186話 控炎
いや、待てよ……?
俺は両手に込めたマナの圧力を下げて再び考え直す。
別にインプレスである必要があるのだろうか?
確かに、フレッシュゴーレムとドラウグルと言う、今までのアンデッドモンスターと比べたら多少は強いがアンデッドなのには変わりは無い。
しかも、フレッシュゴーレムに至っては動きは今までのアンデッドと比べてもゆっくりだ。
ガルガンチュアと違ってフレッシュゴーレムは複数の屍肉の集合体で繊維の接合が甘い。
しかし、今一番問題なのは無駄に暴れられて足場を破壊される事……つまり、迅速に片付ける必要があった為に俺はインプレスを使おうとした。
だが、その必要は無かった。
「属性付与 火」
俺は両手を自身の腰の部分の刀の柄に手をかけながら添島と自分にエンチャントをかける。
「ヴァァァァア!」
腕が肥大化したドラウグルが俺目掛けて拳を振るう。
それを見た俺は腰を下げてドラウグルの胴体目掛けてすれ違い様に二回居合斬りを交互に両手で放つ。
「っ!?」
しかし、俺が切り裂いたドラウグルはそのままの姿勢で肥大化した腕をラリアットの様に後ろに振り払って俺を吹き飛ばそうとする。
俺は咄嗟に刀を縦に持ち替えてガードするが後ろに吹き飛ばされる。
こいつら、痛覚が無いのか!?
ドラウグルの身体は切断面から炎が立ち昇っており、煙を上げている。
だが、ドラウグルの動きは一切鈍らない。
不味い。このままだと俺は沼地に真っ逆さまだ。
俺はドラウグルの攻撃の反動で吹き飛んで氷の結晶の上から落ちそうになる。
「内部圧縮属性付与 氷!」
俺は咄嗟にインプレスエンチャントを発動させて更に氷柱を形成して新たな土台の上に着地する。
まさか、再び土台形成の為にインプレスエンチャントを使うとは思ってもいなかった。
少し侮っていたか……?
アンデッドモンスターだからインプレス無しでもそれなりの火力で焼き切れると思ったんだが、痛覚が無いとすれば厄介だ。
「添島!チェンジだ!」
「了解!」
添島は足元の氷を壊しかねないので、大剣を盾のように使いつつフレッシュゴーレムの攻撃を空中に誘導して躱しつつ返し刃でドラウグルを吹き飛ばしていた。
流石は添島だ。
オーラタンクの力を主に上半身に集中させて、地面にかかる力を分散させているのか……。
それでも、その力を支える為に腰部分にはかなりのエネルギーを纏わせているみたいだが、並みのコントロールじゃあれは出来ないだろうな。
添島がフレッシュゴーレムから少し距離をとって後ろのドラウグル達と相対し、俺はフレッシュゴーレムと向かい合う。
何故、俺がフレッシュゴーレムを標的に選んだかと言うと……こっちの方が勝算があるからだ。
俺は再び刀をしまってフレッシュゴーレムを新たに作った氷の土台の方へと誘導する。
俺が狙うのはフレッシュゴーレムが拳を振るって土台を破壊して腕が地面にめり込む瞬間だ。
そこで一気に決める。
マナの消耗も抑えつつフレッシュゴーレムを倒す技が俺にはある。
それにしても、添島の所大変な事になってるな……。
俺がフレッシュゴーレムの方へ行った事により残りのドラウグル達が一斉に添島に群がっている。
俺の方へと向かって来るドラウグルにはいつ作ったのか分からない火薬石の様な物をポーチから取り出して投げつけて爆発させて注意を引いている。
恐らくあれは砂漠の赤月の台地で拾った物だろうな。
あそこは、特殊な鉱石とかがゴロゴロしていたから火薬石の様な物があっても不思議では無い。
アンデッドに対して火薬石も効果抜群の筈だ。
新しいマジックバックが手に入った事によって元から持っていたマジックバックはこのチームの副リーダー的存在で実質リーダーの添島の元に渡っている。
それによって添島も好きなアイテムをそれなりに持ち歩く事が可能になっている。
早速有効活用しているあたり添島はやっぱり頭がキレる。
未だに何で俺がリーダーなのかは分からない。
実際に権限なんて物は無いのだが、言い出しっぺだから仕方が無い。
ただの責任者である。
だが、添島……あんな数一人で相手して大丈夫か?
「ヴガァァァァァア!」
良し!そろそろか?
フレッシュゴーレムをある程度誘導し、俺は足を止めて再び両手を一本の刀にかけてフレッシュゴーレムの方向を向く。
するとフレッシュゴーレムは低い唸り声を上げて両腕を振り上げた。
まだだ。
両腕がもう少し下がるまで……今だ!
フレッシュゴーレムの腕が振り下ろされた瞬間俺は刀に手をかけたまま走り出してフレッシュゴーレムの股を潜る。
(バリイィィィン!)
フレッシュゴーレムの腕は氷に大きな亀裂を入れて新しく作った土台が崩壊して行く。
立ち上がる水飛沫を他所に俺は既にフレッシュゴーレムの背中の後ろで一本の刀を抜き去って言った。
「これで終わりだ」
そして、俺は真っ直ぐとフレッシュゴーレムの背中にレイピアの様に刀を突き刺してマナを込め出力を上げた。