたし、どこか教会の外を出歩くならば複数人の護衛の騎士と一緒だった。グスタフも護衛騎士の一人として一緒に歩くことはあったが、他の騎士もいた。そして護衛騎士達は決して私と並んで歩くことなどなく、常に私の前や後ろを歩き、不測の事態に備えていた。
「たぶん孤児院のころ以来でしょうか」
グスタフが昔のころを話す。
そうだ。私とグスタフが一緒に孤児院にいたころは良く手を繋いで並んで歩いたものだった。二人で孤児院の庭を駆け回ったりもした。
その頃のように私達は二人並んで歩く。お互いに歩調をあわせて、自然を満喫した。
身分の違いを気にせずに、昔の頃のように歩けることが嬉しい。
そっとグスタフに手を差し出すとグスタフは握り返してきた。




