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misunderstanding  作者: ryure
第六章 金色の双子と世界の失敗
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エピローグ2

 服を持って急いで部屋を出て行ったリュートを見送り、私も急いで使用人に髪を切ってもらう。

 事情はアースルヴァイツ家に仕えている時点で分かっているだろうからとにかく急いでもらった。それほどまでにルチェの語りっぷりは有名だ。大人になって自重したかと思えば急に悪化したからな。

 あの語りが薬で治るなら今すぐ大量に浴びせたい。殴って治るなら賢者様に控えてもらいながら思いっきりぶん殴って治したい。死んでも治らないなら潔く諦める。いっそのこと開き直ってやる。…………にしてもあいつは何であんなやつになったんだ……。

 まともな時は本当に頼れるやつなのに。ま、これはオランもリュートも同じか。私もそういうところがあるんだろうか。オランはマシだがリュートは平和主義過ぎてヘタレだ。


「如何でしょうか、お嬢様」

「……『お嬢様』はよせ。

……ん、ありがとう。リュートと区別はつくか?」

わたくしどもにはつきますが、一般的にはつかないのではないのでしょうか。ただ、ルーウェンス様には間違い無く分かりますが……」


 ルーウェンスの語り対策に姿を似せているが、まぁ近ければ近いほど語れることが減るだろうという苦肉の策だからな、無いよりはマシでいいんだ。

 髪を切ってさえいれば「リュートってやっぱり髪が長い方が似合う」というくだりがなくなる。それだけで三分以上は時間が短縮できる気がする。


「すまないな、では私は客人の元へ向かう。案内してくれないか?」

「承知いたしました、リュティオーネ様」


 追放前からの古株の使用人は丁寧に礼をとると歩き始めた。向かう場所は…………ん、客間でも会見室でもないのか?


・・・・

・・・

・・


 さっさとティオに追いやられた俺は、自室にて借りた服を広げてみた。


「…………似てる、じゃなくてまんま昔の服かよ……ルチェ、見た瞬間にまた悪化するんじゃないか?」


 見覚えがある騎士服だと思えば昔とまったく同じデザインで、サイズだけが違っているものだった。

 …………ルチェって羨ましいぐらい目が良いし、何か中途半端に記憶力が良いから十数年前の出来事よりも俺……もといリュディトゥの服を覚えていそうなんだけど。あり得るから怖い。覚えていたら悲惨だよなぁ、ルチェの娘が。まだ赤ん坊だが父親のこんな姿を見たらショックだと思う。願わくば記憶の彼方に飛ばして欲しいものだよ。


「……着るしかないの……か」


 ティオの服だから小さいかと思ったら何故かあつらえたように合っていてちょっと笑ってしまった。自分だけどさっさと着ろとばかりに追い出したティオだけど、わざわざ同じ服を作るように頼んでいたなんて姉さんらしい。身長こそ同じだがやっぱり性別上、ティオの方が小柄だしな。


「俺も帯剣しといた方が……いいかな」


 剣の訓練所ほどじゃないけど様々な剣が重なり、箱から溢れかえってぐちゃぐちゃになっている空間に手を突っ込んで、黒っぽいレイピアを引きずり出して帯剣する。

 ……ちょっと色が薄いからきっとルチェに目ざとく見つけられるか、ティオが誤魔化すかにかかってる気がしてきた…………あれ、何でこんなにルチェに警戒しているんだろう。一年も会ってないからルチェの面倒くささについて頭の中で誇大してるのかな…………。

 でもさっきから嫌な予感がする。そういえばオランに会ったとき、最初の方に「ルチェより先に会ってしまった」とか「職務だという言い訳が使える気がしない」とかぶつぶつ言っていた……なぁ。俺はその意味が分からないティオほど鈍感じゃないから、うん。怖いよ。

 でもそんなルチェは不思議なことに親馬鹿じゃないんだよなぁ…………娘にデレデレすると思ってたんだけどそうでもなかった。


「さてと……」


 準備は出来た。心の準備はちょっと足りない気がするけどそれはいいや。


「…………久しぶりだな、ルチェも、みんなも」


 ティオには内緒にしているけど、今日はミーミルファンにいた人や、その家族全員が集まることになっているんだ。会場はアースルヴァイツの大広間。賢者もアーフィルも来る。


 何でティオに内緒にしたかっていうと、ティオが昔のリュディトゥに近いから、かな。実は俺にも秘密にしていたらしいんだけど、うん。俺はティオほど鈍感じゃないってば。あんなにこそこそ何かやってたら気付くでしょ、普通は。

 みんなは俺には気付かれたからティオには絶対に気付かれないようにしたいらしく、余計に怪しくなっているんだけど。面白いから言わないでおくよ。




「……お坊ちゃま!」

「『お坊ちゃま』は止めてよ。

……で、何の用かな?」

「あ、はい!リュティオーネ様が大広間に向かわれましたので、リュディトゥ様もお急ぎ下さい!」


 俺が気付かなかったらなんとかして一緒に行かせたみたいだけど、うん。打ち合わせ通りに動いてティオと一緒に行かないとね。タイミングは大事だよね。


「そう、分かったよ」

「此方でございます」


 少し早足の使用人を追い掛けて行くと、廊下の端にティオの姿がちらりと見えた。…………女の子なんだからもうちょっと小さい歩幅のほうがいいんじゃないかな。そんなに堂々と歩かれたら……ルチェの「格好いいティオはやっぱりすごい」の話が長くなりそうなんだけど。


「ティオ、待って!」

「…………騒ぐな、子供かよ」


 呆れたように此方をみたティオはさっきと違って鏡を見ているようにそっくりだった。




「お、黒いレイピアとは考えるな」

「うん、流石に脳天気な俺もルチェ対策になら頭を使うよ」

「…………そんなに頭は悪くないだろうよ」


 きっぱりと否定してくれないのが少し悲しいけど、ふっとティオが笑った。うん、ちょっとまたルチェの気持ちが分かったよ。あと、やっぱりティオに結婚を申し込む人は蹴散らそうかな。俺だって……剣聖だし。戦いたくないけどティオのためならやれる気がする。


「……いけない、こんなところで油を売っていても仕方がないぞ。早くルシェヴァルツからの客人に会いに行かねば」

「そうだったね、急ごう」


 我ながら棒読みだけどティオに同意して少し二人で小走りした。みんな今か今かと待っているんだろうな。


・・・・

・・・

・・


 なかなか来ないリュートたちに少し恨みながらアースルヴァイツ家の大広間をじっくり眺めた。元王子の俺が言うのも何だが、ミーミルファンでの十年間の行動が頭にある俺には未だにリュートたちがアースルヴァイツ家という貴族であるという事実が受け止められない。それぐらい貴族やらの上流階級の人間の行動から逸脱していたからだ。


 垢抜けたリュートは公式の場以外ではルチェに似たふわふわとしたやわらかい喋り方をする。二十を超えた男どもがそんな話し方でいいのか。たまに見る、あの獰猛な笑いには寒気がするが。曰く、そういう笑い方をしているときはどうやってティオに付く虫どもを撃退するか考えているらしい。…………、リュートってそんな奴だったか?そんなに好戦的だっただろうか…………。

 反対にティオは固い男口調だ。花のように美しい容姿だと褒め称えられているアースルヴァイツ家の姫がそれでいいのか。ただティオの場合は昔のリュディトゥのことを思えば別に変ではない。とはいえ優しい話し方をしていたアヤカ殿を思い返すと「どうしてそうなるんだ」と言いたくなるんだが…………、どうやらシェーラ殿もウルガ殿もルチェもそのことについては何も思わないらしい。最初はリュートが諭そうとしていたみたいだが、あれだ。バッサリと「メリットがない」と言われていたな。だが俺は……綺麗なドレスを着て花を愛でて、赤ん坊を抱いた優しいティオを何時か見たいものだが…………。友として友人の将来が不安でならない。


「…………リュディトゥ様とリュティオーネ様がお越しになられました、皆様……」

「ありがとう。君はもういいよ。後は僕らで進めるから、…………シナリオを」

「畏まりました」


 一足先に扉から入ってきた使用人はルチェの言葉に深々と頭を下げた。





「……なんだ、これ」

「あはは、びっくりしてる。作戦成功だね…………みんな」


 リュートとティオが大広間に入ってきた瞬間にみんなの歓声と拍手が鳴り響く。目をパチクリさせて戸惑っているのがティオだろう。ティオの肩に手を置いて笑っているのはリュートだろうな。


「ティオには極秘でミーミルファン大集合のパーティーの開催だよっ!」


 眩いばかりに白い服を着たルチェが二人を迎えた。真っ白な服と銀の髪の中に浮かぶように光り輝く黒い目がにこりと笑った。


「あとね!お誕生日おめでとうっ!僕たちは君たちの誕生日を心から祝福するよっ!」


 びっくりしたように固まる双子にみんなは笑う。


「た、誕生日を忘れるなんて剣士殿も素晴らしいね!」

「しっかりしているようで鈍感なティオと分かっているつもりで鈍感なリュートだからな、誤魔化すのは簡単だった」


 リュートにパーティーを気付かせてしまったのは誤算だが、リュートたちの誕生日パーティーを誤魔化すのは至極簡単だった。鈍感な双子に祝福をする準備をするのはみんなでやれば楽しいものだったな。


「あ、あは……一本取られちゃった」

「…………よくも、まぁ」


 呆然としていたティオが嬉しそうに声をあげる。ふふ、と笑う女性はリュートにそっくりだったがアヤカ殿を思わせる。


「私たちの誕生日を覚えていて下さいましたね。ありがとう、ございます……。

そして……ここで生きていることを、感謝致します」


 嬉し泣きと、微笑みと。


 そんな二人にまた、大きな歓声があがった。

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