196話 不死者を束ねる者
「散開!」
両手に魔力を纏ったワイトキングを見た俺は、仲間達に散開を指示する。
大量のスケルトン達が屯ろしている現在ワイトキング一体に標的を絞るのは困難だ。
一つに固まっていると、あっという間に相手のペースだ。
「内部圧縮属性付与」
「魔導射出機構」
「気爆破」
俺は咄嗟にインプレスエンチャントを発動させて、正面のスケルトン兵の一掃を試みる。
「カッカッカッ。ワシが何の盾モ持たぬとでも思っておるのか?盾骸骨兵召喚」
ワイトキングは再び愉快にカッカッと笑いながら右手に作った魔方陣を指でスライドして解き放ち俺と添島の正面に大盾を持ったスケルトン達を複数体召喚した。
俺の正面の地面からしっかりと盾を構えてスケルトン達が待ち構える。
スケルトン達にインプレスエンチャントが命中するも、大盾骸骨兵の護りによって後ろのスケルトン達は護られ、俺に出来た隙を狙いに来る。
厄介だな。
しかし、本命は俺じゃない。
添島も陽動だ。
バックラーアクセラレートの強化版……マジックインジェクションを発動して空中を飛翔する亜蓮が直接ワイトキングを狙う。
「カッカッカッ。無駄ナ事を。ワシが我が身を守る術――」
「影武者」
ワイトキングが抜きでて来た亜蓮を嘲笑うかの様に笑い左手の魔法陣をスライドしようとしたがワイトキングの視線が一瞬揺らぎ、言葉が途中で掻き消される。
今だ!
「加算二重強化 破!」
「爆裂!」
山西がそのタイミングを狙ってバフを俺達全員にかけ、重光が遠隔でワイトキングがいる辺りを爆発させワイトキングがいた周りが黒煙に包まれる、
その威力は以前使った極小炸裂弾とは比較にならない。
勿論、この程度で相手がくたばるとは俺も思っていない。
「注意を逸らすスキルか……?いい腕をしている。だが、ワシに魔法で勝てると思わないで欲しい」
黒煙の中からワイトキングの愉快そうな声が聞こえて来た。
「設置型魔法って知っているかの?それを使ったまでじゃ」
設置型魔法……か?と言う事は……!?
俺はワイトキングのその言葉に嫌な予感を覚えて後ろにステップを踏んで退く。
「良い感をしている。だが、ワシが狙ったのはお主デハ無い。闇霧」
ワイトキングの左手の指は既に魔法陣を発動させており、俺達の後衛職……重光と山西の辺りが黒い霧で覆われてしまう。
そして、ワイトキングの右手には頭を掴まれて、黒い靄で頭を覆われてもがいている亜蓮の姿があった。
俺はいつからか、ワイトキングは近接戦が出来ない物と思い込んでいた。
しかし、ワイトキングの肉体を見たら分かる様に並みのスケルトンとは比べ物にならないくらいに大きい。
何故、それに気が付かなかった?
俺の中で焦りが生まれて冷や汗が垂れる。
俺は次々と生成されて行くスケルトン達を相手にしながら歯を食いしばる。
ワイトキングは次の魔法を詠唱する為に魔法陣を更に展開させる。
「キュイイ!」
「聖属性魔法……!?良イゾ。そうでなくては話にならん。属性耐性」
アクアが虹色のドームを展開して、一気にスケルトン達の動きが鈍るのと共にワイトキングは薄い膜の様な物を生成して羽織る。
「ワシは、お主らヲ成長させる。だが、易々と倒される気もナイ」
ワイトキングは再び笑いながら、左手の細長い指をくるくると回して亜蓮を自らが生成したスケルトン兵を破壊しながら放り投げる。
アクアのドームの影響で闇霧の効果が薄まり、重光達の姿が再び現れる。
しかし、どういう事だ?
ワイトキングの言葉は、俺の中で謎を残した。
俺達を成長させる?
ボスモンスターは、迷宮を守る為……つまり、俺達を強くさせるメリットは無い筈だ。
それとも俺達を動揺させる作戦か?
いや、それとも俺達を強化させても尚勝てる自信があるのか……分からない。
「ダガ、聖属性魔法はワシにとって分ガ悪い」
ワイトキングはそう言いながらも、黒い塊を辺り一面に放出させる。
闇属性版のマルチフレイジングランスか!?
あまりの詠唱の速さに、俺達の攻撃は追いつかない。
弾幕の様に張られる黒い塊を衝撃波で吹き飛ばしても吹き飛ばしても、生み出される。
しかし、添島の方は大分スケルトンを削り終えている。
ワイトキングに近づくのも時間の問題だろう。
俺はその時間稼ぎをするだけだ。
「影武者」
「もう一回同じ手がワシに聞クとでも?」
再びシャドウウォーリアを発動してワイトキングの眼孔を狙う亜蓮をワイトキングは振り向きもせずに腕を亜蓮の方へと振るった。
「なんだと!?」
「意識を持って行かれるならば無意識で攻撃すれば良い事。お主らは考えて攻撃をし過ぎじゃよ」
そのままワイトキングの指から黒い槍が放出されて亜蓮の方へと向かうが、そこに黒い壁が生成されて、爆発する。
山西か!
山西の分子超越でワイトキングの魔法は掻き消された。
「多重雷火槍」
そして、重光の方から光り輝く槍が飛んでいきワイトキングの黒い塊を掻き消していく。
そろそろだ。添島がそろそろスケルトン達の集団を抜ける。
時間稼ぎは十分だ。
「ワシが気が付いていないとでも思ったか?まだ使っていない技があるのじゃろう?出し惜しみしててはワシも本気を出せぬ。不死者復活」
ワイトキングは、添島の方を一蹴して言葉を紡ぐ。
これでも本気を出していないだと?
正直ワイトキングの言う通り、まだ使っていない技はあるが俺達はかなり苦戦している。
ワイトキングの万能な魔法と近接戦闘に、大量のスケルトン達……既に限界に近い。
だが、ワイトキングはまだ余裕だ。
そして、ワイトキングの言葉の直後の俺の視界に大量の影が映る。
嘘だろ……?
そこにはさっきまで、俺達が頑張って倒したスケルトン達がゆっくりだが一斉に復活していく姿が映っていた。