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いちごみるく  作者:
6/6

篤人くんとわたしといちごみるく

「あ〜〜! あたしのほうが絶対可愛いのに!」


「いやいや、彼女いるのにOKされても嫌じゃない?」


「だよね、渡辺くんがそんな浮気っぽかったらやだもん。」


「分かってるわよ、冗談よ! 気持ち伝えたかっただけで本気で奪おうとか思ってないし! て言うか、あたし今失恋で傷心中なんだから慰めてよもう!」


「あはは、ごめんごめん。」



 放課後、自動販売機でいちごみるくを買って、教室に戻ろうとしてた時。キャハハ、と笑う女の子たちの声がして、わたしは反射的に校舎の中に隠れた。声が小さくなった後、そっと見てみると、昼休みに篤人くんを呼びに来た女の子がテニス部のユニフォームを着ていて、友達と自動販売機の前に居た。


「……わたしと、正反対。」


 ぽつり、思わず声が漏れた。


 篤人くんがモテてるなんて、分かってることだったのに。篤人くんのことが好きなのはわたしだけじゃないなんて、分かってることだったのに。わたしより可愛い子がいっぱいいることなんて、分かってることだったのに。わたしが篤人くんと釣り合わないことなんて、分かりきってることなのに。

 ……それがこんなにも、苦しい。


* * *


 数学の問題を解いて気を紛らわせてたけど、机の右端に置いてるいちごみるくを見ると、あの女の子を思い出してしまう。


「……篤人くん、ああいう子が好きなのかな。」


 考えれば考えるほど、わたしが篤人くんの彼女でいていいのか、不安になる。もちろん、篤人くんの彼女でいたいけど……篤人くんは、わたしなんかが彼女でいいのかな。


 他の女の子に嫉妬して、うじうじしてるわたしなんて嫌。……そう思うのに、なかなかそこから抜け出せなくて、余計に自分が嫌になる。……このままじゃ、せっかく温子ちゃんと篠崎くんから勇気をもらったのに、篤人くんになにも言えそうにない。


 そう思うと溢れてきそうになる涙を必死でこらえたけど、我慢出来なくてちょっとだけ泣いた。


 その後いちごみるくを飲んだら、口の中に広がった甘さ。それが今の気持ちと反対で、なんだか切なくなった。


* * *


 ガラガラって教室のドアが開く音がした。


「! 良かった、千紗ちゃん居た。」


 篤人くんの声が聞こえたから、はっとして顔を上げる。時計を見ると、もうとっくに6時を過ぎてた。いつの間に、こんな時間に……


「校門にいないから、なにかあったのかと……千紗ちゃん、どうかしたの?」


「えっと、あの、ご、ごめんね、何でもないの、今片付けるからっ」


 女の子のこととか、うじうじしてる自分のこととか考えるのが嫌で、そういうのを考えないようにって思って問題を解いてたら、時計を見るのを忘れてしまってた。今度から気をつけないと。そう思いながら、荷物を片付けていると。


「千紗ちゃん、なんか変だよ。」


 そう言って、篤人くんがわたしの右の手首を掴んだ。


「へ、変?」


「うん。……もしかして、泣いた?」


 まさか気付かれるとは思ってなかったから、わたしは驚いた表情で篤人くんを見てしまった。それは、篤人くんの言葉を肯定する以外の何物でもなくて。


「どうして泣いたの?」


「な、何でもないよ。」


「……千紗ちゃん。」


「え、えっと……あの、ほら、わたしが早く片付けなきゃ帰れないでしょ? 手、離し「やだ。」


 わたしが言い終わらないうちに、篤人くんが言った。


「千紗ちゃん、どうして平気なフリするの。どうして僕になにも言ってくれないの。……今日のお昼のこともそうだけど、それ以外だって、千紗ちゃんがやめてって言ってくれたら、僕、千紗ちゃん以外の女の子と喋ったりしないのに。」


「え…?」


 どういう、こと…?


「それとも、僕が他の女の子と喋ってても千紗ちゃんは平気なの? 焼き餅焼いたりしてくれないの? ホントは僕のこと、好きじゃないのに無理して付き合ってくれてるの?」


「そ、そんなわけ…!」


 平気なわけない。嫉妬だってしてる。なにより、わたしはこんなにも篤人くんが好きなのに。


「……千紗ちゃん、僕、怖いよ。」


 今にも泣き出しそうな顔で言うと、篤人くんはわたしを抱き寄せて、肩口に顔を埋めた。


「千紗ちゃん、僕のこと好きだって1回も言ってくれたことないから、僕、不安で不安でしょうがなくて。」


「え…?」


 わたし、篤人くんに好きだって言ったこと、なかった…? いや、そんなはずは……と思ったけど、言われてみれば、好きって言葉にしたこと、なかったかもしれない。告白された時も、よろしくお願いしますって言ったような……


「焼き餅焼いて欲しくてわざと他の女の子と一緒に居ても、千紗ちゃんは平気な顔してるから。……ホントはもっと、ずっと千紗ちゃんと居たいけど、僕ばっかり千紗ちゃんが好きなんじゃないかとか、千紗ちゃんは優しいから告白断れなくて無理して付き合ってくれてるんじゃないかとか、考えれば考えるほど不安になっていって。」


「平気じゃないよ。」


 わたしは、篤人くんの背中に手を回した。


「篤人くんに嫌われたくなくて、篤人くんを困らせたくなくて、いつも言葉にしなかっただけで、わたし全然平気なんかじゃないよ。」


「……え?」


「篤人くんが可愛い女の子と一緒に居るのを見たら、わたしなんかが彼女でいいのかなとか、篤人くんはああいう子が好きなのかなとか、色々思うの。」


「そんなの、僕が好きなのは千紗ちゃんだけなのに!」


 体が離れて、篤人くんがわたしの両肩を掴んだ。


「ちゃんと言葉にしなくてごめんね、篤人くん。」


「ううん、僕も、ちゃんと言えばよかったのに、怖くて卑怯なことしてた。……ごめんね。」


 篤人くんがしゅんとしてしまったから、わたしは篤人くんの頭を撫でた。


「理由が分かったから、大丈夫だよ。怒ってもないよ。」


「ごめんね、千紗ちゃん、ごめんね。……それから、ありがとう。」


 わたしは両手で篤人くんの右手を握った。篤人くんの手が、震えてたから、安心して欲しいなって思って。


「……わたし、これからも篤人くんの彼女で居ていい?」


「当たり前だよ! 千紗ちゃんじゃなきゃ嫌だもん!」


「じゃあ、もう他の女の子とはあんまり一緒に居ないでくれる?」


「うん、千紗ちゃんが、僕のこと好きって言ってくれたら。」


 悪戯っ子みたいに笑う篤人くん。いつもの篤人くんに戻ってくれたみたい。良かった。


「千紗ちゃん、僕のこと好き?」


「うん、好きだよ。……大好き。」


 篤人くんは、ふわって笑った。


「僕も、千紗ちゃん大好きだよ。」


 その言葉の後、そっと重なった唇。


 ちゃんと自分の気持ちを伝えて、篤人くんの気持ちも知れて、わたしは前よりももっと、もっともっと幸せ者です。

「千紗ちゃんの口、いちごみるくの味ー。」

「あ、いちごみるく飲んだ後だから……」

「美味しいね、千紗ちゃん。」

「(いちごみるく美味しいねってことだよね…?)」

「(悩んでる千紗ちゃんも可愛いなぁ)」


***


これにて本編は完結となります。

お付き合いくださってありがとうございました!

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