190話 貴族屋敷
「――っ!属性付与 火」
俺は咄嗟にエンチャントを発動させて全身をメラメラと燃やすが耳元から聞こえた声の主は消えなかった。
「あら……あったかいワネ……でも貴方は冷たくなるの……」
そう声が聞こえたかと思えば、視界を手で覆われて……。
「異常回復!」
「――っ!」
重光の声が聞こえて俺は緑色の光に包まれた瞬間我に返り、目の前の涎を垂らしながら噛み付いてくる番犬を捉えて後ろへとステップを踏んで回避する。
二匹の番犬の首からは鎖が伸びており、相手の有効範囲は少ない。
恐らくさっきのは呪いの一種だろうな。
それを、俺はモンスターが取り憑いたのと勘違いをした。
重光のリカバーで解除出来るレベルの魔法で助かった。
そして、再び目の前の二匹の番犬の姿を確認する。
バーミリオンファングか……バーミリオンファングは別名朱色の牙と言われるモンスターで、系統的にはアンデッドモンスターでは無い。
だが、その名前にある朱色と言う所から連想出来るように敵からエネルギーを奪う能力を持つ。
そして、そのエネルギーを奪うとバフがかかる厄介な番犬だ。
体長にして五メートル程で、ビーストグールにも引けを取らない体躯、そして頭のサイズに不釣り合いな程に大きな牙……。
そして、目は赤々と輝いており身体には金属の様な質感を持った甲殻が頭まで覆う様に被さっている。
まるで、甲冑を着込んでいる様だ。
(バキッ)
そして、バーミリオンファングが自身の鎖を食い千切って暴れ出す。
「泥沼生成!」
「グルルルルルルッ!」
バーミリオンファングの足元に重光が泥沼を形成するが、片方のバーミリオンファングが足場となってもう一匹のバーミリオンファングは泥沼を飛び越えて俺達に襲いかかる。
「影武者」
亜蓮のナイフがバーミリオンファングの右目に突き刺さり、影武者を発動させ、山西が分子超越で黒い壁を作りだしてバーミリオンファングはそれに向かって頭から突っ込んで行く。
影武者のせいで完全に方向感覚失ってるな……。
そして、勿論山西が形成した黒壁は耐久性も脆く、爆発してバーミリオンファングを炎に包む。
その間に俺と添島は泥沼にハマったバーミリオンファングを叩く為バーミリオンファングの後ろに回り込んでいた。
「内部圧縮属性付与 氷」
俺は泥沼ごと凍らせてバーミリオンファングを完全に拘束した。
あとは任せたぞ。
「おうよ」
添島は俺の視線を確認して、当然だ。とでも言う様に返事を返して背中の大剣の柄に手をかけてオーラタンクを発動させる。
そして、そのまま走り出してバーミリオンファングの脳天に向かって大剣を全体重をかけて振り下ろしてグチャリと言う辺りに肉が砕ける音が響く。
「あと一匹だな」
「ああ」
俺は添島とハイタッチを交わして後ろのもう一匹のバーミリオンファングを確認する。
目以外は甲冑の様な甲殻が邪魔している為に目潰しを優先したか……。
だが、バーミリオンファング程度の甲殻であれば添島の攻撃力で叩き潰す事は容易い事だ。
やっぱり添島は物理攻撃力最強の名は伊達じゃない。
攻撃だけじゃなくて全体的な能力の水準も高い。
そのまま、バーミリオンファングの息の根を刈り取ろうとした時だった。
「オマエニハモウヨウハナイタマシイヲヨコセ」
突如バーミリオンファングの首の近くに鎌を持った死神の様なモンスターが現れてバーミリオンファングの首元を鎌が通過する。
その直後にバーミリオンファングの目から生が消え、パタリと倒れて動かなくなった。
死んだのか……?
死神は手に赤い霊体の塊の様な物を持ってそのまま城の方へと去って行った。
何だったんだ?
俺達はそのまま貴族屋敷に入って聖属性魔法で浄化しながら中を探索する。
貴族の屋敷って言うくらいだから何か良いアイテムでも見つかれば良いんだが……。
しばらく、探索を進めながらアイテムを探したがどれも実用性の無い物ばかりだ。
金のブレスレットや舞踏会の仮面みたいな物は見つかるが、耐久性は期待出来ない。
少なくとも戦闘用では無いのは確かだ。
そして、呪われた装備品と言う可能性も考慮してアイテム回収はやめておいた。
呪いは程度によっては解除出来るが、呪われた装備品にかけられた呪いは強力な物が多く、俺達ではどうしようもない可能性が高い。
そんなリスクを冒してまで、アクセサリーを付けたいとは思わない。
そして、城へと向かう前に俺達は屋敷内で仮眠を取る事にする。
屋敷内のベッドは使わない。
不気味だからだ。
シェルターは屋敷内でも何が起こるか分からないので展開させて貰う。
見張りは一人立たせて交代制だ。
――しばらくの時間が経ち、見張りの番は俺の番に移った。
「何かあったらすぐ報告してくれ」
「分かってる」
俺はそう言いながらシェルターを出る。
すると、周囲に音楽が流れ始める。
おかしい……聖属性魔法でシェルターに入る前に周囲は一層した筈だ。
しかし、音楽は聞こえたもののその後何かが起こる事も無く俺は交代の時間を迎えてシェルターに戻る。
しかし、何故か中々寝付けない。
そんな中俺の額からは冷や汗が滝の様に吹き出し、体が寒気に包まれる。
だけど、俺は無理やりそんな心を落ち着けて眠りについた。