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番外編SS『この手をずっと』

*活動報告に載せていた話をそのまま掲載。


香菜と隆氏が付き合い始めた頃。


登場人物


吉田香菜

瀬能隆氏(香菜の彼氏 圭吾の兄)


服部綾女(香菜の親友)

瀬能圭吾(綾女の彼氏)


隆氏視点。






母校の文化祭を覗いた時、僕は彼女に一目惚れをした。



「香菜」

「た、た、た、隆氏さん」


隣で真っ赤になっているのは、僕の彼女になったばかりの吉田香菜。

ずっと、“瀬能先輩”だったのを、僕の努力で最近になって“隆氏さん”まで昇格してもらえた。


香菜はとても可愛い。



「可愛い」

「えええええええ!!!! そんな事ないです!!」



ほら、ちょっと本当の事を言っただけで、真っ赤な顔が、更に真っ赤になってブンブン首を振って否定している。

そんな、仕草も全て可愛いんだからしょうがない。

手を繋いだらどうなるんだろうか。それからキスは?

きっと、もっともっと真っ赤になる姿が容易に想像出来て僕の心は暖かくなる。


彼女の過去については、弟の圭吾から聞いた。

幼馴染の彼氏が高校一年の時にいたとか…。

そいつは、女癖が悪く、香菜は浮気をされて、酷く傷つけられたとか。



嫌な事を思い出して、つい眉間に皺が寄る。



………。



女癖が悪い彼氏って事は……手が早いって事で……。


彼女の小さくて守りたくなるような手も

彼女の柔らかそうな唇も

彼女の白い透き通るような肌も


――全部、踏み荒らされた後なのかもしれない。


はぁ。


でもそれは、身勝手な嫉妬。




当然、僕は香菜が初めての彼女というわけでもなく、色々経験もしてきた。

でも、自分から好きになって、しかも付き合うのに1年もかかったのは香菜が初めてだ。



友達から、ゆっくり。

宝物のように、大事に。


傷付けられた香菜を、今度は僕が護りたい。




最初は、圭吾とその彼女の綾女ちゃんの4人で会う事が多かった。

(綾女ちゃんの品定め感ありありの視線が怖かったが)


徐々に心を開いてくれて、友達になり、理解者になった。


幼馴染であり元彼のお母さんから、時々連絡があると聞いて、直接、僕が相手と電話で話をした事もある。

最初に手を離したのは、向こうの方だ。

僕は、絶対に彼女の手を離したりしない。




そうして、だんだん、僕の私生活も変わってきた。

父について会社周りに行くと取引先の人が偶然同じ大学出身で話が弾み、商談がうまくいったり。

遅刻しそうになった日。信号がずっと“青”で、結局いつもと同じ時間についたり。



「最近、運がいいんだよね」



なんて、4人でいる時に話のタネにしたら、綾女ちゃんがにっこり笑って


「瀬能先輩、良かったですね」


そう言った後、香菜に内緒話をして…香菜は顔を真っ赤にした。



――1週間後。


香菜の方から告白してくれて、僕たちは晴れて恋人同士になった。




*・*




「……」

「た、隆氏さん? どうしたんですか?」

「いや~ 香菜が僕に告白してくれた事を思い出してね?」

「!!!!」

「男の僕から、告白したかったなって」

「た、かしさん」



香菜の手を両手で包み込んだ。


初めて、ちゃんと触れた手は、想像よりも小さくて。

ああ、僕は、この手をずっと繋いで…彼女を護りたい。




「香菜、愛してます。結婚してくれますか?」

「は、いぃぃ。 え? えええええええ!?」


更に更に真っ赤になって、可愛すぎるよね。

どこまで真っ赤になるのか、試したいな。




ダンダンダン。





僕たちの甘い雰囲気に水をさす机を叩く音。


「瀬能先輩、付き合って3日でプロポーズって気が早いと思いマース」

「綾女ちゃん……」

「兄さん、脳みそがお花畑ってわかってますけど。場所を考えて下さい。 大学の食堂でピンク色の空気を出しまくるのはやめてください。身内として、恥ずかしい」

「圭吾…お前」



しまった。

今日は、外野がいたのか。

香菜しか見えてなかったから、すっかり忘れていた。



「でも、香菜は“はい”って言ったよ? ねぇ? 香菜?」

「あのっ」

「嫌? 僕の事嫌い?」

「違いますっ!!」

「違う? じゃあ、何?」

「す…好きです……」

「うん。 僕も愛しているよ。 結婚しようね」

「あ、うう」

「はいはいはい。 瀬能先輩、今日はここまで!!」


そう言って、綾女ちゃんは香菜の手をやすやすと握って連れ去ってしまった。


「…逃げられた」

「……それは僕のセリフです。兄さんが頑張らないと、僕も迷惑なんですからね! ただでさえ、綾女さんは香菜さん命なんだから。綾女さんと香菜さんを引き離すには、兄さんが頑張って、香菜さんを虜にしないと」

「…うーん。やっぱりそうか……」


付き合う頃からそれは判っていた事で。

香菜の後ろには、必ず綾女ちゃんの影がちらついて、年下の女の子ながら、その目線には緊張した。


(小姑…というよりも、お義父さんみたいな? 生半可な気持ちでは俺の娘はやらん! な感じ?)


「圭吾、香菜って、綾女ちゃんの何?」

「親友で“幸運の女神様”らしいですよ」

「“幸運の女神様”……それは違いない! 気が合うな。綾女ちゃん」

「何とぼけた事言ってるんですか! ただでさえ、この1年、純情ぶって友達を気取ってたと思えば、付き合って直様プロポーズって」

「圭吾、お前も直様、綾女ちゃんにプロポーズしろ」

「はぁ?」

「綾女ちゃんをまず抑える。逃げられないようにしとけよ」

「勝手な事ばかりですよね。言われなくても、僕が逃がすとでも?」


一見、気の強い綾女ちゃんが、圭吾を尻に敷いているようで、実は裏では圭吾が綾女ちゃんを囲い込んでいる。 我が弟ながら、その手腕は恐ろしい。弟が力になってくれると会社も安泰だな。




*・*



結局、結婚は香菜の大学卒業を待ってからになった。

圭吾も同じ時期に結婚式を挙げたのだが、僕と香菜の結婚が正式に決まらないと、OKがもらえなかったと終始愚痴をこぼしていた。

そして、新婚旅行も一緒に行くという計画は、綾女ちゃんには悪いが、弟と二人で潰した。



ふと、隣に眠る香菜を見る。

安心しきった寝顔で、思わず笑がこぼれた。

はみ出た手をそっと握って、再度目を閉じた。



この手をずっと離さないから。

幸せになろうね。








*リクエストいただいた香菜のその後でした。

リクエスト、ありがとうございました。

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