目覚め
「クリスティーナここは……?」
蘇ったばかりのグスタフが戸惑った声音で聞いてきた。
「お父様が持っている別荘の一つよ。治療のためにあなたをここに運んだの」
「そうですか。クリスティーナが私を癒やしてくれたのですか」
「そうよ。必死に祈ったんですから。私が教会の聖女だったことを感謝してくださいね」
死霊術を使ったことはいわない。彼に嫌われてしまうかもしれないから。彼に心配してほしくないから。
「ありがとうございます。……もしかして、気を失う前に私は何かまずいことを口走りませんでしたか?」
「……変なこと? そうねぇ、変なことなんて一言も言っていなかったと思います」
「よかった」
「ただ、私のことを『愛している』と言ったのははっきりと覚えています」
「なっ……あれは……その……もう私は死ぬものだと思っていましたから」
グスタフは顔を真っ赤にさせてうつむく。
「わかってる。もう言う機会がないと思ったから、胸に秘めていた思いを私に伝えてくれたんですよね?」
「……そう……です。私はクリスティーナのことを愛しています」
「……ありがとう。私も愛しています」
お互いが見つめあいはにかんでしまう。
「そうだ。私のことを守ったことを教会は讃えてくれるそうよ。お父様に聞いた話だけど、私たちの付き合いを認めてもいいって!」
「本当ですかっ! ……っと、もう付き合うことは公認なんですか……」
「そうよ。だって、あの時に『愛している』と囁いてくれたのはグスタフのほうだもの。聞いた人もいっぱいいる。皆が私達のことを応援してくれる。それに教会騎士団が、教会の聖女たる私を守った功績として、休暇を与えるって。ね、この家でゆっくりと傷を癒やしましょう」
私は必死に嘘をつく。私を愛してもいいんだと彼を洗脳するために。彼と話すのは私だけ。私が余計なことを伝えなければ、彼は私のことを信じてくれるはず。
いかに彼の心を私に依存させることができるか、それが重要だった。彼はもう死んだ人間。迂闊に都に戻ってもらっても困る。これから彼はこの家を中心に生活してもらう必要があるのだ。
「すでに外堀は埋められているようですね。せっかくの休暇ですし、ゆっくりと休ませてもらいましょう。クリスティーナ、これからよろしくお願いします」
「任されました。いつも私が守られてばかりだったんだもの。聖女として看病は任せてください」