185話 地中襲撃
「属性付与火」
俺は重光に直接手を翳してエンチャントを発動する。
これで重光が自分の力でエンチャントを使える様になる。
そうすれば、体内から熱する事が可能だ。
エンチャント使用者本人や、付与された仲間は余熱で熱を感じるものの燃える事は無い。
それに酸素を燃焼して燃えているのかどうかも分からない。
シェルターの中は空気循環機能が付いているので火を扱う部分では問題ない。
恐らく元々カオストロが魔道具を操作する事を前提に作られた品物だと言う事は言うまでも無い。
そして、カオストロが展開していたシェルターのサイズはこれと比べると比較にならない位に大きかった事からこのシェルターは試作品かと思われる。
取り敢えず、重光本人はエンチャントを発動させる気力が残っていなかった為俺はシェルター内の温度を上昇させる事にする。
頼む……この温度でゾンビウィルスが死滅してくれれば良いのだが……。
俺は両手に灯したエンチャントの火力を上げ、シェルター内の温度をサウナの様に上昇させる。
左手は水属性、右手は火属性……懐かしのスチームである。
俺の手から透明な水蒸気が放出されみるみる内にシェルター内の温度が上昇していく。
湿気もウィルスには良いと聞くが、ゾンビとかのイメージとしては湿気を好みそうな気がするのだが……。
(ドンッ!)
「っ!?」
再び大きな音がして地面が揺れてシェルターが傾く。
まさか!?
「まだか!土台が崩れるぞ!」
外から添島の怒号が響く。
「うっ……」
シェルター内の温度が上がり仲間達の言動が少しまともになってきたもののまだ動ける状況では無い。
一応は成功なのか?再発は……?今は正直それどころじゃ無い。
成功と位置付けるしか無いだろう。
このままじゃ、土台が崩れる!
俺は咄嗟に仲間の全身に火属性のエンチャントを強めにかけて瓶でシェルターを叩きシェルターを収納する。
その瞬間シェルター内にこもっていた蒸気が外気で冷やされて湯気となって大量に放出される。
そして、俺はだらだらと大量の汗を垂らしながら両手を沈みかけた土台に近付けてマナを込める。
「内部圧縮属性付与 氷」
「うおっ!?」
すまん、添島。
お前を巻き込むのは想定済みだった。
成果を得る為には僅かな犠牲は付き物だ。
俺がその言葉を紡いだ瞬間、強烈な冷気が襲って沈みかけた土台を氷柱が繋ぐ。
空気中の湯気も凍り、土台は巨大な氷の結晶へと変貌を遂げる。
「すまない。必要な犠牲だ」
俺は近くで冷気に巻き込まれて氷柱の一部となったものの力づくで抜け出した添島に手を触れて解凍する。
「はぁ、はぁ……分かってる……だが、今はそれどころじゃねえ!」
添島は息を切らしながら氷の結晶の下を眺めている。
あの添島が息を切らしている?ただ単純に寒いだけじゃなさそうだ。
さっきの敵襲の件か……?
まだ、敵は地中にいるって事かよ……。
俺はエンチャントによって氷が鎌倉状になって守られている仲間達を確認して胸をなで下ろす。
仲間達の所にはアクアが付いており、安全は確保されている。
足場は先程よりも大分広くはなったものの強度は物足りない。
添島とかが本気で踏み込んだら崩落する可能性が高い。
(ビキビキビキビキ)
「来たか……」
「ああ、奴が来るぞ。何体か地中に沈めたが、どんな生命力をしているのやら……」
は?お前単騎で、何体か沈めたのかよ……。そこはもう突っ込まない。
添島だから。
ただ、俺は添島が現時点で自力で火属性を使えない事は把握済みだ。
つまり、アンデッドモンスター相手には分が悪い。
地面の氷に亀裂が入りその亀裂が大きくなっていく。
幸い、そのヒビの位置は氷の結晶の端の方なので、この氷の土台が崩落する事は無い。
「ヴガァァァァア!」
「来たぞ。戦闘準備だ」
マジかよ……添島良くコイツら相手に出来たな……。
目の前には高さ約五メートルは有ろうかと言う不気味な姿をした死肉の塊と、それに追従するかの様に付いて来るある一部分を除いて普通のゾンビの姿をしたモンスターが複数体いた。
ゾンビの姿をしているモンスターは腕が巨大化しているものもあれば頭が巨大化しているものまで多種多様だ。
巨大化部位を含めると体長二メートルを超えるものもある。
それをジジイはドラウグルと呼んでいるらしい。
そう図鑑に書いてあった。
特徴としては、どこか身体の一部分が黒ずんで肥大化しており口からは何かの酸を吐くらしい。
そして、ドラウグルはその肥大化した部位の性能が軒並み高く、ゾンビと同じと思ってかかると痛い目を見るという。
目の前にいるドラウグル達の身体には複数の傷が入っており添島が付けた傷跡と思われる。
そして、目の前にいる死肉の塊はフレッシュゴーレムだ。
近くに死体があるとそれを吸収してどんどん肥大化するゴーレムでそいつを倒すには少しずつ肉体を削って消滅させるか、体内の魔石を砕いて焼却する必要がある。
少なくとも物理のみで倒せる相手では無いのは確かだ。
ドラウグル自体も死体が変異を起こしてこの姿になる筈だ。
そこで俺の中に心当たりがあった。
あの時の襲撃か……あの時倒したゾンビ達はやられてなかった?
だが、俺は確かに白骨鮫ごと焼却した筈だ。
もしかしたら沼地に落ちた事で不完全燃焼だった可能性がある。
もし、そうだとすればコイツらも倒す時にしっかりと焼却する必要があるな……。
二人でコイツらの相手は厳しい。
早く重光達が復活してくれる事を願って俺は両手にマナを込めた。
俺が使えるマナは残りインプレス数発分……いや、出来ればそれくらいで終えるのが理想だ。
それ以上だと、夜が厳しい。