181話 慰め
そろそろ、森墓も抜ける筈だ。
ノーヴィスブードゥー達の召喚の儀式の所為なのか森はシンと不気味な位静まり返っており、モンスターの気配は感じられない。
それにしても、いきなり色々起こりすぎてて今俺の脳内は混乱している。
山西の件もだが、アクアの聖属性発覚、そして、謎の死族達の行動……。
取り敢えず、俺は山西に詳細を尋ねる。
「山西、ちょっと良いか?」
「ごめんね。何も言わずに出てしまって」
「え?」
俺はまだ何も言っていない。
だが、山西は俺の目を見て頭を下げた。
正直俺は山西が何故謝っているのか分からなかった。
あの時、実際俺も何も言わずにみんなをシェルターに避難させて独断で作戦を決行した。
いつも、俺はそうだ。
だが、みんなはそんな俺を信じてくれている。
だから、何も言わなくても伝わる。
そう思っていたのだ。
だから、今回は俺が悪かったと思っている。
しかし、山西の話す事は俺が予想している事とは違った。
「私、みんなに嫉妬していたの。私いつも戦闘面でも生活面でも約に立ててないから、だから!レイスに取り憑かれた時も、レジストしなかった!」
そこで、俺は気が付いた。
やっぱり何だかんだこの迷宮に慣れてきたとは言っても自分の事でみんな精一杯なんだつて。
勿論俺もだ。
山西の気持ちはよく分かる。
俺だって最初は添島や重光に嫉妬していた。
やるせない気持ちを感じていた。
しかし、山西もずっとそんな気持ちだったんだな……。
「っ!?」
俺はそっと何も言わずに山西を抱きしめた。
山西は何も言わずに目を見開き、俺の身体を抱きしめ返す。
そして、俺は口を開く。
「大丈夫。足手まとい何て思った事は無いから。みんなで強くなろう」
少し前にちょっとだけ足手まといと思った事があったが、あれはノーカウントだ。
あれは俺の心の中にそっとしまっておこう。
山西は、落ち着いたのか笑顔でこう言った。
「ありがとう」
「ちょっと良いか?」
少し時間を空けて添島が気まずそうに俺達に話しかけ、俺と山西もこの状態に気が付き頰を赤らめて少し距離を置く。
やべぇ……。俺何やってんだ……。
これ、俺と山西のキャラじゃねえぞ……恥ずかしい……だが、これで山西の心が和らいだなら別に良い。
「さっぱり状況が分からないんだが、俺達がシェルターに篭ってる間何が起こった?」
そうか、俺と山西以外は山西覚醒の出来事を知らないのか……。
いきなりシェルターが、開いたらアンデッド達が燃えててノーヴィスブードゥーが召喚の儀式を行なってたって感じだからな……。
「詳しく説明すると……」
――
「成る程な……」
俺が状況を説明すると、魔法職の重光でさえ頭を抱えて悩んでいる。
直接見た俺でさえ何が起こったか分からなかったからな……。
まぁ、本人に聞くしか無い気がする。
と言うわけで結局山西本人に説明して貰う事になった。
「私がこのスキルの可能性を感じ始めたのは、レイスに取り憑かれた時よ……」
まぁ、そうだろうな。
いきなら覚醒すると言う事は何かキッカケを掴んだと言う事だ。
そのキッカケを考えるとレイスに取り憑かれた位しか思い浮かばない。
「レイスに取り憑かれた時に私はレイスの力を借りて魔法を放った……その時に感覚を感じた……」
「まるで、私のマナに呼応して空気が揺らめくのを……。それが、私は魔法を放つ時の感覚なのかと思った」
「だけど、レイスから解放された後にマナを込めても空気が少し揺らめくだけで、炎は起きなかったの」
つまり、それはレイスの魔法の力を使わないと魔法が撃てなかったと言う事になるな。
だが、マナを込めると空気が揺らぐ?
まず、山西のマナの量と制御力から考えてマナを少し込めた程度では空気は歪まない筈だ。
重光なら意図して揺らがせる事は出来るだろうが、山西にそれが出来るとは思えない。
「そして、安元君が出て行った時に私も焦っていたのか咄嗟に身体が動いた……そして、マナを収縮させた瞬間私は気が付いたの」
「私の新しい能力……分子超越にね」
いやいや、何?モレ何とかって?
俺が理解していない中、添島と重光は分かったような顔で頷いている。
「つまり、分子の限界を超えた性能を引き出す能力って訳ね」
「多分そうだと思うわ」
分子の限界を引き出す能力?つまるところどう言う事だ?
「例えば水素などを急速に分子の限界を超えた速度で動かす事によって沸点を超えた温度の水を空気中で作り出したり出来るって事だろ?」
「まぁ、この世界でも分子が同じとは限らないし、水素だけ加速させても爆発するだけだろうけどな」
俺はそれでやっと理解する。
それ、結構チートじゃね?つまり、俺の時は空気中の炭素を急速収縮させたり、加速させたって事か?
だから山西の手とか火傷してたのか……。
ただ、多分制御は難しいだろうし添島が言った通り異世界の分子がどんなのか分からないし、性質を理解していなけば上手く使えない。
更に元が分子由来故に、火力はそこまで期待出来ない。
所詮サポート職だ。
だが、山西の基本的な役割としては適していると言うのだろうか?
この技に関してはぼちぼち研究していく必要がありそうだ。
「お、そろそろ森を抜けるぞ」
添島が目の前の階層の狭間を指差し、俺達は四十二階層の階層を抜ける事に成功する。
依然山西の技の詳しい詳細は本人でさえ分からないままだ。




