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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第6章 スパイ大戦争

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大穴を掘るために生まれてきたマッスル部隊

 ヒカルたちが、大陸南部にある避難キャンプに合流できたのはその日も暮れてからだった。移動にそこまで時間がかかったわけではないが、夜更けから極度の緊張状態にあった兵士たちは疲れ果て、ヒカルもまた疲労の限界だったので休息が必要だった。

 この避難キャンプは、ルーデンドによる叛乱、モンスターの侵攻が予期できた時点でヒカルとドリアーチが話し合い、建設を進めたものだ。

 おおっぴらにやるとルーデンドやディーナにもバレる可能性が高かったので秘密裏に。

 だから、最低限の施設しか整っていない。


 一夜明けると、住民たちを集めて説明会が行われた。

 ルーデンドによる叛乱とこれの鎮圧。

 モンスターによる襲撃。

 少なくはない犠牲——特にドゥインクラーの死は驚きをもって迎えられた。

 ルーデンドたち叛乱兵は、船でヴィレオセアンを目指している。船上ではみんな一蓮托生なので、私刑(リンチ)や暴動も起こりにくいだろうという判断だ。

 これにはもちろん、避難キャンプの残留組から不満が噴出した——自分たちはモンスターの襲撃に怯えながらこの避難キャンプにいるのに、叛乱を起こした者が真っ先に逃げる権利があるのかと。

 避難キャンプを実質的に任されているジンは、この不満をなだめるので手一杯だった。


『なんで俺がこんな役回りなんだよぉぉぉぉ!』


 と泣いても、誰も慰めてはくれない。




 その間、ヒカルはジンの開いた説明会には参加していなかった。

 ラヴィア、ポーラ、コウとともに避難キャンプから十分離れた場所にやってきた。ポーラの親衛隊たちに話したら絶対についてきたがるので「隠密」でうまいことまいた(・・・)

 キャンプから南は、なにもないだだっ広い荒野が広がっている。

 もし仮にコウキマルが避難キャンプの存在を知り、モンスターをけしかけてくると困るので秘密裏に建設をしたのだが、あるいは存在を知ったとしても放置したかもしれない。


(ここじゃ、人間は生きていけないよな)


 土地の栄養はわからないが、陽射しが強く、とにかく水がない。雨も降らないのだろう雲ひとつない青空が広がっていた。

 小山の遮蔽物を見つけると、そこでヒカルたちは立ち止まった。


「さて、この辺りでいいんじゃないか? ここなら大きな音を出しても小山が遮ってくれる」


 ヒカルがここに来た目的はひとつ。


『んー、そだね。ここなら大丈夫だと思う』


 コウがひょろひょろと飛ぶと、地面に降り立った。クンクンとなにかのニオイを嗅いでいるがそういう生き物なのだろうか、龍は、とヒカルはどうでもいいことを疑問に思った。


「じゃあ、僕が撃つからもし足りなければラヴィアがお願い」

「ん」

「が、がんばってくださいっ、ヒカル様!」

「……すでにラヴィアががんばった後なんだけどね」


 ヒカルは「全能の筒(リヴォルヴァー)」を手にすると、目の前のだだっ広い土地に向けて構えた。

 弾丸は6発入っている。予備はあと3発しかない。

 実のところ、元々付属していた弾丸6発はいまだすべて使用(リチャージ)可能だったが、ケイティに造ってもらった弾丸のほとんどは数度の使用でダメになっていたのだ。

 この9発すべてに「業火の恩恵(フレイムゴスペル)」が込めてある。


「撃ちまーす」


 と間延びしたようにヒカルは言いつつ、引き金を引いた——一気に6回。

 視界がとてつもなく明るくなり、吐き出された巨大な火炎が我先にと地面へと飛びかかる。ヒカルたちの20メートルほど前方で、ドドドドォォォオオオンとすさまじい音を立てて火柱が上がる。


「あっつぅ! ちょっと離れよう!」


 火は、収まらない。ここにいても熱いのでヒカルたちはあわてて避難する。


「穴、開くかな?」


 ヒカルがやろうとしたことは、「大穴を空ける」ことだった。

 手っ取り早くラヴィアの火魔法でなんとかしてしまおうというわけである。

 本来はこういう作業は土魔法が向いているのだろうが、ラヴィアは火魔法特化だ。今彼女には残りポイントがないのと、もしあったとしても土魔法を取ったところで詠唱もなにもわからないのでどのみち使えないのだが。


「どうかしら……あれだと表面を焼くだけになってしまうかも。やっぱりわたし、他の魔法も使えるようになったほうがいい?」

「うーん……ポイントにあまりができたら取ってもいいと思うんだよね。ちょっと僕らは場当たり的にソウルボードを使いすぎかな」

「あ、あのっ、ヒカル様! 私はどうでしょうか! 私がラヴィアちゃんにできないところをフォローするとか!」

「あー、なるほど……その手もアリか。でもそうすると全体的に器用貧乏になるような……いや、それを上回るほどに『魂の位階』を上げればいいだけか」

「ヒカルはパーティーメンバーを増やすことは考えないの?」

「考えないことはないけど、信用できる人って意外といなくない?」

「……そっか、わかった」


 ラヴィアが小声で「ヒカルには今のところハーレム予定はなし」と言ったのだがヒカルにはコウが話しかけていたのでその言葉は聞こえていなかった。


『そろそろ火が消えるよ!』

「おっと、そうだった。見に行こうか」


 魔法を撃ち込んだ場所に戻ると、その周辺の大地は黒々としており、肌を焼かれるような熱気が立ちこめていた。

 魔法によって大地がえぐれたせいだろう、巨大なすり鉢状になっていた。だがその深さはせいぜい3メートルかそこらだ。

 黒々とした色の下にはてらてらとした表面が見える——どうやら高熱で、地面が溶けガラス状になっているようだ。


「あまり効率的じゃない、か」

「そうみたい。どうする?」

「うーん……」


 ヒカルが首をひねっていると、


「——女神様、女神様ー! ご無事ですかぁぁぁぁぁぁ!」


 遠くから走ってくる親衛隊の皆さんがいた。

 その顔があまりに必死過ぎて、「こわっ」とヒカルは思わずつぶやいてしまったほどである。

 彼らが到着すると、ポーラの無事をひとつひとつ確認するのに5分、行方不明の女神様を探していたところに異常爆発で肝を冷やしたという報告が5分、そして、「行動はすべて女神様の自由ですができうることなら行き先をお知らせいただければこれに勝る喜びはございません」といった内容を片言で伝えてきた涙目のガリクソンに、


「ご、ごめんなさい……ね?」


 とポーラ自身もおっかなびっくり答えるところまででおおよそ10分強掛かった。


『それで一体なにをなさっていたのですか』


 ラヴィアがこちらの言葉を話せることを知った彼らは、ラヴィアに通訳を頼むことにしたらしい。

「穴を掘ろうとしていた」ということを直球でヒカルが言うと、ガリクソンは大いにうなずいた。


「それなら! 我らにお任せ!」


 ドンッ、と拳で胸を叩く。他の親衛隊員たちは力こぶを作ったりしてマッスルアピールしてきた。


「くっ……うらやましくなんか、ないっ……」


 明らかに肉体的には負けているヒカルが、無駄に敗北感を覚えている。

 それから一度キャンプにもどり、ジンにも土木工具を借りるために話を通した。するとジンのほうは、


『はあ? なんのために穴なんて掘るんだ?』


 と当然の疑問を呈してきたがそれは無視し、


『うおぉいっ! ナチュラルに無視すんなよっ!』


「花仮面の女神親衛隊」改め「大穴を掘るために生まれてきたに違いないマッスル部隊」はすり鉢状になった地面を下っていくと薄い氷を割るようにガラスを砕いて穴を掘っていった。


「うわ、早い」

「最初からこうすればよかったね」

「……確かに。なんでもかんでも魔法や魔道具で解決できると考えてしまうのは僕の悪いクセかもしれない」

「土魔法があれば魔法でもできると思うよ? わたしが覚える?」

「ん〜〜、結局その話に戻っちゃうんだよな。ていうかなにげにラヴィアも使えるようになりたいの?」

「ふっふっふ。『いつから火魔法しか使えないと錯覚していた?』って言ってみたい!」

「……そうなんだ」


 どうやらこちらの世界の物語に出てくる賢者のセリフらしい。その物語を書き記した人物か、あるいは賢者本人(こっちの物語はたいていノンフィクションだ)は転生者に違いないとヒカルは思っているが、言わないでおいた。

 この日の残り時間を掛けて穴を掘り進めていった。

 途中で様子を見に来たジンが、


『なんだよ、井戸掘ってたのか。それならあっちにもあるのに』


 と言ったのだが、向こうの井戸を「実験」に使うわけにはいかない。成功すればいいが失敗したら残留組のみんなから大目玉を食らうだろう。




「ありがとう、皆さん。十分深いんじゃないかな」

「お役に立てたなら、よかった」


 ヒカルの感謝に、ガリクソンがいい笑顔で答えた。血まみれになって敵を斬りまくっていた男には見えない。

 そろそろ日が暮れようとしていた。なにもないだだっ広い荒野の夕焼けは果てしなく茜色に染まっている。

 信じられないくらい巨大な茜空を見たのはヒカルにとって初めてのことだった。


「……じゃ、ちょっと行ってくる。ふたりは待ってて」

「ん。早めに帰ってきてね」

「はいっ」


 ヒカルはコウを首に巻いてすり鉢状の穴を——だいぶ大きくなった穴を、らせん状に降りていく。狭いながら歩道まであるのだからありがたい。

 穴の深さは10メートル以上あった。底の広さは半径2メートルほど。ひんやりとしており土は少々湿っていた。


「……どうだ、コウ?」

『うーん……やっぱりだね。いいよ〜、ここは』


 ニカッ、とコウは歯を見せて笑った。龍の笑顔は獰猛にしか見えないのが残念なところではあったが。


『ヒカルが竜石をつぶしてくれたおかげでこっちは邪の影響が相当に低くなってる。うん、感じられるよ、地脈が』


 大地の下には、この惑星を巡る巨大な血管とでも言うべき、地脈が存在している。これには魔力の大元である魔素が溶け込んでおり「リンガの羽根ペン」などの魔道具はこの魔素を利用して遠隔通信ができる。

 ただこの大陸の入植者がつくった街、ランズハーヴェストの「リンガの羽根ペン」がうまく稼働していなかったように、この大陸は竜石——ルーツによって地脈が乱されている。

 この南側はルーツがないので、「地脈を感じられる」らしい。


「それじゃあ、いけそうってことか?」

『そのとおり。よーやくオイラが活躍するターンだね』


 ヒカルから降りたコウはトコトコと歩いて行き、壁をクンクンと嗅ぐ。その行為に意味があるのかどうかはやはりヒカルにはわからない。


『じゃ、ヒカル。いつやる?』

「明日以降だな。とりあえずジンたちにも説明しなきゃ……ま、信じてもらえるかはわからないけど」


 ふー、とヒカルはため息を吐いた。

 まったくもう、である。

 このことを知っていたなら、別の作戦を考えられたのに——と考えてしまうのは仕方ないだろう。


「……『龍の道』を開いて、ヴィレオセアンに直通のトンネルを造れるだなんてなぁ……」

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[一言] グランドリーム大陸の人たちの肌の色が紫色から浅黒い色に変わっています。
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