自分
宇宙を飛ぶような孤独感
あてもなく
ただただ彷徨い続ける様な心
体と魂がずれている不思議な気分
視界に映る物が全て偽りに見え
感覚や嗅覚が冷たい
それでも唯一音だけは、はっきりしている
そこにある
全てが偽りに見える世界で音だけは自分の魂に刻まれる
何故そう思うのかは分からないが
私の中ではそうなのだ
離人感と言うらしい
精神科に行った結果
そう診断された
色々と説明を受けたがそれがなんだという感覚
こう話している今でも自分という存在自体が前後にずれていく
そうこうしているうちに精神科医の長い話が終わり処方された薬を受け取る為に病院のソファーで待つ
じっと窓に浮かぶ空を見る
何もないただの空だ
代わり映えはしない
いつも同じ
「雨の日は?」
そう質問しながらいつも黒い服を着た彼女が隣に座る
「雨の日は雨の空だよ」
空から目を離し彼女の方を向く
「どうだった?」
息のしない目で質問をしてくる
「離人感だって」
何も言わなかったがきっとそうだろうと思っていたのだろう
「...さんいらっしゃいますか?」
自分の名前を呼ばれた
「はい」
会計を済ませ
薬を受け取る
「帰ろっ」
先に自動ドアの前に行った彼女が僕を呼ぶ
病院から出ると蒸し暑い蝉の声が響く
山奥の病院だ
周りが静かなのがよりいっそう蝉の声を引き立てる
「暑いね」
黒い服なのだから暑いだろう
ぼろぼろになったコンクリートの坂を下りながら今日は何をしようかと考えるが何も思い浮かばない
自分は若い
同じ若者ならばゲームなどやるだろうがそういう気も起きないし
そもそもゲームが大好きというわけでもないのであまりやる機会がない
では何をしようか
そう考える
自由がなかった自分に訪れた自由
それを存分にに使うには何がいいだろう
坂を下る
「次のバス、何時だっけ」
現代的ではない彼女が手さげ鞄からバスの時刻表の載った紙を取り出す
「15時10分だって、まだ1時間と少しあるけどどうする?」
そうだな
何も思いうかばない自分に
さらなる問題が立ち塞がる
が
「暑いしアイスでも食べようか」
少し嬉しそうな彼女と共に近くにある喫茶店に向かう
神無月珈琲店
ユニークな名前の珈琲店に足を運ぶ
「いらっしゃい」
馴染みのマスターは僕と顔を合わせるといつものサービスコーヒーをカップに入れて出してくれた
「新作だ」
との事
飲むと微かな甘みとコクが舌に広がる
「珍しいコーヒーだね」
と彼女は言うが僕にはさっぱりわからない
いつもと味が違うのはわかるが何処が珍しいのかはコーヒーに詳しくない為全くだ
「バニラアイスってある?」
と彼女
「あるよ」
とマスター
何故か2人の間に西部劇のカーボーイ風の風が吹く
ような気がした
数分後
「バニラアイスだよ、ちゃんとあったろ?」
どうやらマスターはバニラアイスがこの店にあるかどうか疑われていたようだ
「美味しそうだねっ」
笑顔を見せる
スプーンで一口
「美味しい!」
ならよかった
「だろ?」
マスターは目尻にシワを寄せ微笑む
自分には偽りに見えるこの光景
まだ終わらない