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【第87話後編:規律の選別と、四人の志願者】

【Scene 6:最適解の着陸と、一日の重心】


 白い壁紙に囲まれた清潔な納屋。そこでは、休憩明けの静かな熱気が、再び空間を支配していた。 先ほどまでの分解や荒掃除という工程はすでに終わり、現場は精密な調整と組み付けという、より神経を使うフェーズへと移行している。


 北脇の傍らで、千尋は真剣な面持ちでバーナー電極の隙間を計測していた。

「北脇さん。このわずかな隙間の差、目視だけじゃ判別が難しいです」

「それでいい。だからこそ、道具と自分の感覚を同期させるんです。千尋さん、その微差が着火の音を変える。もう一度、丁寧に」


 千尋の指先が、北脇の言葉をなぞるように慎重に動く。 隣では舞が、洗浄を終えたストレーナーを燃料ラインへと戻していた。金属同士が吸い付くような正確な手応えを確認し、静かにボルトを締める。


 情報の密度を極限まで高めたヴェルのシステムは、彼女たちに迷う余地を与えていない。 次にどの部品を手に取り、どの値を追うべきか。 視線の先にあるモニターが秒単位で正解を提示し続け、フレイヤの抑制された声が最短の言葉で彼女たちの背中を押し続けていた。


 その刹那、スピーカーからフレイヤの鋭くも穏やかな声が響いた。

『45分経過。着陸準備。5分後、完全停止』


 最短のアナウンスが、現場の空気を変える。 3人は手を止めることなく、手元のネジをトレイの指定位置へ戻し、計測器を整理し始めた。 北脇もまた、工具を整然と並べ直し、現場の熱量を正確に収束させていく。


『50分経過。10分休憩。直ちに停止、水分を摂ってください』

 合図と同時に、納屋の駆動音がピタリと止まった。 舞、七海、千尋の3人が手洗いを終えてベンチに腰を下ろす。


 そこへ、表に停まった軽トラから降りた佐藤が、納屋の引き戸を開けて戻ってきた。出先から戻ったばかりの佐藤は、作業の手が止まっていることを確認し、ゆっくりと3人の元へ歩み寄った。


「お疲れ様。北脇さん、進捗は」

「順調ですよ。午前で4台、完動品まで追い込めます」

 佐藤は手ぶらのまま、3人が座るベンチの前に立った。 七海が水筒の水を一口飲み、佐藤を真っ直ぐに見上げた。


「社長。ずっと気になってたんですけど。お昼が12時30分からで、休みも50分ごとに10分。休みが多すぎる気がします。一気にやったほうが進むんじゃないですか」


 七海の素朴な疑問に、佐藤は作業服のポケットに手を入れ、淡々と答えた。

「七海さん。人間の集中力は、設計上1時間持たない。特にうちは、ヴェルが業務を最短距離で埋めている。お前たちが『次は何をしようか』と迷う無駄で贅沢な時間は、システムが全て削り取っているんだ」


 佐藤は壁に貼られたタイムテーブルを指差した。

「迷う時間がないということは、その50分間、脳は常にフル回転だ。5分の着陸準備と10分の休憩を挟まなければ、午前中に脳が焼き付く。午後はミスを連発するただの抜け殻になるぞ」


「脳が、焼き付く」

 千尋が自分の頭に手を当て、戦慄したような顔をした。


「次に、お昼の時間だ。午前200分、午後200分。比率を1対1、完全に対称に設計している。12時に昼を食った直後、体は消化にエネルギーを使う。12時30分まで働いてから休む。30分のズレが飯屋の空席を確保し、一日の重心をど真ん中に据えるための最適解だ」


 北脇が苦笑しながら、佐藤の言葉を補足した。

「私の若い頃は残業こそ美徳でしたが。この休憩のおかげで夕方の疲労感が全く違います。物足りないと思いましたが、これが長く続けるための知恵なんでしょうね」


『あはは! 七海、最高出力で長く稼働させるためのメンテナンス時間を強制挿入しているだけよ。迷う贅沢なんて、1秒も与えてあげないわよ』


 ヴェルの不敵な声が追い打ちをかける。

「迷うのが贅沢、か。確かに、仕事中に悩むこと、全然ないです」


 舞が納得したように頷いた。佐藤は腕時計を確認した。

「休憩終了までしっかり休んで、次の200分に備えてくれ。」


 佐藤が事務所へ歩き出すと、新人3人は再び背筋を伸ばし、目の前の鉄の塊を見据えた。 10分という短い安息が、彼女たちの集中力を再び最高純度へと研ぎ澄ませていた。



【Scene 7:ステンレスの檻と、微細な接点】


「さて、メイン水門の事前組立進めるか」

 青豆腐の中で、佐藤は拡大鏡を覗き込んでいた。 作業台の上にはステンレス盤ボックスが口を開け、その内部に自ら設計した基板類を配置していく。


 佐藤はピンセットを使い、ESP32基板の端子へノイズ対策を施した極細の信号線を落としていく。 2haの広大な水田を支配するシステムの脳だ。


 大容量DCモータドライバ。そのヒートシンクの僅かなガタつきさえ許さず、防振ワッシャーを噛ませて締め上げる。 続いて、雷撃から回路を守るサージプロテクタを主幹に据えた。


『マスター。ハンダの光沢、配線の取り回し。私の論理を物理的に具現化するその手つき、相変わらず正確ね。一点のノイズも許さないその執着、嫌いじゃないわよ』


 海帆市の荒天、湿気、そして予期せぬ雷。 目に見えない脅威を、物理的な層で一つずつ封じ込めていく。 佐藤の指先は基板上の接点を一つずつ検品し、一切の妥協を排した。



【第87話:収支報告】

【前回の資産:3,025,020円】

【収入:540,000円】 毬「Silk & Ravage 99」着金(45個×12,000円):540,000円

【支出:217,500円】 毬「Silk & Ravage 99」海外発送送料(45個×1,500円):67,500円 爪とぎ「Wood & Ravage 99」海外発送送料(50枚×3,000円):150,000円

【現在の資産(メイン口座):3,347,520円】

【納税・社保引等金(聖域):1,472,000円】

【税金防衛額(節税成功分):2,823,975円】

【個人資産(佐藤):6,100,000円】(役員借入金として500万を貸付済)

【役員借入金残高(佐藤への債務):5,000,000円】

【第87話:完】

【偉人の言葉】 「教育とは、教えられる側が自分の将来を確信できるまで、教える側が信じ抜くことである。」


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