197話 ボスの意思
「少し、落ち着いて状況を観察するが良い……お主らハ自分ヲ知レ」
こんな状況で落ち着けるか!?
ワイトキングの言葉に俺達はそう思うが、確かにワイトキングの言う通りかも知れない。
敵にアドバイスされるのは尺だが実際に敵であるワイトキングは落ち着いており、的確に俺達の攻撃を防いでいる。
それが圧倒的な強者の余裕なのか、慢心なのかは分からない。
ワイトキングは眼孔を赤く光らせ細長い人差し指を立てて来い来いとでも言う様に俺達を挑発している。
火属性のエンチャントはスケルトンに相性は良い。
だが、ゾンビの様に炎上ダメージは狙えない。
取り敢えず俺の目的はワイトキングだったが、スケルトン達を倒しても復活されるのでは意味が無い。
しっかりと火葬と浄化をしてやらないとな!
「アクア!属性付与!」
「ギュイイ!」
俺が後ろで空中から全体の状況を確認して、俺にスケルトン部隊の脆い部分を教えてくれていたアクアに合図を飛ばしてエンチャントを指示する。
そして、俺も火属性のエンチャントを同時発動し、前衛職全員に光り輝くエネルギーが纏わりつく。
(アクア!俺の所へ下降しろ!)
ワイトキングはそれを止める事は無くカッカッカッと笑いながら黒い塊を撃ち出す速度を上げて重光を押して行く。
重光が並列詠唱でマルチフレイジングランスを間髪無く撃ち込んで黒い塊を掻き消して行くが、圧倒的に詠唱速度はワイトキングの方が上手であり、重光は苦しそうだ。
しかし、俺は見逃さない。
ワイトキングの赤い目が俺をしっかりと捉えている事に。
罠だ。
だが、逆に言えば亜蓮や添島、山西には注意が少し逸れたと言える。
聖属性を纏っている現在であれば、亜蓮の攻撃でも十分にダメージを与えられそうだ。
だが、亜蓮の得意の投擲では精々スケルトンを倒す位だろうな。
ワイトキング相手に投擲の威力でダメージが通るとは思えない。
増してや、今のワイトキングは属性耐性の魔法で耐性値が上昇している。
しかし、ワイトキングの腕のリーチや魔法発動範囲からしても近づくのは危険だ。
ワイトキングの体躯は空中に浮いている為に正確な身長は分からないが身長四メートル弱位だ。
そして、アクアが下降して来て俺の周囲のスケルトン達を長い尻尾振り払って一掃する。
ん?今更だが、アクアの攻撃範囲の方が俺達より大分広いな。
俺はアクアが下降して来た時にスケルトンを一撃で一掃した事により、アクアの戦闘能力の評価を改める。
俺の中の方針だとアクアは後方支援の位置付けだ。
だが、スケルトン相手ならば余裕そうだな……。
それは良い。
俺はそう考えながらアクアの身体に触れる。
「連鎖属性付与 聖」
「カッカッカッ!来たか。闇霧」
俺がチェインエンチャントを発動させた瞬間周囲が眩い光に覆わーー
れる筈だった。
しかし、俺の周囲は暗い闇に覆われている。
音は何も聞こえない。
だが、間違いなく俺はチェインエンチャントを放った筈だ。
その証拠にアクアと俺のマナは減少している。
「っ!」
暗闇からスケルトンの攻撃が俺を襲い俺は抜き刃でスケルトンを砕く。
この技は先程重光達を覆った技か……。
しかし、さっきよりも明らかに闇は深い。
先程ワイトキングが、発動させる魔法を一つに絞ったのはそう言う事か……?
闇は深く、どこまで続いているのかも分からない。
「アクア。もう一回頼めるか?」
「ギュイイ!」
俺はアクアに触れて聖属性のインプレスエンチャントを発動させた。
「カッカッカッ。思ったよりも早く抜けおったわい。一つお主らが疑問に思っている事ヲ教えてやろう」
ワイトキングが放った闇霧は俺がインプレスエンチャントを放った部分だけぽっかりと穴が開いており、スケルトン部隊がいる場所全体を包んでいる事が判明した。
そして、闇霧は属性ダメージを軽減することも。
ワイトキングはそう言いながら空中に飛び上がる。
不味いな。
あそこまで高く飛ばれると、俺達前衛職がワイトキングを攻撃する事は難しくなる。
「ワシが敵でありながら何故お主らヲ鍛えるカ……それは、ワシらは迷宮のボスであってボスでは無いからじゃ」
ワイトキングは嗄れた声を更に低くさせて、空中から全範囲に黒い塊の弾幕を張る。
俺はその言葉が気になったが、より一層強くなった弾幕にワイトキングの言葉を聞き入れる世余裕なんて物は存在しなかった。
先程までスケルトンを相手取りながら、ワイトキングに有効打を与える出方を伺っていた亜蓮も今は闇霧の中におり、状況が分からない。
ワイトキングは、言葉を紡ぎながら重光や山西がいる方向へと急降下する。
不味い!ワイトキングに近づかれては後衛職に勝つ術は皆無に等しいぞ?
だが、スケルトンが邪魔で俺達前衛は後ろへと下がれない。
ワイトキングはスケルトン部隊を突破させて、俺達を奥に誘導した。
しかし、それが後衛職との距離を離す原因となった。
策士だ。
「カッカッカッ。ワシらボスは、迷宮二使役されるだけのボスでは無い。ワシらは個人の意思で行動してるに等しい」
ワイトキングはそう言って左手に紫色の魔法陣を浮かべて左手を振り被った。
「分子超越」
ワイトキングの正面に黒い壁を山西が形成するが、ワイトキングの胸元から出てきた黒い槍が壁を貫いて山西を後ろに吹き飛ばす。
黒い壁がぶつかり、爆発して様子が見えなくなる。
不味い!後衛職がやられる!?
――そこで俺はワイトキングの設置型魔法の件を思い出し、出来るかどうかも分からない咄嗟の賭けに出る事にした。




