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眠れる勇者99九回目で  作者: ネム・サブロウ


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三部4話目千回目の世界で、初めて仲間になった

ウメは作業台の上に置かれた割れた水晶を、まるで生き物を見るかのようにじっと見つめていた。

細かく砕けた断面が、淡く光を反射している。


ウメ「これは……呪いを超越しとる」


低く、噛みしめるような声だった。


ウメ「原因はワシにもわからん。だがこれだけは言える……抗えない、ということじゃ」


三郎の背筋に、ひやりとしたものが走る。

その言葉が指しているものを、三郎は理解していた。


(――ループだ)


三郎「(今わかっているのは、魔王と、あの謎の人物が怪しい……)ウメさん、ありがとうございます」


深く頭を下げる。

ウメは一度だけ頷いた。


ウメ「あんた、一度国王のところへ行ってみなさい。彼の“勘”は世界一じゃ」


三郎「わかりました」


三郎は踵を返し、城へ向かおうとした。その背中に、ウメの声が飛ぶ。


ウメ「風月! あんたも行っておいで!」


風月「えっ、私も?」


ウメ「ちょうどこの子を連れて行こうと思っとったんだ。案内してやりな」


三郎「あ、は、はい、わかりました」


さらに。


ウメ「ルミナ! あんたも行きな!」


ルミナ「はいはい……ほんとに人使いが荒い人だね」


軽く肩をすくめながら、三人は並んで城へ向かった。



その頃、祐希たちは城下で立ち止まっていた。


シュン「……お二方、知り合いなんですか?」


穏やかな声で、シュンが尋ねる。


女「いえ……わかりません。気づいたら、ここにいて」


男「僕も同じです」


シュンは眉をひそめた。


シュン「とりあえず……お二人のお名前を聞いてもいいですか?」


男「都南健太です」


女「南雲環奈です」


その瞬間、祐希の胸に小さな違和感が落ちる。


(……日本語名)


だがシュンの反応を見る限り、彼は気にしていない。


祐希「(シュンさんは、どこか遠い国の名前だと思っている……)」


シュン「では、国王様のところへ行ってみましょう」


環奈・健太「はい」


四人は城門へ向かった。



門の前。


ルミナ「シュン! どうしてここに?」


ルミナが駆け寄る。

その瞬間、男衆の視線が自然と一点に集まった。

――シュンを除いて。


シュン「久しぶりだね。迷ったらしい二人を連れてきたんだ。君は?」


ルミナ「三郎さんのことで、ちょっとね」


その名を聞いた瞬間、シュンの顔色が一瞬だけ変わる。

それに気づいたのは、三郎だけだった。


こうして、現実世界から来た六人が揃った。

シュンとルミナを含め、八人は城へ入っていく。



風月「うわぁ……階段だぁ」


環奈「階段、ほんと嫌いなんだよね」


目の前には、延々と続く百段の階段。

八人は覚悟を決めて登り始めた。


十段目。


風月「はぁ……はぁ……きついよぉ」


環奈「もう息が……」


三郎は黙々と足を運ぶ。


健太「きつ……下で待ってても……」


祐希「……キッツ」


五十段目。


シュン「まだ金融屋を続けてるの?」


ルミナ「うん。文句言ってくる人はいるけど、全部追っ払ってるみたい」


三郎「……はぁ……」


祐希たちは手すりにしがみつきながら登っていた。


九十段目。


ルミナ「シュン、後ろ見て」


振り返ると、三郎たちは完全に力尽きていた。


風月「む、無理……」


環奈「足……なくなりそう……」


三郎「何回やっても……慣れないな……」


祐希「あ”ぁ……」


健太「無理無理無理無理……」


シュンはため息をつくと、何も言わず一人ずつ担ぎ上げた。



王室前。


シュン「ルミナ、ノックを」


ルミナが扉を叩く。


コンコン。


国王「入れ」


シュン「失礼します」


ルミナが扉を開ける。


国王「ルミナ、久しいな」


ルミナ「お久しぶりです、国王様」


国王「……シュン、どうした?」


シュン「階段でへばったみたいで」


国王「そ、そうか……下ろしてあげなさい」


五人が床に下ろされる。


国王スミロの空気が、わずかに重くなる。


国王「三郎、風月、環奈、健太、祐希……そしてシュン君。君たちには、勇者パーティを組んでもらいたい」


シュンが一歩前に出る。


シュン「国王様。その件ですが……僕はパーティには入りません」


一瞬の沈黙。


シュン「ですが、祐希の指導者として協力はします」


国王は数秒考え、頷いた。


国王「わかった」


シュン「ありがとうございます」


シュンとルミナは王室を後にした。



国王「では、役職を言い渡そう」


健太「役職かぁ……」


三郎と祐希以外の三人が、期待に目を輝かせる。


国王「三郎、勇者。祐希、戦士。風月、シスター。健太、弓使い。環奈、魔法使い」


三人は悔しそうに歯を食いしばった。



帰り道。


気まずい沈黙の中、三郎が口を開く。


三郎「……寝たら、ここに来た感じ?」


全員が頷く。


三郎「信じてもらえないかもだけど……俺、ここに来るの千回目なんだ」


一瞬、風が止んだような沈黙が落ちた。

誰も三郎を否定しない。

疑いもしない。

ただ、それをどう受け止めればいいのか、わからなかった。


健太が視線を泳がせ、空気を切り替えるように口を開いた。


健太「あ、あのさ……みんなどこ出身なの?」


健太は少し照れたように後頭部をかきながら続ける。


健太「僕、東京。渋谷なんだよね」


風月「えっ、東京!? 都会じゃん!」


思わず一歩前に出る。


風月「私は島根だよ。浜田市」


環奈「島根って、出雲大社とかあるところでしょ?」


風月「そうそう! でも私のとこは浜田。神楽とかいっぱいあってね」


環奈は少し考えてから微笑んだ。


環奈「私は広島。呉出身」


三郎「俺は埼玉。川越」


祐希「……北海道、札幌」


一瞬、全員の視線が祐希に集まる。


風月「え、寒そう……」


祐希「実際寒い」


その短い一言に、ふっと笑いが漏れた。


三郎「島根って、正直……何がある?」


風月は一瞬ムッとしたが、すぐに身を乗り出す。


風月「それがね! 浜田市は世界で初めて缶コーヒーが作られた場所なんだよ!」


健太「マジで?」


風月「あと、高津川って日本一きれいな川に選ばれたこともあるし!」


祐希「砂漠あるとこ?」


風月「それは鳥取!!」


即答だった。


環奈が思わず吹き出す。


環奈「……ふふ」


風月「ちょ、なに笑ってんのよ!」


環奈は少し戸惑いながら、でも正直に言った。


環奈「なんかさ……さっきまで、すごく気まずかったのに」


足元を見つめる。


環奈「急に、仲良くなれた気がして」


健太「俺、昔さ……貧乏で、いじめられてた」


三郎「俺も。片親ってだけでさ」


風月「私も、クラスに馴染めなかった」


祐希「……不登校だった」


誰も驚かない。

誰も同情しない。

ただ、黙って聞いていた。


風月「……でもさ」


顔を上げて笑う。


風月「今は、ここにいる」


その言葉に、全員が小さく頷いた。


五人の間にあった“よそよそしさ”は、もうなかった。


誰も笑わなかった。


健太「……どこ出身?」


少しずつ、会話が増えていく。


笑いが生まれ、沈黙が溶ける。


環奈「……嬉しい」


その言葉に、誰も否定しなかった。


五人の距離は、確かに縮まっていた


歩きながら、三郎は胸の奥に残る違和感を噛みしめていた。

仲間ができたはずなのに、どこか置いていかれる感覚。

(……また、守れなかったらどうする)

それでも、今度こそはと拳を握る。


祐希は無言のまま空を見上げていた。

人と並んで歩くのは久しぶりだったが、不思議と苦しくない。

(ここなら、逃げなくていいかもしれない)

そんな考えが、ほんの一瞬よぎる。


風月は足取りを軽くしながら思う。

役職は悔しかったが、それ以上に皆と笑えたことが嬉しかった。

(このパーティ、悪くない)

自然と、前を向けていた。


健太は会話の余韻に照れ笑いを浮かべる。

昔の話をしても、誰も笑わなかった。

(ここでは、普通でいられる)

その事実が、胸を温かくした。


環奈は最後に振り返り、静かに思った。

不安は消えていない。

けれど――独りじゃない。

その感覚だけで、ここへ来た意味はあった。

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