???
……………
…………。
………御水見深海。私の名前。
今は私が語る。
「御水見さんはどこに行きたいですか?」
「…………」
……………。
「……いや左門、こいつは喋らねえんだって」
「ああ……え、でも、じゃあどうすれば」
「さあな。せっかく今日は篠守のやつもいない休日だってんだから、御水見の気分を損ねてギスギスした空気にするのもなんだけどよ、喋らないならもう、意見は無いものとして考えるしかねえだろ」
「それもそうだ。既にこんな街中まで来てるんだし」
「いや国栖穴、お前は呼んでねえよ。なんで来たんだよ」
「え?いや、深海との相部屋があたしだから」
「お前御水見と相部屋だったのかよ!?その部屋を任されてる上官が可哀想だよ!」
「その言い方だと御水見さんに飛び火が行きません…?」
「否定はしねえ」
「あら否定せんのやな、いけず」
「仇名のように言うな。エセ京都人かよ」
「よし殺したる」
「おまっ…!」
今は、休日の昼間。
ここは、街中。長野市の、復興が進んでいる区域。
…………
……………………
あ……
水。
0.015625molくらいの水が、あそこの、屋根から地面に……
「しかしなあ、何が悔しくてこんな奴と出かけてんだか」
「言われてるぞ凍」
「え!?」
「いや騙されるな左門。国栖穴のことを言ってんだろうが」
「けけっ。あたしはお前の嫌そうな顔を見て満足だわ、熔巌くんよ」
「だったらもう帰れ。篠守とでも寝てろ」
「いや、あたしはこれから凍と寝ようかなって」
「ええ!?」
「いや、だから騙されるなよ左門。こんな奴の言うことに」
「いやいや、あたしは本気だぞ?今バッグの中にピルが入ってる」
「『ピル』って、どうせ錠剤全般のことだろ。お前が高血圧か何かの血液疾患系の治療薬を飲んでるって話は聞いてんだよ」
「かっかっか、バレたか」
「趣味の悪い人ですね……」
「髭根にまで誹られてちゃ、いよいよだぜ」
………百万個くらい、飛んだ。
揮発、だ。
久凪は、今はいない。
今頃は、部屋で、梨乃に拘束されている。
……叫んでた。
「買い物だろ、とりあえず」
「んで、ゲームセンターか」
「ゲーセン?こういう時に行く場所かよそれ?」
「カラオケとかでも良いんじゃないですかね」
「…………」
「いやあ、仲が良い奴同士で出かけるならまだしも、この面子でだと、そもそもどこに行こうが楽しめないんじゃないかねぇ…?」
「仲が悪い奴がこの中の誰と誰なのか、はっきり言ってみろよ」
「あたしとお前だよ」
「じゃあ帰れば良いだろ!」
「替えれば良い?あたしとお前の部屋をか?」
「ちげえよなんでだよ!」
「……………」
そ……、話し合った、結果。
今、ショッピングモールにいる。
買い物してる。
あ…………水だ。
あの辺りだけ、空中の水の動きが遅い……
あの野菜は……出したて?
安い……
買う……
「よし、こんなところだろ」
「全員、買ったな?」
「買いました」
「買うた」
「もう十分ですね」
「………」
六人全員、確認した。
………ん。
久凪……久凪の話では……
この人、まだ出てなかった。
「で……『闇鍋』言うても、未成年もおるし、流石に酒はあかんなぁ。酒は買うてへんやろな?」
「誰も買ってない筈……国栖穴さえ買ってなければな」
「あん?買わねえよあたしは。なんなら見るか?」
「見たら闇鍋の意味が無くなるだろ」
一人、初登場が混ざってる。
……闇鍋。
結局、闇鍋をすることになった。
まいの家で、六人で。
「この辺りは、壊れている建物が少ないですね」
「そうですね、私の家もそのまま残ってくれて」
まいの家に着いた。
……みんな、息の、水の量が少ない。
八束が特別少ないだけだと、思っていたのに。
これが普通……?
「はいどうぞどうぞ、中に」
「お邪魔しまーす」
「いやぁごめんなぁ……あー、えろう保温性の高いお家に住んではるんやな、髭根」
「換気したいならそう言え」
全員、まいの家の玄関で靴を脱ぐ。
……広い家。
良い家。
水は、無いけど。
「じゃあもう、いきなり始めちゃおうぜ。一旦冷蔵庫に入れておく訳にもいかねえ」
「まあ、材料がバレちゃうしな。テーブルとかあるか?」
「確か、ここに折りたたみ式の……ありますね、ありました」
広い部屋の真ん中。
円形のテーブル、の上のカセットコンロ、の上に鍋が置かれて、その周りに六人が座る。
八束と、私と、熔巌と、凍と、まいと、嫋木が。
嫋木。巻藁嫋木。
巻藁嫋木は、久凪はまだ紹介していなかったけれど、ずっと前からいた私達の仲間。
「よし、もう外は暗くなってるし、電気消そう」
「始めましょ始めましょ」
「いやぁ楽しみやわぁ」
「うわ、暗……危なくないですか?これ」
「手探りで鍋に入れるんだよ。よし、入れろ入れろ」
「……けへへ」
「国栖穴さんの笑い声は、凶兆ですよね……」
「本当に、やばいものだけは入れるなよ?変なクスリとか」
「わーってるわーってる」
「…………?」
「な、なんや、異臭が漂うてきたけども……」
「待ってください、なんかにおいが変ですよ!?」
「わ、私じゃありませんよ!?」
「え、これ化学反応とか起こしてないか?」
「おいやめろよ!?変な物質入れんなよ!?」
あ…………これ。
間違いなく、化学変化を起こしている。
水が、万能すぎたからか……
電解質…?イオンの、反応……
……ああ、よかった。
これなら水に、溶けやすい。
水に溶けやすい。
良いことだ。
「待て、臭いぞ?劇物じゃねこれ?」
「ねえ何入れたんですかこれ!誰ですか変な物入れたの!」
「ワキガみたいなにおいする!ワキガみたいな!」
「あんまり言うなそういうこと!」
「うぅ!?何やねんこのアンモニア臭みたいなん!?」
「これ、トリメチルアミンとか発生してません?」
「知らねえよ何だよその物質は!」
「良いことだね」
「御水見さんが喋った!?」
「どさくさに紛れて普通に喋ってんじゃねえよ!」
「良いことじゃねえだろ!さてはお前が犯人だな!?」
「蓋せな蓋せな!」
「蓋した!着火して!早く!殺菌消毒しないと!」
「いや、多分この劇物の中じゃ、雑菌は繁殖できねえ……」
「国栖穴!やたらと冷静なのは結構だけどよ!」
「においを飛ばしましょう!加熱すれば飛びます!」
「いや、それは下手したら、においがこの部屋全体に……」
「換気扇回します!あれ、換気扇どこだっけ?」
「換気扇そっち!」
「え?どっちですか?」
「いや、まず電気点けい電気!」
「電気……スイッチどこだっけ……」
「ちょっとぉ!?自分の家やろ!?」
………しばらくして、部屋が明るくなった。
それから、換気扇が起動した。
「はわぁ…!何このにおい、もう最悪ぅ…!」
「この程度でヘタレるな、これから食べるんだから」
「これ、火力最大でいきます?」
「じゃあ最大で……」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
…………。
水が……ああ、蒸発している。
熱は、動き。
動きは、圧力。
だから、混ざらない。
動いているのに、あまり混ざらない。
本来起こるべきエントロピー増大が、起こりにくい。
鍋蓋の隙間から出る湯気が、それを物語っている。
出る釘は打たれ、出過ぎる釘は抜かれる。
……人間と、同じ?同じ……
同じかも。
やっぱり、水だ。
やっぱり水だ。ふふん。
「……出来た」
「出来たけども」
「蓋、えと……開けるか?」
「ちょっとだけ開けてみますか……」
「……うっ」
「うーわ……」
「なあ。何やこのにおい」
「いやぁ……」
加熱した結果、においが変わった。
「大丈夫ですよね?このガラスのお皿、溶けたりしませんよね?」
「フルオロアンチモン酸かよ。じゃあどうして鍋は溶けねえんだよ」
「テフロン加工の鍋なので」
「まい、さてはお前も理系だな?」
「冗談言っててもいーんだけどよ……なんならずっと冗談言ってるだけで終わってもいーんだけどよ……」
「……まあ、えと、作ったからには……食べます…?」
「そりゃあ、食べるまでが闇鍋だからな」
「遠足かよ。この場合は恐らく、今から全員で三途の川に遠足に行くことになりそうだが」
「…………川?」
「いや『川』に反応するな御水見」
三途の川。
三途の川かあ。
安心。
「でも食べてみいひんとわからんもんやろ」
「当たり前のように器によそい始めてるな……」
「なんや馬垣、怖いんか?」
「はぁ!?んなこと言ってねえだろ!俺は救急車を呼ぶのが面倒なだけだよ!」
「まあ、あたしも救急車を呼ぶのは嫌だな。お前らの応急処置とかしたくねえし」
「なんや国栖穴、怖いんか?」
「はぁ!?んなこと言ってねえだろ!あたしはいつ死んでも構わねえよ!」
「!?」
「!?」
「覚悟が決まりすぎですね……」
全員の器に、闇鍋の中身が盛り付けられた。
……これは。
この色、このにおい。
水が、あるからか……
罪な物質だ。
うふ。
「もう何なのかわからへんわこれ……変に黒いし」
「この黒色は、イカスミ…?」
「じゃあ、これ、全員同時に食べるぞ?」
「ちゃんと合わせてくださいね?」
「やめろよ?一人だけ食べないとか無しにしろよ?」
「うあぁぁ……怖い……待って……」
「巻藁、口調が乱れてるぞ」
「うあぁぁ……こんなえらいもん……堪忍して……」
「じゃあ、カウントダウンする?10から」
「いや、5からが良いな」
「に、20から……」
「5からが良いですね」
「5からにしようぜ」
「わかった、5からね」
「えぇ…?」
嫋木が泣きそう。
……ん、ああ。
泣きそう、か。
そうだった。今日はこの後、あの子に会いに行くんだった。
澪、元気にしてるかな……
「よーし行くぞ!?行くぞ!?」
「っしゃあ来い!」
「あたしがカウントダウンするからな!」
「はあぁ、なんか嫌な予感がしてきたわ…!」
「5!4!3!」
「ふー!ふぅ!」
「よっしゃ行くぞ…行くぞぉ…」
「2!1!」
「……」
…………!
「0って言ったら食べろよ!?」
「!?」
「っ!?」
「あがっ!?」
「ぶっ!ぶはっ…うっ」
「ぐ…ぼぇ…っ」
八束……
絶対に、許さない……
「だはははは!引っかか……え?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「い、意識を失っている……」
その後、まいの家に救急車が来た。
五人が気絶した状態だった。
五人全員の嘔吐物から、劇物が検出された。




