182話 底なし沼
「うわ、マジかよ……」
四十三階層に来た俺達は眉を顰めて嫌そうな声を漏らす。
俺の鼻にはツンとした物が腐敗した様な匂いが感じ取れ、嫌悪感を剥き出しにする。
そして、空気は黄色く澱んでおり小さな虫がブンブンと羽音を立てて飛んでいた。
凄え帰りたい。
ここの階層は、沼墓かよ……死の沼か?
だが、このままだと匂いの問題や瘴気の問題もあるな。
恐らく、この瘴気や匂いはアクアと俺のオリヴィエで何とかなりそうだが沼の深さとかは大丈夫か?
「アクア。軽減を頼む」
「ギュイ!」
アクアの鳴き声でオリヴィエを発動し、虹色のドームを展開する。
これで瘴気は軽減出来るし、アンデッドモンスターも弱体化させる事も出来る。
相変わらず強力な能力だ。
「うおっ!?」
俺は足を沼に踏み入れた瞬間沼の中から出てきた腕に足を掴まれ沼に引きずり込まれる。
多少驚いたものの、アクアの聖属性のドームによって弱体化したアンデッドの腕は貧弱で、エンチャントを使うまでも無く、力付くで振り解く。
マジか……。
この感じだと、沼地階層の様にずぶずぶと沼に浸かって進む方法は無理か……。
また沼ごと爆発させる方法を取ろうかと考えるが、先程の感じからして沼地の深さは未知数だ。
それに、高温になった沼地を渡るのは現時点では逆に苦行ルートになりそうだな。
そうなると、やっぱり重光しかいないか……。
俺はそう思って重光を見る。
「そうね、私が魔法で足場を形成するのが一番有効ね」
重光は、もう考えていた様で土魔法で足場を形成する。
これで沼地を進む事は出来るようになる。
だけど、その分デメリットもあるのだ。
地中からのアンデッドや上空からの攻撃に注意するのは当たり前として、常に足場を形成している重光の支援にはあまり期待出来ない。
それに、流石に今までの迷宮探索の経験上この階層を一日で踏破出来るとは思えない。
故に、途中で仮眠などの休息を取る場合不安だ。
陸地がどこかにあれば良いのだが、全て底なし沼って可能性もある。
休む為には大きめに、足場を形成して壊されない様に見張りを置いて休む位しか無い。
そして、アクアと俺しかオリヴィエを使えない以上恒久的にマナを使用する事になる。
あまり、いつも通り無駄遣いは出来なさそうだ。
何か、今の気分としてはバ◯オハザードをプレイしている感じだ。
いつどこから敵が出てくるか分からない。
基本的に、俺は常に両手にインプレスエンチャントの準備をしながら重光が形成した足場を進んでいく。
山西も、新しく覚えた分子超越の準備をしていつでも準備万端だ。
エンチャントを先に皆んなにかけておいても良かったかな……?
亜蓮とか添島は属性を持ってないから、アンデッドと相対した時多少不利になるな。
まぁ、亜蓮がいれば見える敵からの攻撃は殆ど食らう事は無いと思うが、今回添島は不遇かも知れない。
大剣と言う、振り幅の大きな武器を持っている以上狭い足場だと戦い難く、遠距離攻撃手段もオーラブラストなどの多少広い足場を必要とする技ばかりだ。
最近見ていない螺旋衝撃波も一応遠距離攻撃って言ったら遠距離攻撃だが、アンデッド相手に内部ダメージを期待しても仕方がないだろう。
それに螺旋衝撃波はダメージが伝わるまでの速度が遅く、攻撃を食らってからでも実は回避出来てしまう為、本来使い勝手はあまり良くない。
添島の身体能力あってこその技なのだ。
さてと、確か沼地階層では沼地内のモンスターは大体姿が見えたが、今回は姿が一切見えない。
まず、沼地自体が澱んでおり泥から下の浸透度はゼロに近い。
そして、アンデッドが主体な事もあり呼吸を必要としない為、呼吸で出来た空気の穴などが存在しないのだ。
「ゔあぁぁぁあ!」
たまに重光が作った土台にゾンビが乗り上げて来るが、速攻焼き落とされる。
そんなに強い敵も出てこないので、俺も既にインプレスエンチャントからただのエンチャントに切り替えている。
そして、目の前から大きな白骨の背骨が近づいて来た。
あ、これヤバイかも。
何か、緊迫感のある音楽が流れそうな感じだ。
そして、その背骨は俺達の正面で飛び上がって大きな口を開ける。
でけーな。
ジ◯―ズかよ……。
「内部圧縮属性付与 火」
流石に、ただのエンチャントでは押し返せずに土台ごと陥没させられかねなかったから俺はインプレスエンチャントを発動させて白骨化した巨大鮫を爆炎で包み、粉砕する。
あれ?意外に脆い……?
しかし、様子がおかしい。
バラバラに粉砕した骨はそのまま小さなピラニアの姿に変化して再び俺達を襲う。
恐らく、あの脆さは聖属性魔法で弱体化したのはあるだろうが、分裂するのか……。
面倒だ。
本来ピラニアは大人しい生物で死肉位しか漁らないらしいがこいつらは違うらしい。
高く、飛び跳ねて俺達を狙ってくる。
それを俺達は次々と迎え撃つが、俺の目はあるものを捉えた。
うわ……面倒くせぇ……。
正面からは大量の背びれが見えており、白骨鮫が沢山いるのが見えた。
そして、土台の周りからはアンデッドの腕が伸びて来ており囲まれた事が分かる。
アンデッドって生きている奴らに寄って集る習性があるから仕方ないと言えば仕方ないんだが……。
アンデッドって面倒くせぇ!
俺は今更心の中で叫びをあげたのだった。