エピローグ
「ちょっとフォルカス、ねえったら」
「なんだ」
「イザベラから手紙来た!!」
「……なんと書いてあった?」
旅の最中、馬車を走らせていると手紙を携えた鳥がやってきた。
その手紙には綺麗な文字が書いてある。
私はそれをゆっくりと読み上げた。
「アルマお姉様、フォルカスお義兄様、お元気ですか。わたくしは元気です……」
時候の挨拶や、今現在も機械都市で暮らしていること。
最近は魔道具を生産する中で、簡易的な結界の範囲を広げることができるようになったこと。
そんな日々が書いてあった。
「あの子がディルムッドと結婚するって決めたときには心配だったけどねえ……」
「まあアレでディルムッドは家族想いだ。一所に腰を落ち着けるのは性に合わないだろうが、それも限定的であると考えれば我慢もできる男だぞ?」
「まあねえ。でもアイツが子育てとか想像できた?」
「できない」
「でしょー!?」
「だがアイツは有名な冒険者だからな、金はあるだろう。シッターを雇えば済む話だ」
「……まーね」
イザベラにしろディルムッドにしろ、貴族として他者に傅かれて暮らす生活を知っている。
冒険者として生きる自由さを知ってしまった後では他人が家にいることや人に世話をされることに多少の窮屈さを覚えるかもしれないが、きっと上手くやれることだろう。
「それに義父上もイザベラについているだろう」
「あの人が一番心配だわ」
なんだかんだ実娘である私よりも最近ではイザベラの方が可愛いと思ってんじゃないのか?
いや、イザベラは可愛いけども。
というか、多分……うん、あれだよ。
初孫に今舞い上がってるんだよねえ、父さん。
多分、甥っ子が天寿を全うするまでずっと舞い上がっていると思うよ。あの人寿命長いもん。
「うん……? 二枚目がある。なになに、……うへえ」
「どうした」
「最近マリエッタ王女が……っと、もう降嫁したから辺境伯夫人か。彼女が最近また本を出したらしいよ」
「……聞きたくない」
「いやいや、聞いておきなよ。竜の王子の冒険譚だってさ!!」
面白半分に父さんが買ってきてイザベラが読んだらしいんだけど、めっちゃくちゃフォルカスがモデルだってよくわかる話になっているそうだ。
その話の中では竜の王子は血の繋がった妹と道ならぬ恋に落ちるそうだけど、涙を呑んで別れた挙げ句に竜になって飛び去ってしまうらしい。
ずっと見守っているって言い残して。
うーん、ロマンチック(?)。
「……相変わらずなようで何よりだねえ……」
「本当にやめてほしい」
フォルカスが馬車を操りながら大きなため息を吐いた。
それがおかしくて、私は思わず笑ってしまう。
笑ったところで便箋の一番下に書き殴るように記された文章を見て、今度は私が渋面を作らざるを得ない。
「どうした?」
「ディルムッドからお知らせ。〝氷炎〟の噂は聞くのに〝幻影〟が相変わらず顔が知られていないのでギルドから苦情が来ているので、本部に一度顔を出してデカい仕事受けろってさ」
「面倒だな」
「だよねー」
私は便箋を折りたたんで、馬車の後ろを見る。
実は今、追われているのだ。
「振り切れそうにないねえ」
「そうか」
馬車の荷台にはモンスターに襲われていた女性が二人。
見るからに高貴そうな女性と、そのおつきっぽかったけど……今は二人とも気を失っているから静かだ。
で、どうやらモンスターたちは獲物をかっ攫われたとお怒りのご様子で……振り切れば無用な殺生は避けられると思ったんだけどなあ。
「しょうがないねえ、美味しくないヤツを狩っても面白くもないんだけどなあ」
今追っかけてきている奴らは肉食なんだけど筋肉質で、焼いても煮ても柔らかくならないから皮くらいしか使いどころがないんだよね!
王国では徐々に聖属性を持つ子供が生まれなくなり、結界が維持できなくなった。
モンスターの出現率もあがったということだけど、人々が協力して撃退できている内は問題ないだろうと意識が変わっているようだ。
ライリー様率いるカルライラ辺境地を初めとして元々軍人気質だった貴族家が中心になって今は王家もそれに乗っかっているらしい。
王子たちがどうなったかは知らないけど、エドウィンくんはヴァネッサ様に婚約を迫られて泣きそうだってディルムッドから聞いている。
エドウィン、強く生きるんだよ!!
……まあ、だから何かっていうと、案外世界は上手く回っているってこと。
私のことを一方的に恨んでいる〝始まりの聖女〟とやらが今どこで何をしているか知らないけど、その活動とやらを耳にすることもなくなった。
いつかまた何かの形で遭遇するには違いないけど、その時はその時でいいかって気持ちに今はなっている。
「それじゃあとっとと焼き払っちゃいましょうかね!」
「アルマ、かなり今のは悪役っぽいから人前では気をつけろ」
「ん? そーねえ。でも早く妹のとこ行きたいから仕方ないよ」
フォルカスの呆れたような注意に、私は笑った。
そう思いながら私は荷台から後方に向けて魔法をぶっ放す。
「いいじゃない、私、悪役令嬢らしいからさ!!」
悪役令嬢を拾った女が、実は悪役令嬢だったという事実を拾ったお話……なんて後世で語られることなんてないでしょうけどね!
というわけで、これで完結です!
この後どうするんだよ???
とかそういう世界を救うお話ではないので、なんとなくのノリできっと彼女はこれからも生きていくことでしょう。冒険者ですからね!!!!




