エピローグ1
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あれから…………、つまり俺たちが全てを終わらせてから幾年かが過ぎた。
「……、久しぶり」
このレッサヴィーラ王国は狂ったあの魔王のせいでめちゃくちゃになっていた。だから俺たちは責任を持ってオラニウス王…………オランを中心に動き回らなくちゃいけなかったんだ。半分は巻き込まれ、なし崩しにだけど。まぁ魔族になっても反発した貴族は殺されていたし、仕方がない。アースルヴァイツ家として。そして、アーフィルを操ったのは、魔王を狂わせたのは偽の「綾香」も無関係ではなかったから。
そのせいで俺「たち」もずっと一緒に行動する、なんて出来なくて。気付けば軽く一年は姉と会っていなかった。俺はオランの指令で国中を飛び回り、争いを沈め、時には土木作業までやった。長年の仲だからかは知らないけど酷くこき使われたな……。とはいえオラン自身も働いていたからいいけど。
思えばこの数年、本当にいろいろあった。ルチェはルシェヴァルツの次男だったから家を継ぐ必要が無くて、俺たちの中で一番最初に好きな人と結ばれたり。そう、同じく人間のままでミーミルファンにいた娘さん。
そして言わなずもがなオランは国を立て直すのに必死に動いていた。…………まぁ、不思議なことにアーフィルと、ね。賢者はたまにいる血気盛んな魔族を人間の身で叩きのめしている、らしい。最近見ていない。
ちなみに俺もティオもまだアースルヴァイツ家を継いでいない。まだまだ父さんが頑張っているし、見た目が変わっていない父さんたちは人間なのか疑う。若いまんまだよ、赤ん坊の時を覚えているティオ曰く、生まれた時よりも父さんは若々しくなって母さんは生き生きしてるらしい……よ。何なの、それ。
「うん……?あぁ、誰かと思えば。久しぶりだね」
「姉さんはますます綺麗になってるみたいで安心したよ…………話し方は変わらないね」
社交辞令のお世辞だとかはほっぽり出し、片割れに笑いかける。俺と同じ目線の高さで不機嫌そうなティオは懐かしい騎士服を着ていて、髪の毛を一つに纏めていた。ややつり上がった目と表情のせいか、髪の毛の色こそ違うけれど遥か昔のリュディトゥのようだった。腰には懐かしの黒のレイピアが収まっている。
「……リュートの代わりに剣聖としてむさ苦しくもなまっちろい野郎共を切り倒す日々を送り、お嫁に行き遅れた私に何か用か?愚弟め…………、なまっちろいくせにもう殆ど使えない痛々しい魔法を使おうとしやがって……室内でやるとか……消え去ればいいのに……」
「ますます口が悪いよ。あと、姉さんは良い人がわんさか貰ってくれるから大丈夫だよ、綺麗だし、強いし……」
「シスコン……なのか、リュートよ。あとな、顔が一緒だからそれは自画自賛と言うんだ、よくよく覚えとけ」
じとっと冷たい色をした眼差しをティオはふっと緩めた。そして冗談だよ、といわんばかりに肩を竦める。……気障だよね、うん。俺が真似したらオランに「何やってるんだ」って言われたのに……これが……格差、かなぁ。
「まぁ、これからはむさい奴らはリュートに任せれるし、私はリュートに化けてオランに指令でも貰うかな」
「そう言われると思ってさ、ばっさり髪を切ってから会見してきたからね。流石のオランも髪の毛の長さが違ったら見間違えないからね?」
俺の言葉を聞いて小さく舌打ちをするティオを眺めながら感慨深く思った。正常な形…………つまり、今の双子の姿は男女の性別の違いこそあるけれど、本当に俺とティオは本当にそっくりなんだ。身長までね。表情以外はあんまり区別がつかないと思うよ。だから、正装をしたときには何故か男装したティオと俺の区別を父さんとオランは出来なかったな。一年前。父さんは落ち込んでいたけど今はもう間違えないからいいと思うけどなぁ?
ん?ルチェ?あいつは、うん。鼻が聞くのか目がいいのかは知らないけど、あれだろう。普通の人と一緒にしてはいけない。にしても何であんなに執着されているのやら。ルチェが暑苦しい筋肉の持ち主でなくて感謝してるよ。力はそれなりに強いし、背も高いけど(分けてほしいな……)ルチェは弓使いの割に暑苦しい見た目ではないから。
まぁそれは置いとくとしてもルチェが俺らを間違えるわけないじゃないか。奥さんもルチェのことを理解してるし、昔の「リュディトゥ」を知ってる人だからティオを崇め讃えてて俺を気持ち悪く尊敬してるのにも寛大だし。いい人だよねぇ…………「俺」は何回かルチェと親友なのを後悔したし。ま、「リュディトゥ」やティオは無いみたいからいいけど。
「………………、だがリュート。私は国を見て回りたい」
「姉さんはまず良い人と結ばれようよ」
姉さんは、ティオには毎日大量の結婚の申し込みがある……らしい。最近は知らないな。だけど一年前には大量に来ていた。
アースルヴァイツ家には俺がいるから財産とかはあんまり狙えない。だから純粋に姉さんを好いている人か、王家の血が欲しいかに分かれるかな。だけど小さいころの爵位隠蔽のおかげで俺たちの王家の血のことはあんまり知られていないから……あんまりないと思うな。
だからよくよく見極めれば姉さんを愛してくれる良い人だっている筈。姉さんの人生を正しく理解してくれる人だってきっといるよ。だから早く幸せになって欲しい。…………ま、姉さんを愛してくれる人よりも、姉さんを大切にしてくれる人よりも大切なのは「姉さんが愛せる人」なんだけどさ。
「頭でも狂ったか、片割れ」
「いやいやいや。ティオの中の『俺』ならどう言うよ?」
「国中回って蛮族のように肉を食い散らかしたい願望があるが」
「…………、確かに貴族様なお綺麗な料理には飽き飽きしたけどさ」
その時、夕日の差しこむ俺達の共有の部屋に小さなノックが響いた。遠慮がちな小さな音…………、俺には聞き覚えがない。
「リュティオーネ様、ルシェヴァルツからお客様です」
「そう、今行く」
新顔の使用人、かなぁ。すぐさま返事をしたティオは俺の服装を頭のてっぺんからつま先まで見た。……身だしなみの、確認?さっきオランのところへ行ったから変な格好はしてない、と思うけど。
「…………、いいか、リュート」
「……なんだい?」
重々しくティオは俺に言い聞かせるように話し始めた。顔が、これ以上ないほど真面目だったから緊張する…………。
「ルシェヴァルツからの客人の場合、九割以上はルチェという人間がついてくる。ルチェは…………何でかしらないが『リュートを』尊敬し、敬愛し過ぎている。つまりリュートと私が別々の格好をしていたら別々に長々語られる、というわけだ。そこのクローゼットの中に私と同じ服があるから着替えてくれ、切実に。あとこれから髪型を変えるなよ?私と一緒にしとけよ?ルチェが…………面倒くさいからな。後で私も髪を切らねば…………」




