ゴー、ファイト!
ここで一つ弁解したいことがあるが、あたしは決して尻軽ライトでなければ逆ハーレムにも興味はない。
出会い頭に一発二発……何発かは思い出したくないが、とにかく、犬に噛まれたのだって完璧に不慮の事故だった。
ついでに言うなら若返りという名の身体的退行だって、間違いなく不慮の事故だ。
話が逸れた。
よく勘違った野郎共が「そんなこと言って、体は悦んでるぜでへへ」とかマジでお前は馬鹿野郎かと殴りたくなる台詞を吐いたりしてるが、あれは悦んでるのではなく、女という生き物の防衛本能だ。
まあ、そういった類いの本だのDVDだのってのはほとんどが男性向けのものであって、客層に合わせた中身になっているのだから仕方ないと言えば仕方ない。
だからこそ、鵜呑みにされると非常に困る。
それは困る──日常生活に支障を来たすし、少なくとも、男女間においては間違いなく多大な問題、しいては障害となると言っても過言じゃなかろう。
それは最近、巷で流行っているらしいラノベ然りである。
あたしは銀河系第三惑星地球のアジア圏にある日本という国に生まれ、中流階級のこれまた中の中、所謂本当にふっつ─────な家庭に生まれ育っているわけで、お国柄、民族柄、人生終始、一夫一妻が当然だと考えているし思っているし覆すつもりは毛頭皆無だ。
長々、ご静聴感謝する。
あ、拍手までどうも。
人生最大のホラーな衝撃発言から素早く態勢を立て直し、それはもう熱心に弁を奮った。
勢い余って立ち上がった拍子に蹴倒した椅子は、隣のBBがさり気なく直してくれていたので、一応、目配せで礼を述べてある。
追記になるが、あたしは決して、ヒーロー5から死人を出したいとかそういうわけじゃない。
ただ、ただひたすらに──壮大でホラーな下ネタ巻き込まれフラグを回避したいだけである!
あ、フラグも最近覚えました。
本当、上手いこと言うもんだよね。
「でもさヨリ、僕達、せっかく生き残ったのに」
きょとんとした顔でディルが不可解とばかりに首を傾げる。
生き残ったっつうか、イベントは思ったより盛りだくさんだったけど、まだ何も始まってないし成し遂げてもないんだけどね。
ああ、あたしが召喚された時点で、ある意味、ヒーロー4は成し遂げてはいるのか。
なるほどとばかりに四人を見渡し、ディルが持ってきてくれたお茶にようやく口をつける。
……まさかの緑茶とは。
「Oh, Maccya!」
とか言って、タンジーナバロウで流行っているんだろうか。
抹茶じゃないけど。
「そうだ。わたし達はそのためにいる。これが命を賭けて誰かを愛することなのだと思っている」
えらく神妙かつ真剣にエウが言う。
普通に考えれば美形に『命賭けて愛するぜ!』とか言われてるわけで、「……エウ……!」とか言っちゃって薔薇色に頬染める場面なのかもしらんが。
が、ある意味大幅に、どえらい方向で間違っている (しかしある意味合ってもいる)ので、口半開きで
「……あー……ねえ……」
と、何とも微妙な相槌を打つのが精々だった。
「お前、何が気に入らない?」
「お前こそ全く気に入ってねえじゃねえか」と突っ込みたくなる表情でそう続いたトリエーチ。
と、
「美形揃いのハーレムだよ」
にっこり笑うBB。
結局のところ── 聞 い て な か っ た と 。
あたしの熱弁をお前らガチでマジに聞いてなかったな!!!!!
びっくりだよ驚愕だよ脱帽だよショックで脱毛するかもよ!?
ああ、マジ頭抱える!
「オーマイガッ」
「オーマィチャ?」
「Oh, Maccya!」
「Oh, Maccya!」
「エクセレント!」
びっと親指を立てれば、ディルもまた、びっと親指を立ててバチンとウィンクをかます。
……違う。
「そんなことやってる場合でなくて」
「マッチャって何だ?」
「ちょっと黙ってトリエーチ」
「は!?おま……っ、……くそっ」
何でそんなシリアスに舌打ちしてんの?
それとも美形が顔を歪ませるだけて、シリアスに見えるの?
とにかく、抹茶だろうが脱毛だろうが、上っ滑りだだ滑りな会話してる場合じゃないのは確かで。
今度こそ流し流されでわけワカメになる前に、順序立てて話をしなければ!
ほら、何事も落とし込めば、解決策が見つかる可能性もあるわけだしね!
ちょっと落ち着いて話そう──落ち着いて──……
「……ヨリ……」
──甘い響きを伴った声が耳元を掠め、そこに疼くような温度を残す。
残したのはBBの唇に他ならず、いつの間にか彼の手は腰に回され、もう片方は無理矢理着込まされた細かな刺繍が施されたジャケットのボタンを外しに掛かっていた。
「って、ちょ……っ!!???」
──あれっ?
う、動かない!?
違う、何か体が痺れてる!?
と、す、と顎に当てられたのは知らない感触の指先。
ちょっと当てられただけのはずが全く動かすことさえ出来ずに、眼球だけでも何とか!と思えば、すいっとそのまま顔を向けられた──先には、何故かエウのドアップが。
いつの間に隣にいたんだ!
「大丈夫だ。せめて、痛くはせずに愛することを誓う」
── 何 の 話 だ !!!!!
どうせ誓うなら止めることを誓ってください!
続行当然みたいな流れはやめろ!
てかお前、痛くするの好きみたいに聞こえるけど!?
この場合、精神的『愛する』じゃなくて肉体的なそれの話だよね!?
と、全くあたしの意思は丸無視でしっかりと捕えられた唇は、容赦なくエウの舌によって翻弄される。
ちょ、やめ……って、お前上手いなやばいマジでヤメロ!
酸欠とテクニックで朦朧としている間にBBの指はジャケットのボタンを外し終わったらしく、アンダーの中にするすると怪しい動きで侵入し始めていた。
手馴れた動きでゆっくりと、撫でるようにピンポイントを掠めていくそれに、思わず体が弓なりになるけど、エウがそれを許さずにがっちりと頭を両手でロックする。
「……はっ、」
一瞬離された唇は酸素を求めて意味のなさない言葉を吐いた。
と、視界の端を掠めたトリエーチが、眉根を寄せたままに苦い顔をしていて……
「……ちっ、仕方ないな!」
小さく小さく吐き捨てた。
一瞬、助かったと思ったのも束の間。
「──!?」
足元に気配を感じてすぐ、腰のベルトに手が回される。
カチャカチャと鳴る音は、考えたくないけど、間違いなくベルトが外される音だ。
「私もせめて、気持ちよくしてやろう」
トリエーチ!?
何で急にやる気出したの!?
てか、やる気の出す方向がやっぱり違─────うっ!
そうしてどんどんと酸欠になる頭、ぼんやりしていく気持ち、相反するように熱を帯びていくのは体で──どうして、こんなことに?
どこもかしこも少しずつ力が抜けていく中、耳を掠めたのはディルの声だった。
「ね、よく効く痺れ薬でしょ?媚薬も少し混ぜてはあるけど、皆のテクニックならいらなかったかなあ……あ、僕は足の指を舐めてあげるね」
頬にチュ、と軽いリップ音を立てキスをしたディルは、きっと、それは眩しく笑ったことだろう。
……頭が、ぼんやりする……体が、疼く……ああ、もう、どうでもいいか……
四人一辺にとか始めてだけど……四人……一辺に……?
ぱちっと、途切れていた神経が繋がったような感覚だった。
一瞬にして正気に戻るって、こういうことなんだろう。
──四人一辺になんか無理だ!!!!!
「……めて……」
流されまくってたあたしが初めて言葉を発したからか、エウが少しだけ唇を離した。
「何、だあっ!?」
ガツッ!と骨のぶつかるような音がして、
「えっ?──ったあ!!!!!」
気を取られたBBが痛みに仰け反り、
「何……ぐふっ」
足元のトリエーチも前屈みに倒れ込んで、
「ちょ、ヨリ──ったああぁあ!」
バチーンッ!と小気味よい音と共に、ディルの悲鳴が響いた。
シ─────ン。
そして訪れた静寂の中、あたしは急いでトリエーチから剣を抜き取る。
「い、いい加減にしてよねっ!」
が、それでもちろんどうこうなど出来ないので、すぐさまそれを投げ捨ててから、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!と、四人の脳天に拳骨を食らわせ、そして、
──号泣した。
具体的に四人が何をされたのか。
真実は次回に持ち越し。